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不幸

「お前が『ああああ』か?ふざけた名前だな」

「格好良くノーネームとか呼んでくれても良いんだよ?」


 意味する所はA.Aとかと同じで『誰でも無い』みたいな感じなんだろうけど…。でも、『誰でも無い』と言うよりは『どうでも良い』っていう感じがするな。


「そんな事より、俺とお前は初対面だと思うんだが?」

「透君は寂しい事を言うなぁ。俺は君のおしめを変えてやった事だって有るんだぜ?でもまぁそりゃそうか。透君は小さかったもんな」


 なんか親戚のおじさんみたいな事を言って来た。幼稚園児の見た目なのに…。

 こんな幼児が俺のおしめを変えたって…おかしいだろ。


 でも、もしかしたら見た目と精神年齢が違うのかも知れない。何だか口調が変わってきたし、それに…。


「『ああああ』ってネーミングセンスはファミコン世代なのか?中身はおっさんぽいな。感性が古いだろ…」

「グハァ!!まさか会心の一撃を喰らうとは…」


 正解か。ファミコンのロールプレイングゲームだと勇者の名前を『ああああ』でやる人がいたらしいって聞いた事がある。和也情報だから信憑性は分からないけど…。


「名前からすると、お前は千年前の勇者なのか?その姿もそれに関係が?」

「お、正解!俺は転生を繰り返してるんだよ。って事で、もう子供口調はやめて良いよな?」

「とっくに止めてるだろ…。口調は好きにしろ。それよりお前に聞きたい事がある」

「お、何だい?」


 先代勇者の行動で理解に苦しんでいることが幾つかある。獣人の迫害や武尊おじさんとの戦争。その中でも1番理解できないのがコレだ。


「ゼノン教は何のために作ったんだ?何が目的なんだ?」


 すると、先代勇者はニヤリと笑ってからハッキリとこう言った。


「みんなの幸せのためさ!」


 やはり理解できない…。


「ゼノン教は信者を虐げて搾取を繰り返しているだろ!?何が幸せの為なんだ!」

「あー、若い。全然分かってないなぁ」


 幼児から若いって言われた…。いったい何が分かってないって言うんだ?


「それじゃあ聞くが、その虐げられてた人達ってのは自分を不幸だと思ってたのかね?」

「それは…断言はできないが辛くて苦しい状態ならそうなんじゃないのか?」


 俺は当事者ではないので人の気持ちを勝手に決め付けるのは躊躇(ためら)われる。だけど、想像すると俺には不幸にしか感じられない。


「俺は断言するが、思ってないね。その理由は2つある。分かるか?」

「さあな。勿体つけずに言ってみろよ」

「ははははっ!もっと会話を楽しもうぜ?まぁいいや。まず1つ目が文明レベルの低さだ」


 そりゃあ今の日本と比べれば低いとは思う。でも、だからどうしたって言うんだ?


「特に低いのが精神文明レベルだ。何故か?この世界には魔物がいる。亜人がいる。地球よりも日常的に身近で常に争いが起きてる。つまり、幸福論とか思想を巡らせてる余裕が無いんだ」


 そもそも『幸せ』について考えてる人が少ないって言いたい訳か。でも…。


「全くいない訳でも無いだろう?」

「そうだな。だが地球よりも少ないし、情報が広まるのも遅いし、そんな綺麗事を聞いても明日の命も知れない人々の心には響かない。結果、民衆は幸せ(・・)という概念をそもそも知らない」


 事実は分からない。もしかしたらそうなのかも知れない。でも、事実だったとしても、知識の無い人が多いんだとしても、だから不幸を感じないって訳じゃない!


「知識としては無くても、実際に幸せを感じる心はある!」

「うんうん。なるほど、その通りだ」


 先代勇者は、やけにあっさりと納得して頷いている。どういう事だ…?


「実はそれが2つ目の話になるんだ。何かと言うと、不幸ってのは相対的なもんなんだよ」

「そうか?周りがどうであれ自分が辛ければ不幸だと思うが?」


 俺の発言を聞いた先代勇者は額を押さえながら溜息を吐いた。


「そもそも不幸ってのは自覚しないと始まらない。そして、不幸だと認識しちゃうとそこから辛くなっていくんだ。で、不幸を自覚するのが他人との比較なんだよ」


 何だろう…。分かる気もするんだが、納得行かない気もする…。


「いいかい?生まれた時からそれが普通で、周りもみんな同じで、それ以外を知らないんだから、不幸なんだと気付ける訳がない。だから苦しまない。むしろ楽しさを感じてる奴だっている。だが、羨ましい奴が近くに居ると、それと比較して不幸だと自覚する。嫉妬する。そして、苦しむ。分かるかい?」


 確かにその理屈は分かるが…。とても、それで良いとは思えない…。


「それは、もっと幸せな事が有るんだって教えてあげるべきなんじゃないのか?」

「何故そんな酷い事をするんだ?余計な知識は不幸の元だ。アダムとイヴの知恵の実だよ。それにな、不幸である事は逆に幸せに対して良い効果があるんだ」

「は?それはなんだ…?」


 不幸だと幸せ?意味が分からない…。しかし、先代勇者は自信満々の顔で答えを返した。


「幸せのハードルが下がる!」

「………は?」

幸せ(・・)ってのは日常との対比なんだ。日常よりも良い事があると嬉しくなる。だから、日々が辛い方がちょっとした事で幸せを感じられる様になるんだよ!」


 なんだ…。その部分だけを聞くと理屈が通ってる様に感じるけど、根本的に主旨を間違えてる気もする…。


「ちなみに、敢えて不幸(・・)って言ったけど、それは俺達が比較できる『幸せな状態』を知ってるから俺達にはそう見えるだけだ。俺達の感覚でこの世界の人間を勝手に不幸扱いする方が、見下してるみたいで俺はどうかと思うぜ?」


 そうなのか?俺はある種の偏見を持ってるのか?差別なのか?見下しているのか?

 当然そんなつもりは無いんだが…。


「と言う事で、みんながちょっと不幸な状態に統一されると幸せの総量が最も高くなるんだ。不幸な事は感じず、幸せはいっぱい感じられる。統一されるって所がポイントだね」


 先代勇者の言う事は理性で理解はできる。しかし納得はできない。どんな理屈を並べてもゼンノ教の支配者達は甘い蜜を吸ってるじゃないか…。


「統一…されてないだろ。比率が日本と大きく違うだけで、不幸の上に特権階級がいる。そして、お前もそっち側だ」

「誤解があるなー」


 先代勇者は少しイライラした感じで頭を掻いた。幼児の見た目に対して不釣り合いな仕草だ。


「まず、比較する対象は自分が認識できる範囲になる。観測範囲と言っても良い。だから特権階級と比較して不幸を感じる事はないと思うぜ?」


 確かにネットもスマホも無いこの世界では、遠く離れたゼノン聖教国の支配者達がどうしてるかなんて知りようもない。


「それと、特権階級が羨ましいかと云うとそうでもないんだせ?先頭で道を切り開くやつは辛いもんだ」

「それは人によるな…。とくにこの世界は甘い蜜を吸ってるだけの奴が多い様に感じる。それに、不幸な事に気付けないのはやはり不幸な気がするし、何が幸せなのかは自分で判断してもらいたい」


「なるほどね。視野の違いだな。俺は世界の総量で考えてる。透君は個人レベルで考えてる。まぁ指導者じゃないから透君の意識レベルが低いのは仕方ないか。千年前の国王とかは理解してくれたんだけどねぇ」


 先代勇者が本当の事を話しているのか怪しい所だ。でも、とりあえず考え方が全く噛み合わない事は良く分かった。


「さて、ゼノン教の事はそろそろ良いかい?で、透君の質問に答えてあげたんだから、俺の質問にも答えて欲しいんだけど?」

「なんだ?」


 まぁ何でも聞いてください。本当に聞くだけかも知れないけど。


「俺の予想としては万代が魔王として召喚されると思ったんだけどな。なぜ透君が召喚されたんだい?万代はどうした?」

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

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