起動
「やぁやぁ。僕に会いに来てくれるなんて嬉しいね」
「お前に少し話があってな」
勇者隼人様は、学園で用意されたチェストの部屋へと訪れていた。
「何かな?僕達にできる事なら何でもするよ?」
「いや、何かをして欲しい訳じゃ無いんだ。俺は………聖教国に行きたいと思ってる。って事を伝えておきたくてな」
「お〜。それは嬉しいね。是非みんなで来て欲しいな」
本当は意見が分かれているのを知っているチェストの「みんなで」という発言を聞いて、隼人は唇を噛み締めながら悔しそうな顔をした。
「それが、クラス内で反対意見も多くてな…」
「ふーん。じゃあ勇者様だけでも来るかい?」
「クラスから離れるのは避けたい。特に白鳥さんの近くから離れるのはな…」
「聖女様?そっか、勇者様は聖女様を愛しているんだね」
「え?あ…まぁ…。そんな感じだ…」
照れながら喋る隼人を見て、チェストはニコニコしながら頷いている。
「うんうん。素晴らしい!愛こそ至高!愛は全てに優先されるべきだと僕は思ってるんだ!」
「そ…そうだよな?」
「そうです。では、勇者様は聖女様のお側に。まぁ、少ししたら他の人の意見が変わるかも知れないしね」
チェストは変わらずニコニコして話してる。そして、ふと思い出した感じの表情をすると、隼人に脈絡のない質問をした。
「そう言えば、勇者様の称号って何なんだい?」
隼人は質問の意図が分からずにキョトンとした。何故ならば、チェストが自ら称号を言っているからだ。
「何の話だ?『勇者』に決まってるだろ?」
「二文字の『勇者』なんだね?」
「その通りだ。何だかよく分からないが、他に何も無いなら俺はこれで失礼するぞ?」
「なるほどなるほど。了解だよ。じゃあまたね。勇者様に幸あらんことを」
隼人はそのままチェストの部屋を出て行った。そして、隼人が部屋を出るのと同時に部屋の奥から女性が現れる。
「最後の質問はいったい何ですか?」
「偽せ…聖教国の聖女様は聞いた事がないのかな?」
「殺しますよ?」
アンジェは本気で殺意のこもった目をチェストに向けていた。手に持つ杖の先端には強力な魔力が集まっていく。
「いや、冗談だって!ごめんごめん。アンジェ様は偽物なんかじゃありませんって」
「はぁ……。納得はできませんが、まぁ許しましょう。で、どういう事ですか?」
「僕も詳しくは知らないんだけどね。うちの一位から聞いた話だと……変わるらしいんだよ」
「何がですか?」
「称号さ。『勇者とは魔王に挑む者の称号。果たした者の称号ではない』って言ってた」
アンジェは少し考えると、目を細めて『なるほど…』という表情をした。
「称号が勇者のままなのであれば、魔王が生きているかも…という事ですか」
「もしかしたら勇者様に対するカードとして使えるかもね」
「分かりました。タカスギが本当に死んでいるのか、私の方で調べてみましょう」
チェストは、今日1番の笑顔をするとアンジェに答えた。
「宜しくね。僕らの聖女様」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おぉ!何これ?凄くね!?」
「まだまだ完成は程遠いけどね」
ここは魔法道具研究所にしてる山の中の屋敷です。ザザの骨格がやっと完成したって所で和也がやってきました。
「これは男のロマンだね。でもこれって、魔法で動くゴーレムになるんでしょ?複雑な判断とかできるの?」
「実は田中君に学習システム作ってもらったんだ。いま色んな知識を勉強させてるところなんだよ」
「あー。田中君はAIとかに詳しいみたいだね。前に教えて貰ったんだけどさっぱり分からなかった。まぁ理解しなくても使えたから良いんだけどさ」
へー。和也が勉強しようとするなんて珍しいな。あ!もしかして…。
「それってエロ目的なんじゃないの?」
「生成AIっていうのが凄いんだよ…って、そんな事はどうでもよくて!それより勉強ってどうしてるの?あ、もしかして…あの鳥?」
「そうそう。あの鳥ゴーレムに色々な事を覚えさせて、それを毎日ザザのコアにコピーしてるんだ」
僕はザザの横にある台座を指差しました。
台座にはザザのコアが固定してあって、コアと骨格はオリハルコン製のコードで繋がっています。
「あとは内蔵ギミック作って、外装を作って、外部パーツ作って…。まだまだ先は長いね」
「でも、ゴーレムなら骨格だけでも動くんじゃない?」
「動くと思うけど完成品に比べたら全然弱いはずだよ」
「そっかぁ」
装甲も装備も作ってないしね。
って言うか、和也は何で来たんだろう?遊びに来ただけかな?
「和也、今日は遊びに来た感じ?」
「あっ!そうそう伝える事があったんだ」
「もしかして松本が見つかった?」
僕の質問を聞いて、和也が何だか話し辛そうにしてます。これは悪い話かな…。
「実は土屋さんも行方不明になっちゃって…。松本と土屋さんだから遊び歩いてる可能性も高いんだけど、心配だから今みんなで探してるんだ。一応親友にも伝えておこうと思ってね」
「心配だね…。事件性があるのかも知れないし僕も一緒に探すよ」
「マジで?さすが親友!サンキューな」
「いやいや、当然だよ」
何だか嫌な予感がします…。急いでみんなと合流しましょう!
「じゃあ、まずは宿舎に行こうぜ。佐々木が役割分担とかしてるからさ」
「了解!」
さすがは学級委員長!ハニトラには引っ掛かっちゃったけど、なんだかんだで賢者様はしっかりしてるんだよな。
という事で、僕と和也はクラスメイトが宿泊してる宿舎へとゲートで移動しました。
バッサバッサバッサバッサ…。
宿舎へと移動した後、鳥型ゴーレムが魔法道具研究所へと帰ってきた。鳥型ゴーレムはザザの隣にある台座へ降りると、ピョンッとジャンプしてザザのコアへと飛び乗る。
すると、ザザのコアが赤く光輝きだした。どうやら鳥ゴーレムが見聞きしてきた情報をザザへとコピーしているみたいだ。
そして、しばらくするとコアの輝きが止まった。全てのコピーが完了したのだと思われる。
ブーン………。
ザザの目に光が灯る。コアと同じ赤色に。
ギギギギギギ…。ブチッ…。バキバキ…。
ザザは身体を固定していた器具を壊して立ち上がると、コアを掴んで自分の胸に嵌め込んだ。
「マ…モル……」
片言な感じで一言呟いたザザは、そのまま歩いて部屋を出て行った。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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