道化
※今回は和也視点になります。
「た、立花さん。何で敢えてそんな道を選んだの?」
「だって、危ないでしょ?そいつらを潰しておかないと、ココを起点に各道に入ってみんなの背後を取られちゃうよ」
どうやら立花さんは、みんなの安全の為に敵を引き受けるつもりみたいだ。一瞬『単純に暴れたくなったのかな?』とか思っちゃってゴメンなさい!
でも、それなら別に俺達だけで戦う必要は無かったんじゃないかな?
「みんなに伝えて全員で対処した方が良かったんじゃない?」
「どうかなぁ…。百体くらいだったら大丈夫だと思うんだけど、ぐちゃぐちゃな感じになってお爺ちゃんとか中谷さん達が危なくなる気がしたんだよね」
お爺ちゃんって…。でも、俺もマーロン学園長がオーガに殴られたら一発で死んじゃうと思う。って言うか、デコピンでも無理なんじゃないかな?
あと、中谷さんは賢者パーティの後衛なんだけど、確かに後衛3人組はオーガの攻撃には耐えられないかもしれない。
「ぐちゃぐちゃって、何体くらい来てる感じ?」
「えっとね。千体くらいかなぁ」
「マジで!?よくそんなに通れるね…」
オーガは一体一体が巨体な訳だけど、それが千体も一緒に穴の中を移動するって押し合い圧し合いになりそうな気がする。オーガ同士で喧嘩になったりしないのかな?
「この道ってね、ちょっと行った所から先は凄く太くなってるみたいなの。それと、たぶんリーダーが指示を出してて規律正しく進んでるみたいだよ」
「それで立花さんは大軍って言ったんだね。じゃあ指揮官としてジェネラルもいる感じかな?」
「たぶんキングもいる」
俺の質問に回答したのは仁科さんでした。
「仁科さん。何でそう思うの?」
「千体の統率はジェネラルには無理。最低でもキング。もしかしたらロードが居るかも」
仁科さんはダンジョン内での斥候を担当していたので、魔物の特徴とか行動パターンとかの勉強を凄く頑張ってた。仁科さんがそう言うのなら、そうなんだと思う。
キング付きの千体かぁ…。体力も魔力も無限な訳じゃないから厳しいんじゃないかな?どこかの誰かが『戦いは数だよ兄貴』って言ってた気がするし…。
「それは…俺達でも結構キツくない?」
「うん。だから、和也くんが全力を出せる様にしなきゃって思ったの。和也くんの魔法はみんなには秘密だから私達だけで戦おうと思ったんだけど…駄目だったかな?」
確かに、みんなが居ると俺は無属性魔法しか使えなくなっちゃう。そうなると、立花さんが言ってたグチャグチャな状況に成り易くなって、事故が起きるかもしれないと…。
つまり、俺の頑張り所って訳ですな!良い所を見せるチャンスって事ですな!
「分かったよ。できる限り頑張ってみるね」
「和也くん、ありがとう!」
「ねぇ、和也くんにお願いがあるんだけど」
おや?仁科さんが何やらお願いがあるらしい。珍しいな。
「うん。何だろう?俺にできる事なら」
「ピエロ服で戦う所を見てみたい」
「………え?それはちょっと…。あの服は恥ずかしいんだって…」
本職の人がピエロ服を着るのはカッコいいと思うけど、あの服はそういう問題じゃないんだ…。
「誰にも見られてないから良い機会だと思う」
「必要がなければ着たくないんだけど…」
「今は危険で必要な状況。ちょうど使い所じゃないかな」
今日の仁科さんは押しが強いな…。
実はあの服って変な機能が付いてて、それが特に恥ずかしいんだよね。もはや呪いと言っても良いレベルなんだけど…。
そして、俺がどうするか迷っていると、立花さんがタイムリミットを教えてくれました。
「和也くん。もうすぐオーガが到着するから着替えるなら急いだ方が良いよ?」
確かに遠くの方から地響きみたいのが聞こえてきた。仕方ないなぁ…。
「分かったよ。ただ、どうなっても俺に文句言わないでね?」
「え、何?その不安になる前置き。怒るかどうかは内容によるよ」
そりゃそうか…。まぁエロ関係じゃないから大丈夫かな。
俺はアイテムボックスからピエロ衣装と同じストライプ柄の大きな布を取り出した。それを頭の上に広げて自分自身に覆い被せる。
「え?何やってるの?」
そして布をバサッ!って払うと、中からはピエロ服を着た俺が現れた。顔は白塗りな上に目や口を強調したメイクになっている。
「手品?って言うか一瞬で顔までペイントしたの?」
「ククッ♪この服はこういう仕様なんだよーん♪」
俺の発言に、その場の空気が凍りつく…。
「何?その気持ち悪い笑い方とか喋り方は…」
「だーからー♪この服を着るとこんな感じになっちゃうんだよーん♪」
いや、マジなんだよ!何を思ってこんな機能を付けたのか分からないけど、行動補正を掛けられちゃうんだよ!
だから着たくなかったんだってば!!
「って言うか、本当に和也くん?何だか和也くんじゃないって気がしてきちゃうんだけど…」
「ククッ♪認識阻害の効果だよん♪精神干渉して正体を分かり辛くする機能が付いてるのさーん♪」
ぐあぁぁぁぁぁ!恥ずかしい!恥ずかしいのにこういう喋り方になっちゃう!ホント何なのこの行動補正は!!
「鑑定できなくするだけじゃないんだね。マッドピエロって感じなのかな?正体を知ってると痛々しいね」
「ある意味、本当にピエロ」
「2人とも言い過ぎだよ。たぶん正体を隠して行動したかった人が作った服なんじゃないのかなぁ?」
立花さんと仁科さんの言葉が俺の心を深く抉った…。
白鳥さんの言う様に行動補正や認識阻害も身バレ防止機能の一環なのかな?でもこれ、戦闘にも影響が出るんだよね…。
「とりあえず、和也くんには手下達の注意を引き付けて欲しいの。数で負けてる場合の王道だけど、頭を倒せば瓦解すると思う。隙を突いて私が敵のリーダーを討ち取るよ!」
「ほほーい♪じゃあ最初は見ててねーん♪」
嫌そうな顔をしてる仁科さん(自分が着せたんじゃん…)にウインクをしてから、俺は左から2番目の横穴に入っていった。みんなは少し距離を置いて付いてくる。
お、本当に道幅が太くなった!直径20メートルくらいは有ると思う。ここで迎え撃とうかな。
すると、程なくしてオーガの大軍が現れた。道の真ん中に突っ立ってる俺を見て行進が止まる。
「ククククッ♪レディース エーーンド ジェント「ドガァ!!」
まだ喋ってる途中でしょうが!先頭のオーガが俺の居た場所に問答無用で棍棒を振り下ろしていた。しかし、既にそこに俺の姿は無い。
キョロキョロと俺の姿を探すオーガ達。その視線は、棍棒を振り下ろしたオーガの頭の上で止まった。
「ククッ♪趣の無い方達ですねぇ♪」
「ねぇ、立花さん。和也くんは何でオーガの頭の上で片手逆立ちなんてしながらカッコつけてるの?」
「え?分かんないよ…。そもそもあれはカッコいいの?」
あー、何だろ…。この服を着てると変な気分になってくる…。
俺は逆立ちを止めて両足で立つと、着替える時に使った大きな布を取り出した。そして立花さん達からオーガの顔が見えなくなる様に布を垂らす。
「和也くん、何やって…」
「クククッ♪さぁて、お立ち会い♪3、2、1………0♪」
と言うのと同時に、俺は布を勢いよく上げる。すると、そこにあったオーガの頭は跡形もなく消えていた。
俺は頭の上に乗っていたので、急に床が無くなった状態となりそのまま地面まで転がり落ちる。滑稽なリアクション付きで…。
「シュールだね…」
「麗奈にはあまり見せたくない風景かなぁ…」
すると、奥から一際大きなオーガが出てきた。こいつがオーガキングっぽいな。
「オマエ、ナニヲシタ?」
「ククッ♪秘密だよーん♪」
「ソウカ。ナラバシネ!」
俺への認識が『よく分からない奴』から『敵』へと変わった結果、配下のオーガ達が集団で俺に襲いかかってきた。
「ひゃあー♪怖いー♪ククククッ♪」
俺は転んだりコミカルな動きをしながらオーガの攻撃を避けまくる。その時に布を振り回してたんだけど、すれ違い様に布で隠したオーガの部位がどんどん消えていく。
「和也くん、ふざけ過ぎじゃない?」
「うん。油断は良くない」
すると、2人が懸念した通り俺はオーガに捕まってしまう。身体を鷲掴みにされた感じだ。
「バカ!何やってるの!」
「和也くん!時空魔法で逃げて!」
「ぐあぁぁ♪くーるーしーいー♪」
「……え?」
オーガは両手を使って俺の上半身と下半身を掴むと、そのまま横に引っ張った。そして、俺の身体を上下に引き千切ってしまう。
「ぎゃーーー♪」
「和也くん!いま助けに行くから!麗奈の回復魔法ならまだ間に合う!」
「三文芝居…」
オーガは引き千切った俺の身体を別々の方向へ放り投げた。酷いなぁ…。
しかし、俺の下半身はピョコンと立ち上がると、上半身に向かって走り始める。
「クククッ♪合体だよーん♪」
俺は上半身だけで飛び上がると、到着した下半身の上に乗っかった。そして、俺の事を引き千切ったオーガを指差す。
「次はこっちの番だー♪いっくぞー♪」
俺はオーガに向かって走り始めた…と思いきや、バックしていて逆に離れてしまう。
「おっと、前後が逆だったー♪」
俺は上半身を下半身から分離させると、上半身だけ180度回転させて再合体した。つまり、さっきまではお尻の上にお腹がある状態になっていた。
「ナ、ナンダ…オマエハ……」
オーガ達は混乱している。いや、理解不能な行動を連発するピエロに恐怖していた。
「えっと…やられてたのは嘘だったって事?」
「うん。下手な芝居」
「そっか…何だかモヤモヤする…。でもこれ、知らない人が見たら凄く怖い気がするね」
でしょでしょ!お願いされた通りオーガ達の注意を集めまくったよ!
「知ってる人がやってると思ったら別の意味で怖いけどね」
辛辣!!あくまで装備の影響だからね?素の俺がこういう行動したい訳じゃないからね!?
でも、変な気分になってくる…。ク…ククク……クァーハッハッハッハ!!
「あーはっはっはっはっはっはっは!!」
「やっぱり知り合いの方が怖い…」
「確かに…。でも、とりあえず相手を混乱させててチャンスではあるからキングを狙い撃ちしてくるね」
「あ、立花さん。私も同行するよ。途中の雑魚は私が倒すね」
「ありがとう!ところで和也くんの事を怒るかどうか決めたの?」
立花さんの質問に仁科さんは即座に頷いた。まぁ今回は大丈夫だよね。
「当然お説教だよ」
なんで!?
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
ブクマして頂けたり、↓の☆で皆様の評価をお聞かせ頂けるととても嬉しいです!
あと、下にある『小説家になろう 勝手にランキング』をクリックして貰えると助かります!
ランキングサイトに移動しますが、そのサイトでの順位が上がるみたいです。よろしくお願いします!




