正義
※今回は隼人視点になります。
「隼人、大丈夫か?」
「あ、あぁ。白鳥さんを怒らせてしまった…。俺は何やってるんだろうな…」
パーティごとに分かれてダンジョンを進み始めた所で龍彦が話し掛けてきた。かなり落ち込んで見えたんだと思う。心配を掛けたみたいだ。
「あー、念のための確認だけどよ?隼人は高杉の失踪に関わってねーよな?」
「何で…それが気になったんだ?」
「さっきの魔族との会話がよ。まるで高杉に死んでて欲しそうに聞こえたんだよな…」
俺は魔王である高杉を倒した。それは正義のはずだ。隠す必要なんてない。だから、龍彦には話しておいた方が良いのかもしれないな。
「当然無関係に決まってるだろ?さっきのは我を忘れての売り言葉に買い言葉さ…」
あ……れ?俺は何故こんな嘘を…。
「そうか。それなら良いんだけどよ。なんだか最近の隼人は冷静さを失う事が多い気がしてな」
「こっちの世界に来てから何だかな…」
「まさか…勇者の力を持っちまったからか?宝くじに当たった奴が性格変わったりするとか言うじゃねーか。言うか迷ったんだけどよ…」
「なんだよ…」
「時々、親父さんみたいたぜ?」
龍彦の言葉に、一瞬で頭に血が上るのを感じる。俺は無意識に龍彦の胸ぐらを掴んで壁に叩き付けていた。
「え?ちょ…急にどうしたの?」
「隼人君、龍彦を離すんだ!」
パーティメンバーが俺達に心配した目を向ける。そして、俺に胸ぐらを掴まれたまま龍彦が呟いた。
「こういう所だぜ?」
「はぁ…はぁ…はぁ……」
本当に俺は何をやってるんだ…。
俺は掴んだ手を自力で開けないでいた。龍彦は冷静に俺の手を取ると、指を一本ずつ外していく。
そして全ての指を開くと、俺の腕を下させてから両方の二の腕を横からバンッバンッっと叩いた。腕の感覚が少しずつ戻ってくる…。
「龍彦…悪い……」
「いや、隼人が冷静でいられなくなるのが分かってて言った俺も悪りぃ。でもよ、隼人は親父さんみたいには成りたくねーんだろ?」
「あぁ。俺は正義にならなきゃ駄目なんだ…」
「だったら、頑張ろうぜ。俺はどこまででも協力するからよ」
「龍彦…ありがとう…」
正義…。正しい義。『義』は道徳を守って悪を滅する心のはずだ。だから、正義を示す為には…悪を倒さないと…。
悪を倒す。悪を倒す。悪を倒す!悪は全て倒す!!それこそが俺が正義である証明だ!!
「隼人くん…大丈夫?」
「みんな悪い。もう大丈夫だ。龍彦と話してた内容だけど…気になると思うけど忘れて貰えないかな?」
「え?あ…うん」
うちの家庭の事は、みんなが知るべき事じゃないから…。
「それじゃあ先に進もうか。さっさと踏破して地上に戻ろう」
「おぅ!」
それから何度か魔物に襲われたがCランク以下ばかりだった。いきなりSランクと出会う可能性もあると脅されていたが、あくまでレアケースみたいだ。
そして、外では夜であろう時間になると交代で見張りを立てて休憩を取る事にした。こういう時、俺はいつも真ん中だ。女性陣には連続して寝てもらえる様に最初と最後を担当してもらってる。
ところが、俺が見張りをしていると寝てるはずの九嶋羽衣がやって来た。いつも献身的に協力してくれて助かってるけど、何かあったのか?
「九嶋。どうしたんだ?」
「えっとね…その、ね…。隼人くんと2人で話したい事があって…」
2人で?みんなの前では話し辛い内容って事か。
「寝なくて大丈夫なのか?」
「うん、少しくらいなら。いま話しておいた方が良いと思うし…」
「そうか。まぁ俺は見張り時間だし大丈夫だよ。で、話って何だ?」
九嶋は焚き火を囲む様に座ると俺に話しを始めた。
「今日、龍彦君と揉めてたでしょ?」
「揉めたと言うか…」
「ううん、大丈夫。分かってるから」
分かってる?事情を知らない人には理解できない内容だと思うんだが…。
「私ね。隼人くんの家のこと、知ってるよ?」
俺は血の気が引いていくのを感じた。貧血で倒れそうだ…。
「な、なんでだ?普通に生活してたら関わる事なんて無いだろ?」
「えへへ…。えっとね、調べ…たの」
「そんな危険な…。新聞記者の真似事みたいなものか?下手したら殺されてるぞ?」
時々、噂話から親父の事を調べ始める奴がいる。その中でも知り過ぎた奴は…たぶん海で魚の餌になってると思う…。
「あ、違うの。隼人くんのお父さんを調べてた訳じゃないんだ。結果的に知っちゃっただけで…」
「ん?じゃあ何を調べてたんだ?」
「えっと…。隼人くんの事をね…調べてたの」
は?俺の事を??
「隼人くんは白鳥さんの事しか見えてないから知らなかったでしょ?私が…隼人くんの事を好きだって…」
「悪い…知らなかった…」
でも、好きだからって調べたりするものか?するものなのか…。俺がよく分かってないだけかもな…。
「でも、親父の事を知ったんなら俺の事なんて嫌になったろ?」
「んーん。お父さんの事があるのに、それに流されないで正義を貫こうとする隼人くんの事を…余計好きになった」
「………。」
「白鳥さんじゃなきゃ、駄目なの?」
そんなの、回答は決まってる。
「気持ちは嬉しいが悪いな」
「だよね。分かった。違う…分かってた。でもね、付き合ってなんて言わないから、出来る事があれば私も頼って欲しいな」
まさか、こんな理解者が近くにいたなんて完全に予想外だった。
「いつも助けられてる。ありがとう」
「えへへ…。隼人くんにお礼言われちゃった…」
ところが、九嶋とそんな会話をしていると微かな物音が聞こえてきた。
カタカタカタカタ…。
「ん?いま何か音がしなかったか?」
「うん。私も聞こえた…」
『勇者…勇者だ…』
『勇者がいるぞ…』
『我等を地獄の底に落とした犯人だ…』
『復讐だ。我々の恨みを晴らすのだ…』
ダンジョンの地面や壁からガイコツや腐った死体が湧き出てくる。こいつら…アンデッドモンスターか…。
「きゃーーー!!」
「九嶋!龍彦達を起こしてくれ!」
どんどん湧いてくる…。ここは太い通路だが、その中を埋め尽くさんばかりだ。まさにホラー映画の世界だな。
「起こしに来なくて大丈夫だぜ。こんだけ騒がれたら流石に起きる。で、隼人、どうする?」
「龍彦!助かる!周りを囲まれてて範囲攻撃をすると巻き添えが出る!各個撃破していくしかない!」
「マジかよ…」
俺達が長期戦を覚悟したその時、魔物達の中から格の違いを感じさせる魔物が現れた。デュラハンを両横に従えている。
『皆の者、静まれ。先ずは我に話をさせよ』
すると、囲んでいた魔物達が数歩下がって距離を取った。
こいつがアンデッドのボスみたいだ。初めて見るが、たぶんリッチだと思う。アンデッドの王とか呼ばれてる奴だな。
『勇者と似た魔力を持つ者よ。お主は何者だ?』
「はっ。まさか魔物とお喋りする日が来るとはな。俺は正真正銘の勇者だ」
『ほほぅ?獣人とて喋ると思うが?』
獣人を魔物扱い…。こいつもアクル王国と同じ考えなのか?
「獣人は魔物じゃないだろう?」
『かかかかっ!これは面白い。外見も内面も別人に見えるが転生でもしたのか?』
「お前が言っているのは何年前の話だ?俺はハヤト・ジョウノウチ。数ヶ月前にこの世界に来たばっかりだぞ?」
俺の言葉を聞いたリッチは、顎に手を置いて考える仕草をしている。
『はて、あれからどれ程の年月が経過したものやら…。しかし、我等が知る男とは別人の様だな』
「お前らこそ何者だ?ただのアンデッドでは無さそうだが?」
『我等か?我等は正義の名の下に勇者によって戦場へと送られた愚か者の成れの果てだ。煽られ、騙され、無謀にも魔王へと突撃させられた…な』
「千年前に勇者と共に正義のために戦った人間か…」
『正義のために…。まぁそうだな。勇者の言う正義とは、勇者に都合の良いルールを守り、勇者にとって都合の悪い者を倒す事だったみたいだからな』
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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