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アンジェとロウ

 ーー3日前。


「ロウ、なかなか良い座り心地ですよ?」

「ありがとうございます!」


 アンジェに『ロウ』と呼ばれた信者服の男は、地面に四つん這いになっていた。その背中にはアンジェが座っている。

 アンジェが褒めて頭を撫でてやると、ロウは凄く喜んだ。


「私は聖女様の椅子になる為に生まれてきたのだと思います!」

「その通りです。よく分かってますね」


 チェストも言っていたが聖教国に奴隷制度は無い。何故なら、必要が無いのだ。

 チェストは差別も無いと言っていたがそれも本当だった。何故なら、みんな等しく(・・・)従順な奉仕者なのだから。しかも、自ら望んでいる…。


「ここが奈落の底ですか。初めて来ましたが、何とも辛気臭い場所ですね」

「はい。聖女であるアンジェ様には相応しくありません。アンジェ様のお力により奈落の底との転移が可能となりましたので、地上へ戻られる際はいつでもお申し付け下さい」


 ゼノン聖教国は大陸中の信者から才能を集めている。その為、教会には希少な特性の所持者も所属していた。

 アンジェの椅子をやっているロウは、時空属性機能付きの椅子なのだ。


 ちなみに、ロウはイザベラ王女やサリオン、和也ほどの力はない。

 アンジェ達は学術都市から細かく転移を繰り返し、2日掛けてアクル王国に来ていた。まぁ半月かかる馬車に比べれば十分に早いのだが。


「試しに飛び降りてみましたが…。正直なところトオル・タカスギが必ず死んだとは言い難いですね」

「そうなのですか?アンジェ様以外には到底無理な気がするのですが…」


 アクル王国に到着したアンジェは、すぐに奈落迷宮へと入った。目的は奈落迷宮1階にある奈落の穴だ。

 そしてアンジェは……迷う事なく奈落の穴へと飛び込んでいた。ロウと一緒に。


 落下するアンジェ達を飛行能力を持った魔物達が襲う。しかし、アンジェが結界を張ると遮られて手が出せなくなっていた。

 さらに、アンジェの結界は地面と衝突する衝撃にも耐え切る。Sランク冒険者の中でも防御力最強と言われているのは伊達ではなかった。


「Aランク以下なら確かに死ぬと思います。しかし、他のSランク達はそれぞれの方法で切り抜けられるでしょうね。それなら、魔王なのですから覚醒してないとしても耐え抜いたかもしれません」

「なるほど…。どれくらいの可能性でしょうか?」

「まぁ5%も無いと思いますけど」


 アンジェは考えながら体勢を直す。ロウは何故か恍惚とした表情をしていた。


「噂では、ここには魔王の城があるそうです。探してみましょう。まずはあっちの方です」

「はい!分かりました!」


 ロウは目で見える限界点にゲートを開くと、アンジェを背に乗せたまま馬の様に動いてゲートを潜った。転移であれば数歩も動かないで済むのだが、アンジェの安全を考えてゲートを選択したのだ。

 まぁ、歩く毎に感じられる背中の感触が嬉しかったというのもあるかもしれない…。

 

 それから30分ほどゲートを繰り返した所でアンジェ達は城を発見した。


「せ、聖女様。これが魔王の城でしょうか?」

「その様ですね。構造が人間向けではありません。巨体タイプの魔物やドラゴンでも利用可能な様にしているのでしょう」

「なるほど。流石は聖女様です」

「そこを(さかい)に結界が張られています。通れそうですか?」

「やってみます」


 ロウはゲートを開いた。結界の手前に入口を作成したのだが、結界の向こうに出口が現れず、そのまま入口も消失してしまった。


「ゲートはダメな様です。まことに申し訳ないのですが一度お降り頂いても宜しいでしょうか?転移を試してみたいと思います」

「許可します。ただし、私が結界を確認して問題が無ければです」

「そんな!危険です!」


 アンジェが部下の身を案じて先に確認を…という訳ではなかった。


「転移で失敗してお前が死んだ場合、私に地上まで歩かせるつもりですか?」

「そ、それは駄目です。では先に聖女様を地上にお送りしてから私だけで…」

「お前がどうなったのか分からずに地上で待ち続けるのも面倒です。大丈夫だから下がってなさい。私の言葉がきけないのですか?」

「申し訳ありません。承知しました…」


 ロウから降りたアンジェは結界まで歩いて行くと試しに石を投げ入れてみた。

 石は結界に当たって跳ね返るとコロコロと転がる。まるで壁に当たった様な感じだ。


「そういうタイプですか…」


 続いて、アンジェは結界に対して手を向ける。そして、自らの手で結界をペタペタと触りはじめた。


「んー、なるほど…」

「せ、聖女様。いかがでしょうか?」

「もう少し待ちなさい」

「はい…」


 更にアンジェは、結界に対して自分の魔力を流し込んだ。だが、魔力が反発し合って電気の様なものが弾ける。


「聖女様!お怪我はありませんか!?」

「大丈夫です。それと、これは無理ですね。地上に帰りましょう」

「なっ!?私の転移ならもしかしたら…」


 ロウの発言を聞いてアンジェがため息を吐いた。


烏滸(おこ)がましいですね。潰れて死ぬだけですよ?貴方は私を補佐する事で世界の役に立つ義務があります。それをここで放棄するのですか?見損ないました」

「ちっ、ちちち、違います!!私は聖女様の為に存在しています!これからもお役に立ちます!どうか私を見捨てないで下さい!!」


 アンジェはにっこり微笑むとロウの頭を撫でた。ロウは嬉しそうな顔をする。


「ありがとうございます。でも、私の為ではなくて世界の為ですからね?」

「はい。世界(聖女様)の為に」


 2人はそのままゲートで地上へと戻った。他人に見られる可能性があるので、ロウには乗らずに各々で歩いて…。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「トオル・タカスギが生きている前提に立って調査してみましたが、そんなに不思議な事は起きてませんね。魔王がやりそうな事としてはゴブリンロードとスタンピードくらいですが、これは両方ともアクル王国の女狐が犯人ですし」

「確かに。後はビオス王国で強力な呪いが発生したという情報がありますが、どの程度のものかは不明ですね」


 奈落迷宮から戻ったアンジェ達は、透が突き落とされた後に発生した特殊な事件について調査をしていた。


「まぁ、他に異質な事が有ると言えば有るのですが…」

「何でしょうか?」

「普通は大問題になる特殊な事件が、ことごとく最小被害で解決されているという事です」

「なる…ほど…。しかし…」


 ロウな少し納得しつつも、疑問に残る箇所もあった。それは…。


「魔王が人助けを?」

「そうですね。もしかしたら裏の目的があるのかも知れませんし…。まぁ、可能性は低いとは思いますが念のため調べてみましょう」


 アンジェの話を聞いたロウは、調査資料の一部分を指差した。事件の解決者欄を。


「全てを解決へと導いた男。キャリー・ライトについて…ですね?」

「その通りです。まずはライトに救われた女性。セリアに話を聞きましょう」

「承知しました。必ず知っている事は全て吐かせてみせます。どの様な手段を使っても」

「ふふふ。よろしくお願いしますね」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「イザベラ殿下。少しお話が…」

「何でしょうか?王位継承に関する調整で忙しいのですけど」


 クリシュナは少し怪訝な顔をした。イザベラが王位を継承する事について、忙しく調整しなければならない事が思いつかなかったのだ。

 細かい段取りはあるだろう。だが、そんなものはほぼ型が決まっていて、淡々とこなせば良い事だと思っていた。


「どうしたのですか?早く報告を」

「あ、申し訳ありません。実は聖教国のアンジェ殿についてなのです」

「あの雌狸がどうかしましたか?あ、今となっては偽聖女と呼んだ方が良さそうですね」


 クリシュナは苦笑いを浮かべた。ゼノン教に対する不遜をイザベラに注意する事もできず、そのまま報告を続ける。


「どうやらアクル王国に来ている様です。勇者様達を召喚した頃からの事を調べている様子です」

「そうですか…」


 イザベラは目を瞑って少し考える。そして、すぐに目を開くとクリシュナに指示を出した。


「偽聖女の事は放っておきなさい」

「よ、宜しいのですか?」

「構いません。彼女の事ですからすぐに本物の聖女と衝突するでしょう。精々潰し合って頂きましょう」

「承知しました」


 イザベラに挨拶をするとクリシュナは部屋を出ていった。そして、残ったイザベラが呟く。


「まぁ、もし問題があればあー様がどうにかされるでしょう。あの人の領分なんですから」

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

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