鈴のイヤリング
「師匠…。このクラスへの編入ですが、残念ながら駄目でした…」
「編入試験に落ちたのか?」
昼休みにロランが俺の元へとやって来た。俺に指導してもらう為に学校に通うって言っていたロランだが、願いも虚しく許可されなかったみたいだ。
「試験までも辿りつきませんでした…。そもそも俺は年齢的に中等部3年らしいです…」
あー。戸籍の無いリルは年齢をでっちあげたけど、ロランは正直に話したのか。ロランが戸籍管理されてるのかは分からないけど…。
「なるほどな。そういう事なら諦めるしか無いんじゃないか?」
「そんな…。そうだ!それなら勝手にライト先生を見て学ぶっていうのはどうでしょうか?」
「学校に侵入して俺を見てるって事か?」
「はいっ!」
いやいや。そんな元気に応えられても困るんだけど…。
「それは普通に不法侵入だろ」
「今もそうですが?」
確かに!
いや、違う違う。今は一応俺が把握してるし、今が駄目だからこれからも駄目で良いって事は無いだろう。仕方ないな…。
「分かった。では、リルと同じ様に俺のサポートとして指導者側に属してくれ。みんなと一緒に俺の指導を受けて、みんなを内側から引っ張って行くのはどうだ?」
「い、良いんですか?やったー!」
ロランはGランクだけど、Eクラスのみんなよりは強いからちょっとしたお手本役にはなると思う。
すると、許可を貰えて安心したロランは、ふと何かに気付いたみたいで周りをキョロキョロと見渡した。
「あれ…。そう言えば鳥型のゴーレムはどうしたんですか?」
気付いたのはそれか。確かに肩に止めていた鳥型ゴーレムは今いない。
「俺の周辺から得られる情報は十分に把握したみたいなんでな。今は校内を飛びながら自由に学習させている」
「学習?ですか?」
「まぁ気にするな」
さて、そろそろグラウンドに行こうかな。午後からは勇者達の戦闘訓練だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ん?マツモトはどうした?」
戦闘訓練の授業に来てみると、クラスメイトの松本が来てなかった。
昨日、聖教国の聖騎士が来た事や、クラス内で議論になった事は和也から聞いてる。あの聖騎士の名前はチェストで、ツェペラウスの1人だったらしい。
ツェペラウスってアレだよね。昔、リッチのゴルドに酷い事をした奴ら。ゴルドが成仏できない原因。まあ、何百年も前の話だけど。
「いや、知らねーな。朝から見てねーけど、いつもの事だぜ?」
「確かに松本君が授業をサボるのはいつもの事ね。先生、気にせず授業を始めてください」
確かに松本は地球にいた頃から授業をよくサボってたけど…。チェストの事かあった後だから少し気になるな。
念の為、俺は校舎全体を対象として探知魔法を使ってみる。しかし、チェストがゲストルームにいる事は確認できたものの、松本の気配を見つける事は出来なかった。
もしかしたら学校の外へ出ているのかも知れないな。
「分かった。ひとまず授業を始めよう。では、いつも通りランク毎に分かれてくれ。まずGランクだが…」
俺はランク毎に訓練内容を指示する。Dランク以上の15人(勇者パーティ、賢者パーティ、聖女パーティ)については個人毎に課題を与えた。
隼人には剣術の型をやらせてみる。龍彦は魔力制御を鍛えてもっと早く身体強化できる様にする感じだ。
問題なのが聖女パーティなんだよね。他の人達と違って大きな問題点が無いから何をやらせるべきか迷ってしまった。
まぁ和也は魔力の底上げ、白鳥さんは魔法発動速度アップ、田中君は防御スキル向上かな。後の2人は…。と考えていたら、本人達から模擬戦の希望が出た。
「先生。試したい事があるので模擬戦に付き合って欲しい」
「あ、私も一度先生と戦ってみたいな。出来れば無手でやりたいんだけど良いですか?」
仁科さんは試したい事があるらしい。まぁそれは良いんだけど…双葉との組み手は身バレの可能性があってヤバいかも…。いや、寧ろここで別人認定を貰っておくべきか…。
「あぁ、良いぞ。やってみよう。まずはニシナからだ」
「カタコト笑える」
「何か言ったか?」
「何でもない」
仁科さん勘弁してください…。
しれっと危険な発言をした仁科さんは、少し離れて短剣を取り出すと魔力を流した。その魔剣に耐える為にはアンサラーを使うしかないかな。
「じゃあ行くね?」
「いつでも大丈夫だ」
仁科さんは正面から特攻してきながら短剣で連撃を繰り出して来た。俺はアンサラーを抜いて仁科さんの攻撃を弾く。
強いな。並の人間じゃ相手にならないと思う。防御に関してはどうだろう?
「俺からも行くぞ」
「うん」
俺は正面からアンサラーで切り掛かった。まずは剣術レベル3くらいの力加減だ。仁科さんは攻撃を受けずにその場で回避する。
「素晴らしい動体視力だな。で、試してみたい事と言うのは既に実行しているのか?」
「んーん。まだ」
「そうか。ではこのまま続けるぞ」
俺は剣の速度を上げて行った。剣術レベル4相当でもギリギリ避けられたが、剣術レベル5相当にすると避ける事ができずに仁科さんは短剣で受け止める。
そして、非力な仁科さんは俺の力を受け止め切る事が出来ずに、そのまま吹き飛んでしまった。
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫。次は試したい事をやってみるからもう一度お願いします」
「あぁ、分かった」
すると、仁科さんは立ち上がってからイヤリングを触った。鈴の様な見た目だけど音は聞こえて来ない。
「そのイヤリング…魔法道具か?どうしたんだ?」
「和也くんが買ってくれた」
なんだってー!!
和也ったら…仁科さんに装飾品をプレゼントするなんて…。いつの間にそんなプレイボーイになったんだい!?
「良いから早く来て」
「あ、あぁ。悪い」
じゃあ、さっき避けれなかった剣術レベル5相当を行ってみましょう。
俺はさっきと同じ様に剣を振り下ろした。すると、さっきは避けれなかった仁科さんが余裕を持って回避する。
「ほぉ。まぐれかも知れないので続けて行くぞ?」
「うん」
という事で、俺は連撃を繰り出してみた。しかし、仁科さんにことごとく回避されてしまう。
スピードが上がった訳じゃない。初動が早くなった感じだ。それならば…これはどうだ!?
俺は転移で仁科さんの背後に回ると、卑怯にも後ろから切り掛かった。しかし、後ろに目でも有るのか、俺の攻撃はことごとく避けられてしまう。
「すげー。あそこだけ映画の撮影してるみたいだ…」
「どっちの動きも速すぎて、全然目で追えない…」
いつの間にやら他の生徒達の注目を集めてしまったみたいだ。更に驚かせる事になると思うけど、俺はそのまま速度を上げて行く。
結論から言うと、剣術レベル6相当も避けられて、剣術レベル7相当で捉える事が出来た。
「凄いな。その魔道具を使いこなせているのか?」
「まだ完璧じゃないけどね。先生ありがとう。かなり使える事が分かったよ」
俺は魔眼で仁科さんのイヤリングを見てみた。えっと…アイテム名は『こだま』で、名工シルバーの作品か。まぁ知らない人だけど…。
とりあえず、仁科さんは凄く相性の良い魔法道具を手に入れたみたいだ。
すると、仁科さんとの模擬戦が終わったのを感じて双葉が笑顔で近づいてくる。
「さてさて、次は私の番だよ?」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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