マラソンは辛い
全般的に表現を見直しさせて貰いました…。
『おい、万代。こいつはきっと強くなるから何か格闘技を覚えさせろよ』
『武尊兄さん。勝手な事を言わないでください』
『護身術なら良いんじゃねぇか?立花の爺さんの所にでも通わせろよ』
『透の事は我々が考えますから。もう、早く帰ってください』
これは…何歳の頃の記憶だろう…。ふと思い出したけど、凄くぼんやりしてる…。
でも、名前は何度か聞いた事があると思う。確か高杉武尊って父さんのお兄さん名前…だけど…。
「武尊様は魔族に対してもとてもお優しく」
「ちょっと待ってくれ!」
いやいや!無理だよ!このまま話を進められても困っちゃうよ!
「はい。何でございましょう?」
「高杉武尊って…俺の伯父なのか?」
「申し訳ありませんが分かりかねますな。魔王様のお名前をお聞かせ頂いても?」
あ、そう言えば俺の名前を伝えてないから分かる訳がなかった。ここは本名を伝えないと…。
「この姿の時はライトと名乗ってるが、本名は高杉透という」
「透様ですね。はい。武尊様よりお聞きしております」
聞いてる?先代魔王から?千年前に??
「武尊様には弟殿がいらっしゃるそうなのですが、その弟殿のお子さんが透様だったかと」
「その弟の名前は?」
「確か万代殿ですね」
やっぱり…先代魔王は伯父さんなのか?でも、時間が…。
「だとしたら…なぜ千年も時代がズレているんだ?高杉武尊がいたのは千年前なんだろ?」
「時空属性ですので、異世界の異なる時間から召喚されたのかも知れません」
そうなると…地球に帰るためには次元の壁を越えるだけじゃなくて、千年前に遡らないといけないってこと??
と思ったんだけど、事態はもっとややこしいみたいだ。
『ご主人様のいた時間軸が千年前とは限らないと思うっす!』
(バス…。それは何で?)
『千年前に先代魔王様が召喚された時、同じ時間軸の地球から召喚されたとは限らないっす!』
(つまり…前回は200年前の地球から召喚してて、今回は1200年前の地球から召喚してるかも知れないとか…そう言う事?)
『そうっす!でも、そもそも時間軸は対になってるのか、同じ速度なのか、おれっちには分からないっす!』
マジか…。地球への転移が失敗した理由は多分それだな…。時の流れをもっと正確に把握できる様にならないと帰還するのは難しそうだ…。
(バス、この世界と地球の時間を把握する方法は分かる?)
『分からないっす!』
これは…思っていたよりも難関みたいだ。アイテムボックスの中なら時間を進めたりは出来るんだけどな…。
まぁ、諦めないけどね!
「透様?如何なさいました?」
「あぁ、悪い。帰還するのは思っていたよりも難しそうなんだな。と、思ってな」
「やはり透様も帰還方法をお探しでしたか」
透様『も』か。学園長から聞いたアンフェルとヘルマンの言い争いの中で、地球への帰還が武尊おじさんの悲願だって言ってたね。
「あぁ。先代も探してたんだろ?」
「はい。そして、それはまだ続いています」
たぶん奈落の底へ落とされた時に会ったのが武尊おじさんだと思う。あれから行方不明だけど、もしかして帰還方法を探して旅でもしてるのかな?
と、思ったのですが、アンフェルから出てきた話は全く違う内容でした。
「透様。ダンジョンとは何だと思いますか?」
「唐突だな。魔素が溜まると発生し、魔物が湧き、トラップが生まれ、稀にアイテムが入手できる。そういう場所では?」
「んー。その通りなのですが、それはダンジョンの特性です。もっと根本的な意味で、ダンジョンとは建造物ですか?生物ですか?それとも他の何かですか?」
あー、そういう意味か。確かに人工的な加工がされてたり罠が作られてたりするのに、壊してもしばらくすると元に戻ったりする。
それに、改めて考えると宝物とか誰が置いてるんだ…。
「そうだな。体内に誘い込んで捕食する魔物の一種とかか?」
「その様な見解の学者もおります。しかし、その場合はダンジョン内で見つかる宝物は魔物が生み出した事になるのでしょうか?過去には聖剣が見つかった事も有るのですが」
この反応は間違いって事かな?んー、正解が分からない…。カンニングしちゃおうかなぁ…。
(バス。ダンジョンって何?)
『分からないっす!』
(………え?)
今日のバスは分からない事が多いね!
でも、歴代魔王の知識を持ってるバスが知らない事をアンフェルは知ってるの?
「確認だが、そもそもアンフェルは答えを知っているのか?」
「いえ、知りませんよ?」
うぉおおおい!じゃあどういう質問なんだよ!!
軽く頭痛がしたので頭を押さえていると、アンフェルが言葉を続けた。
「つまり、誰も知らない謎のシステムがダンジョンです。神による建造物だというのが通説ではありますが」
「あぁ、そうなんだな。それで?」
「つまり、ダンジョンのアイテムはどの様にして生成されているのか不明なのです。という事は、地球へと帰還できるアイテムが発生する可能性があります。そうは思いませんか?」
それは『良く分からないから否定はできない』ってだけだよね?可能性はゼロじゃないけど…。発生してる保証も無いよ……。
「先代はその可能性に賭けたのか?」
「はい。考えうる他の方法では0%なのです。ならば、何千分の1であろうと、何万分の1であろうと、賭けてみるしかありません」
藁にもすがる思いって訳か…。
「勿論、新たな方法があれば話は別ですが」
「既に色々と試した結果なんだな」
「はい。そして、難易度の高いダンジョンほど良いアイテムが出ますので、SSランクであるこのダンジョンを探索している訳です」
「つまり、アンフェルがここに居る理由は武尊おじさんの帰還方法の為なのか…」
「その通りです。回収したアイテムを管理するのが私の役目となっております」
なるほど。アンフェルは禁書庫の門番。つまり…。
「このダンジョンで回収した物を納めている場所が禁書庫か」
「その通りです。書物も大量にありますが、他のアイテムも大量にあります。以前、何代目かの学園長に本を貸した事があるので、書庫だと勘違いされたのかも知れません」
「で、回収してくるのはマロンの役目なんだな?」
「マロンをご存知でしたか。マロンは武尊様がお作りになられたメイドゴーレムです。今も迷宮を探索しております」
良かった。とりあえずマロンは壊れたりしてないみたいだ。
それにしても、2人は見つかるかも分からない物をずっと探し続けてるのか…。
「ゴールが有るのかも分からないマラソンを千年間も続けてる感じなんだな…。俺の伯父が申し訳ない」
「何をおっしゃいます。私達は武尊様の悲願に関われてとても嬉しく思っているのですよ」
そう言ってくれるのは有り難いけど、俺の伯父さんの指示だって考えると、やっぱり申し訳ない気持ちが出てくる。
目的の物が見つかれば、探索を止めても大丈夫なはずだよね?
「目的の物はまだ見つかってないのか?最後に武尊おじさんが回収物を確認したのはいつだ?」
「武尊様が最後にここを訪れたのは5年前です。それまでに発掘した物の中には目的の物はありませんでした」
なるほど。じゃあ5年分を確認して目的の物があったら探索を終わらせられるんだね。
そもそも俺達の目的とも同じだし、是非確認させて貰いましょう。
「俺がここに来た目的は禁書庫で帰還方法を探す事だ。その5年分については俺に確認させて貰えないか?」
「それは非常に助かります。しかし、確認には数日掛かると思われますが、先程ダンジョンへ入って行った者達は放置してて大丈夫でしょうか?」
そうでした…。すぐに追い付くつもりなんでした…。
「先にダンジョンへ行ってくる。踏破した後に確認させてくれ」
「承知致しました。行ってらっしゃいませ」
アンフェルから先代魔王の事を聞けて良かった。また時間がある時に色々と教えてもらおう。
「リルー!お絵描きは終わりにしてダンジョンに入るよー!」
「わーい!久しぶりの戦闘だぁー!」
最近は『戦闘ごっこごっこ』ばっかりだったからストレスを溜めさせちゃってたかな?
お絵描きの内容もデッカいドラゴンとか強そうな魔物ばっかりだね。
という事で、俺達は扉を開けてダンジョンの中へと入った。
「………。」
「トール、どうしたの?」
「誰もいない…」
あれ?何で?入った瞬間魔物に襲われて移動したとか?
俺がそうやって混乱していると、バスが原因の予想を教えてくれました。
『ダンジョンが変動して、入り口と繋がってる場所が変わったんだと思うっす!』
あ、なるほど?
「しまったー!!」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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