冒険者登録
2023/02/19 表現を一部修正しました。
2023/04/23 リルを従魔登録しない件を追記しました。あとついでに表現を変更しました。
「ふわあぁ…。意外とぐっすり寝れたなぁ…」
昨夜の晩御飯を食べた後、僕はカインさん達が準備してくれた寝床で朝まで寝いていた。
僕も見張りに参加しようと思ったんだけど…カインさんに拒否されてしまったのだ。ドミニクさんとの契約内容に元から含まれている事なので、責任持ってやらせて欲しいと言う事だった。
そこまで言われて無理やり参加するのもカインさんに失礼だと思ったので、お言葉に甘えて僕は辞退させてもらったという訳です。
あと、安心してぐっすり寝れたのは、バスのおかげだと思う。バスは寝る必要が無いので、何かあった時は起こしてくれるんだよね。
本の人が絶対に取っておけって言ってたのも納得だ…。
でも、結局昨夜は1回も襲われなかったみたいで、宵の明光の人達は首を傾げている。『日中はあんなに襲われたのに、何で夜は襲って来ないんだろう?』と、不思議に思われたみたいだ。
まぁ…原因はリルが遊びまわっていたせいだと思うけど…。
僕たちは簡単に朝食を済ませてからすぐに出発する事になった。現時点でも予定よりも遅れているし、こらから更に襲撃される可能性が高い事を考えてのドミニクさん判断だった。
みんな慣れたもので、出発の準備はとても早く進んで行く。ジャジャの餌やりとかは御者さんがしてくれたみたいで非常に助かった。
という事で出発した訳なんだけど…。早速ゴブリンが近づいて来てるな…。それにしても、なんでこんなにゴブリンばっかり多いんだろう?
僕はリルを抱き上げると、リルの耳元で囁いた。
「リル、このままだと今日中に町に入れるか怪しいから、ちょっとゴブリン倒してきて貰えないかな?」
「ワフゥ!」(いいよ!)
リルは馬車から飛び降りて、馬よりも先行して走っていった。その姿にドミニクさんが驚いてしまう。
「あっ!危ない!え?トールさん…子犬が走って行ってしまいましたが…大丈夫なんですか?」
「はい、大丈夫ですよ。馬車の中だと運動不足みたいなので、ちょっと散歩したいみたいです」
「そ…そうですか…。わかりました…」
ドミニクさんはあまり納得していないみたいだけど、それ以上突っ込まないでいてくれた。
…………。
………。
……。
「俺達の故郷、リッケルトへようこそ!」
僕達は昼過ぎにリッケルトへと到着した。
宵の明光のメンバーは、獣人のジャイロさん以外はリッケルト生まれで幼馴染らしい。
「ここがリッケルトかぁ…。ルルスより全然大きいなぁ」
町のサイズも大きいけど、人口密度も多い気がします。
「やっぱり、魔物関係のお仕事で栄えてる感じなんですか?」
「あぁ、そうだな。冒険者を中心に、武器屋、防具屋、道具屋、宿屋、飲食店…後は魔物素材の物流に関する仕事が多いな」
そう言えば、ドミニクさんの雑貨屋も冒険者向けの商品を中心として販売してるらしいです。
「それにしても…今日はやけに襲撃が少なかったな。まぁ有難い事なんだが…。昨日が不運だっただけなのか?」
今日の襲撃回数は1回だけで、またゴブリン種の集団だったのですが、昨日の反省を活かしたドミニクさんは敵を倒す事より逃げる事を優先しました。
幸いにもDランク以下の5体だけだったので、宵の明光の皆さんが迎撃している間に横を通り抜けた訳です。
まぁ…本当の襲撃回数はゴブリン4回とオーク1回なんですけどね…。リルが事前に撃退してくれたので、馬車まで辿り着かなかっただけというのが真実でした。
1回だけ辿り着いてしまったのは、左右からの挟撃だった為に片側しか倒せなかったんですよね…。でも、強い方はリルに倒してもらったので、Dランク以下の別動隊だけが馬車に辿り着いたという状態でした。
「でも、もしかしたら今日が幸運だっただけかもしれませんよ?しばらくは注意を続けた方が良いと思います」
「あぁ、その通りだな」
今日の事が原因で油断されて怪我をしても困るので、僕は念のため釘を刺しておきました。
そしてカインさんと少し雑談をしていると、遅れていたドミニクさんが追いついて来ます。どうやら門衛と話をしていたみたいですね。
「いやぁ…やっと到着しましたね。トールさんにも同行頂いて本当に良かった…」
「いえいえ、こちらこそです。こんなにすんなりと町に入れるとは思ってませんでした。流石は地元ですね!」
町に入る手続きはドミニクさんがやってくれたのですが、門衛とは顔馴染みみたいですんなりと通してくれました。
「はははは。それはもう何度も通ってますからね。後は…さっきもお土産を渡していたんですよ。もちろん賄賂的なものじゃなくて気持ち程度のものですが…そういうのが意外と大事だったりしますね」
なるほど…。やっぱり日頃の行いが大事なんですね…。
「ドミニクさん、それじゃ依頼は完了って事で大丈夫かな?」
「はい。カインさん。宵の明光の皆さん、ありがとうございました」
カインさんが出した紙にドミニクさんがサインをする。あれを冒険者ギルドに提出するのかな?
「トールさん。俺達は達成報告をしに冒険者ギルドへ行くけど一緒に来るかい?登録するんだろ?」
「あ、是非お願いします!場所も分かってなかったので助かります!」
「それでは…私はここまでですね。トールさん、宜しければお時間がある時にドミニク商店にいらっしゃってください。サービスさせて頂きますよ」
「おぉ!ありがとうございます!是非伺わせて頂きます!」
「皆さんありがとうございました。それでは」
ドミニクさんはお別れの挨拶をすると、馬車を引いて町の中へと消えて行った。
「トールさん、それじゃ行きましょう」
「はい。宜しくお願いします!」
そして僕は、ジャジャを引きながら宵の明光のみんなに着いて行った。
親切なカインさんは、歩きながら色々と教えてくれる。
「武器を買うならこの店がオススメだ。質は良いのに手頃な値段で売ってくれる」
お、後で行ってみよう。アクル王国のロングソードを変えたいんだよね…。
「そこの飲み屋はぼったくりだから気を付けろ。接客嬢が巨乳でエロいが、騙されて入るなよ?」
「は?カイン、そんな店に入った事があるの?」
「え?あ…いや…その……」
なんか…キャバクラ…って言うの?そういう感じのお店みたいなんだけど…。カインさんは、リーシアさんからのお説教タイムに突入です…。
僕への説明はキールさんが代わってくれました。キールさんはシーフなんだけど明るい感じの人です。
「あ、このお店のご飯は絶品だから、是非食べに来てね!」
「おい。お前の実家だろうが…」
「いやいや!オススメなのは事実だから!」
キールさんの実家宣伝に対してタンクをやってるフリッツさんが即座に突っ込みました。どうやらキールさんの実家は飲食店を経営しているみたいです。
「ははは。必ず食べに行かせて頂きますね」
「うん!ありがとう!」
ちなみに、カインさんが戦士、リーシアさんが魔術師、ジャイロさんが剣士をやっていて、そこにシーフのキールさんと、タンクのフリッツさんで、宵の明光は5人パーティです。
あと、宵の明光ってパーティ名は『闇を照らす光になりたい。』という思いで付けたらしい…。凄い目標だ…。
そうやって町の事を教えてもらいながら歩いていると、竜の看板に辿り着きました。冒険者ギルドは、どこの国でも竜の看板を使ってるみたいだね。
そして、カインさんを先頭に、冒険者ギルドへと入っていきます。
「おぉぉぉ…。広い…。ルルスの3倍以上はある…」
窓口カウンターは10人以上で対応しているし、酒場も広い。しかも満席…冒険者の人数が凄い…。
更に、地下への階段や2階への階段も見えました。
「リーシア。悪いけど達成報告を頼めるか?俺はトールさんの登録に付き合ってくるよ」
「いいわよ、カイン。こっちの方が先に終わると思うから、先にいつもの所に行ってるわね」
「あぁ、席取っといてくれ。よろしく」
リーシアさんは、達成証明書をカインさんから受け取ると、達成報告窓口の方へと向かって行った。
「それじゃ俺達も行こう。こっちだ」
僕はカインさんに連れられて、1つの列に並んだ。カインさんは列を選んでたみたいだけど、何かあるのかな?
そうして並んでいると、カインさんが質問をしてきた。
「そう言えば、リルって見た事が無い種族だけど、魔物なのか?」
「え?えっと…魔物じゃなくて子犬ですよ?」
「ワ…ワン!」
ナイスだリル…。フェンリルを連れてるとなると目立ちそうだから…できる限り子犬で通す事にしましょう…。
「そうか。魔物だとしたら従魔登録しないといけないと思ってな。犬なんだとしたら問題ない」
「そうですか…。ありがとうございます…」
それから15分くらい待っていると、やっと僕達の番になった。
「あれ?カインじゃない。ここは『その他』の列だよ?」
「あぁ、達成報告はリーシアがやってくれてる。こっちに来たのは、このトールさんの冒険者登録をお願いしたくてな」
「あ、そういう事なんだね。でもカインがここまで付き添う事もないと思うけど…」
「いやいや。トールさんは俺の命の恩人なんだ。だから、俺からしっかりとお願いしたかったんだよ」
「…命の恩人って……どういうこと?」
カインさんは、ゴブリンジェネラルに殺されかけて僕の回復魔法で助かった事を受付嬢さんに説明した。
「………トールさん。カインの命を救って頂いてありがとうございます。私はエルマと言います。ギルド関係で何かお困りの際は、是非私に相談してください。出来る限り力にならせて頂きます」
「え?あ…えっと…ありがとうございます。その…お二人はどういうご関係で?」
「あ、リーシア達と同じでエルマも幼馴染なんだ。それで、これから冒険者になるトールさんに紹介しておきたくてね」
「そういう事です…。カイン…私はあなた達の訃報なんて聞きたくないんだからね!本当に気を付けてね!」
「あぁ、悪い悪い。これからは今まで以上に気を付けるよ。でだ、トールさんの登録をお願いしたいんだが」
「うん、わかった。えっと…それでは改めまして…。トール様、冒険者登録でございますね。では、こちらの用紙にご記入をお願い致します」
おぉ、エルマさんが一瞬でお仕事モードに切り替わりました。
「はい。えっと…名前はトールで…職業は魔術師で…属性は水…っと、これで良いですか?」
「えーっと…。はい、大丈夫です。あと、登録料と致しまして銀貨5枚をお納め頂けますでしょうか」
「銀貨5枚ですね。1…2…3…。はい、銀貨5枚になります」
「ありがとうございます。これでひとまずGランクとしての登録は完了となります。Fランクになるには試験を受けて頂く必要があるのですが、本日受けていかれますか?」
「ランクとかの仕組みが良く分かってないんですけど、教えてもらっても良いですか?」
「はい。もちろんです。ランクはGからSまでありまして…」
エルマさんから教えてもらったランクの内容は、まとめるとこんな感じだった。
Gランク…見習い扱い。魔物討伐は受けられない。
Fランク…初心者。護衛クエストは受けられない。
Eランク…半人前。
Dランク…1人前。
Cランク…熟練者。
Bランク…一流。
Aランク…実質的な各国の最強クラス。
Sランク…人外扱い。現在は世界で6名のみ。
Fランクになる為には、戦闘試験を受けて『最低限の戦闘能力はある』と認められないと駄目らしい。
「ちなみに、受注できるクエストは自分のランクの1つ上までになります。ですので、Gランクだと……魔物と関わらないFランクのクエストまでしか受注できない事になります」
「なるほど…。ちなみに魔物討伐じゃないクエストってどういうのですか?」
「多いのは薬草採取系のクエストですね。後は…物探しや清掃活動など、町の中のお手伝いが多いです」
そっかぁ…。とりあえず上を目指すつもりは無いからなぁ…。
「ひとまずGランクで大丈夫です!Fランクになりたいと思ったら、また改めて試験受けに来ますね!」
「え?トールさん、Fランク試験受けないんですか?大した事ないですよ?」
カインさんは試験を受けない事に驚いていた。
「はい。薬草採取に興味があるので、しばらくは採取系クエストを中心にやってみたいと思います」
「そ…そうですか……」
「カイン、別に良いじゃない。Fランク試験ならいつでも受けられるわよ」
「まぁそうだな…」
「それではトール様。こちらがギルドカードになります。紛失されますと、再発行に銀貨1枚が必要になりますので、ご注意ください」
「了解です。ありがとうございました」
僕達はギルドカードを受け取ると冒険者ギルドを後にした。
預けていたジャジャを迎えに行ってから、カインさんと一緒に酒場へ向かって歩く。どうやら打ち上げをするらしい。僕はお酒を飲まない様に気を付けなきゃ…。
「うーん…。正直に言うと、一緒にクエストを受けたいなと思ってたんだよ…」
「あ、そうだったんですね…。気持ちを無碍にしてしまいすいません…」
「いやいや、良いんだ。それより、クエストはいつから受ける?」
「明日、早速受けてみようと思ってます」
「じゃあ、明日は一緒に薬草採取クエストを受けよう」
「え?良いんですか?他の方達に迷惑じゃ…」
「あぁ、明日は休みだから大丈夫だ。俺も薬草採取ならそんなに疲れないから気にしないでくれ」
「何から何まで、ありがとうございます」
「ははは。これくらいはやらせてくれ」
酒場は宿屋も兼ねていて僕の分の部屋も既に取ってくれていました。僕はジャジャを厩舎に預けると、まずは自分の部屋へと向かいます。
「酒場は酒臭いと思うし、酔っ払いに絡まれるかもしれないから、リルは部屋にいてね」
「クゥーン…ガウ!」(良いけど…お肉ちょうだい!)
「うん。晩御飯として5本出しておくね。じゃあ良い子にしてるんだよ」
「ワフゥーン!」(はぁーい!)
それから酒場に行くと、先に行った4人は既に出来上がっていました…。
「えっと…。無事の帰還と、トールさんとの出会いを祝して!乾杯!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
そして…混沌とした世界が始まった…。
みんな何を言っているのか分からないのに、何故かコミュニケーションが取れている。
これが…大人の飲み会というものなのか…。
カインさん、明日は大丈夫なんだろうか?
…………。
………。
……。
そして翌朝、僕はカインさんの部屋をノックした…んだけど、カインさんは昼まで動く事はなかった……。
これはもう、これからはカインって呼び捨てで良いかなぁ……。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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