魔王の名前
「フォッフォッフォ。50年前と同じ事を言われてしまいましたな」
「ん?貴方、あの時の運の良い人間ですか?お久しぶりですねぇ」
そこには、天井にぶら下がって…いや、天井に立っている男がいた。学園長の昔話からすると禁書庫の管理者であるアンフェルだと思う。
学園長は冷静に話してるんだけど、勇者様はそういう訳には行かなかったみたいだ。
「学園長、そいつは何者だ!?」
「禁書庫の門番をされている方じゃよ」
「じゃよって…。そいつ…魔族じゃないのか!?」
お、隼人が一瞬で見抜きました。まぁアンフェルも隠したりしてる感じじゃないんだけど、それでも隼人がすぐに気付いたのは予想外でした。
「私は確かに魔族ですが。魔族だと何か問題でも?」
「当たり前だろう!世界に不幸をもたらす存在はすぐに退治する必要がある!」
何も確認してないのに、なんで決め付けて掛かるのか…。
「この千年、誰にも迷惑を掛けてないと思うんですけどねぇ。ん?貴方…もしかして当代の勇者ですか?」
「あぁ!俺が勇者だ!」
隼人の言葉を聞いたアンフェルは、天井から降り立つと値踏みする様に隼人の事を上から下からジロジロと見つめた。
そして、満足したのか隼人から目線を外すと、ポツリと呟いた。
「はぁ…勇者はこんなに劣化してしまったんですねぇ…」
「なん…だと……?」
「まぁ、性格はまだマシなんでしょうか?愚かっぽいですが、進んで悪事を働く様には見えませんね」
それで良いんだ?随分とハードルの低いマシ判定だな…。
しかし、隼人と話をしていたアンフェルは、ふと何かに気付いた様子で驚愕の顔になった。
「勇者が現れた?という事は………もしや、いま地上には新たな魔王様が??」
正解だよ。君の眷属がやらかしちゃいましたよ。
ただ正解なんだけど、そこで余計な事を言っちゃう空気の読めない人がいました。
「はははっ!残念だったな!魔王なら既に死んだぞ!!」
うわぁ…。アンフェルにムカついてたのは分かるけど、クラスメイトの前でそんな事を言って大丈夫なのかな?
って、当然ながら大丈夫じゃない。クラスメイトの視線が勇者様に向けられた。特に厳しい目をしてる女性が2人いる…。
「城之内君!それは誰の事を言ってるのかな?」
「あっ…白鳥さん…。いや…違うんだ…」
「くっくっく…。本当に愚かな勇者の様ですねぇ」
何て人を見る目のある魔族なんだ…。既にクラスの関係図がなんとなく分かってるっぽい…。
そして、余計な事を言った勇者様に白鳥さんが近付いて行く。
「まさか透くんのこと?それは笑いながら言える事なの?」
「あ、いや…あの魔族を悔しがらせる事で頭がいっぱいになって…つい……」
「つい、なぁに?本音が出ちゃったの?」
こ…怖いっす…。白鳥さんのこんなに怖い顔は初めて見ました…。
そして、マーロン学園長も危険を感じた様子で、白鳥さんを止めに入りました。
「聖女殿、落ち着くんじゃ。念願のダンジョンを前にして揉めるのは止めて欲しいんじゃよ…」
「そ、そうだよ白鳥さん。その話はまた後にして今はあの魔族を倒さないと…」
「勇者殿も止めるんじゃ!その方が魔族だとしても、ずっとここにおるんじゃから人に害なんぞ与えておらんはずじゃ!」
何ともカオスな状況になってきましたね。
そして更に、学園長の制止を聞かない勇者様は聖剣を抜き放ってしまいました。
「剣を抜きましたね?そうなっては、冗談では済みませんよ?」
「冗談な訳がない!お前を倒す!」
「くくく…。良いでしょう。未熟な勇者の相手をしてあげます。ただし………命の補償は出来ませんからね?」
そう言うと、アンフェルから凄まじい圧力が発せられました。
これは………魔王覇気!?
「ぐ…ぐぅ…。ただの魔族がなんて圧力だ…」
「隼人!下がれ!こいつは準備無しで戦うのは危険だ!いったん迷宮内に逃げるぞ!」
いや、そもそも必要のない無益な戦いなんだけどなぁ…。
でも、巻き添えで他のみんなまで魔王覇気を受けて辛そうにしてる。流石に放っておけない領域かな。
俺は前に出て、アンフェルと勇者達の間に割って入った。
「ここは俺に任せて、お前達は先にダンジョンに入ってろ」
「ん?貴方は?と言うか、その仮面…その鎧……」
やっぱり愚者の仮面や漆黒の鎧を知ってますか。魔王の城の宝物庫にあった装備だもんね。
「先生!大丈夫なんですか?」
「あぁ、大丈夫だ。ササキ、いったんダンジョン内での判断を任せる。全員連れて行ってくれ」
「分かりました!」
まぁ、すぐに合流するつもりですが、佐々木なら全員に適切な指示を出してくれるでしょう。
勇者様だけは『俺も戦う!』とか騒いでましたが、龍彦に羽交締めにされてダンジョンへと入って行きました。
という事で、この場には俺とリル、後はアンフェルの3人だけとなりました。
「さて、俺に戦闘の意思は無いんだが、魔王覇気を収めてもらっても良いかな?」
「勿論ですとも。貴方が今代の魔王様…ですね?」
アンフェルは魔王覇気を解くと、片膝を付いて恭しく俺に頭を下げた。
「あぁ、そうらしい。だが、そういう扱いはやめてくれ」
「ふふふ。先代の魔王様と同じ事をおっしゃるのですね。しかし、私は貴方様に謝らなければならない事があります」
「なんだ?」
「貴方様を召喚してしまったのは、私の眷属かもしれません」
あー、なるほど。まぁ隠す必要は無いか。
「ヘルマン、か?」
「やはり…。まさか本当に実施するとは…」
「まぁ止めてくれてたら助かったのは事実だが、アンフェル自身がやった訳でも無いんだから気にしないでくれ」
「ありがとうございます。しかしケジメを付けねば」
「ケジメなら、本人に付けさせた」
「………承知致しました」
アンフェルはヘルマンの親みたいなものかも知れませんが、ヘルマンが勝手にやった事を全て責任取るのは何だか違う気がします。
アンフェルも納得してくれたみたいで、立ち上がってくれました。
「ところで、1つお聞きしたい事が有るのですが」
「俺も聞きたい事があるんだが先に聞こう。なんだ?」
「ありがとうございます。そこで床に落書きをして遊んでいる少女からリル殿に似た魔力を感じるのですが、何者でしょうか?」
「あぁ、アンフェルの言っているリルの娘だ」
アンフェルの言ってるリルは先代魔王軍四天王のリルの事だろうからね。
普通に『そうなんだー』で終わるかと思ったんだけど、俺の回答を聞いたアンフェルは額を押さえて天を仰ぎました。
「あの凛々しかったリル様が何て嘆かわしい姿に…」
いや、だから、娘なんだけどね?それに嘆かわしくなんて全然なくて、リルは最高に可愛いですよ?
「ひとまず承知致しました。では、魔王様のご質問をお聞かせ頂ければと存じます」
「あぁ。さっき魔王覇気を使っていたが、アンフェルは先代魔王の眷属なのか?」
魔王の魔力を与えられてないと、そんな事は出来ないと思うんだよね。
そんな俺の質問にアンフェルは即答してくれました。俺の予想外の情報を添えて。
「はい。私は魔王で在らせられる高杉武尊様の眷属です。執事長として身の回りのお世話をさせて頂いておりました」
「高杉…武尊?」
あれ…。何だか聞き覚えがある様な…。
ちょっと仕事が落ち着いてきました!
-----------------------------
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
ブクマして頂けたり、↓の☆で皆様の評価をお聞かせ頂けるととても嬉しいです!
あと、下にある『小説家になろう 勝手にランキング』をクリックして貰えると助かります!
ランキングサイトに移動しますが、そのサイトでの順位が上がるみたいです。よろしくお願いします!




