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レッサードラゴン

2023/02/25 表現を一部見直しました。

「マナよ巡れ!我が身を巡れ!我が血となりて駆け巡り敵を屠る力となれっ!!」


 双葉は、身体強化魔法を唱えてレッサードラゴンに備えた。


「みんなは下がって見てて!正直な所…試してみたいだけで無理をする気は無いから、すぐ助けてもらうと思う!」

「うん!双葉ちゃん無理しないでね!」

「それじゃあ…行ってくるぅ!」


 そして双葉はレッサードラゴンへと突っ込んで行く。だが、当然ながら相手もただただ待ってくれたりはしない。リーチは相手の方が長い訳なので、まずは先行攻撃を仕掛けてくる。リーチが長いとかそういう次元でも無いが…。


 腕を振り上げたレッサードラゴンは、その鋭い爪を横に薙いできた。双葉はギリギリ当たらない所までバックステップして攻撃を避ける。


「うん。攻撃は見えるね!これなら避ける事はできるかな!ただ…質量が重すぎて捌く事はできなさそう…」


 双葉は空振りしたレッサードラゴンの隙を突いて、足元まで近づいて行く。踏まれてしまわないかと、なかなかドキドキする状況だ。


「うーん…。大きすぎて関節とか投げるとかって感じでも無いし…どうしようかなぁ」


 双葉はレッサードラゴンに近づいたものの、有効そうな攻撃方法が思いつかないでいた。そもそも双葉が修めてきた武術は、基本的には対人間を想定して作られたものである。


 グルルルルルルル…


 レッサードラゴンは爪での攻撃に手応えがなかった事に疑問を感じ、周りをキョロキョロしていた。足元にいる双葉を見失っている。


 ………ゴンッ!

 グルァァアアアアアアアアッ!!


 レッサードラゴンは足に走った突然の痛みに叫び声を上げた。


「お…。鱗ごと殴ってみたけど一応効果あったみたい!でも、殴った鱗は割れたけど、身体へのダメージは少なそうかな…」


 双葉の予想は当たっていた。痛みこそ感じたものの、鱗と皮に阻まれてダメージは殆ど通ってなかった。

 そして、レッサードラゴンの鱗よりもダイアタートルの甲羅の方が堅かったのだが、何度も叩いていればそのうちナックルが壊れてしまいそうな予感がする。


 ドスッ!ドスッ!ドスッ!

 ギギャアアッ!!


 レッサードラゴンは双葉を踏みつぶそうとドタバタしている。しかし、双葉は避けまくっていた。


「暴れてるだけで的確な攻撃じゃない。知能は低そうかなぁ。なるほど…大きなトカゲね…」


 ………ボゴッ!

 グルァァアアアアアアアアッ!!!


 双葉はさっき砕いた鱗の場所をピンポイントで殴った。

 分厚い皮とナックルは相性が悪く、さっきより痛がってはいるが、やはりダメージは低そうである。


「むうぅぅ…。こういう衝撃に強い敵に対抗する為にも、もっと魔法練習しなきゃかなぁ…」


 双葉は生活に役立ちそうな土魔法は覚えていたが、戦闘向けの土魔法は覚えていなかった。何事も必要に迫られなければ覚えられないものである…。


「でも、だんだんレッサードラゴンが分かって来た!ちょっとは合わせられるかも!」


 ウロチョロする双葉がうざったくなってきたレッサードラゴンは、双葉と逆側に振り返ると…太い尻尾を振り回してきた。

 しかし双葉は、レッサードラゴンが振り返るのと同時に前へ出て、尻尾の付け根の鱗を掴んでいる。重心に近づいて独楽の軸と一体になった感じだ。


 双葉は元の位置にいないので、当然ながら尻尾を空を切った。そして、双葉は地面を思い切り踏み込み、尻尾を振り回した力の向き先をちょっと変えてやる。

 空を切った後の尻尾はレッサードラゴンが意図しない方向へ向いてしまい、大きくバランスを崩していた。


 グラァ…………ドダンッ!


 巨体が倒れた事によって土煙が舞う。


 グルゥ…?


 レッサードラゴンも初めての経験で、何が起こっているのか理解できていなかった。そして、地面に転がったレッサードラゴンの頭に対して、双葉は思いっきり蹴り上げてみる。


 ドフッ!!

 ギャオォォォオオオオ!!


 頭を蹴られて怒るレッサードラゴン。しかし、長い首が柳の様にしなり、ダメージを逃がしている。

 双葉は何かを考えていた…。そしてすぐに判断すると行動に移す。


「大いなる大地よ母なる大地よ!我が身を守る壁とならん!アースウォール!!」


 双葉はレッサードラゴンとの間に土の壁を作ると、麗奈達の元へと戻って来た。土壁は時間稼ぎの目隠しみたいだ。


「ただいま!」

「双葉ちゃんおかえり!」


 双葉の戦いを見ていたメンバーは、白鳥さん以外は信じられないという顔をしている。


「驚愕だな…1人の人間があれを転がすのか…」

「ふふふっ…田中くんもウチの道場に通ってみる?」

「真面目に考えておく…」


「立花さん…親友もこんな事ができるのかな?」

「うーん…こうはならないかなぁ?」

「そうだよね。流石にできないよね…」

「あ、違う違う。透だったら…もっと上手くできると思うって事!」

「そうなんだ…」


「立花さん、ソロはもう良いの?」

「うん。仁科さん。もう良いかなーって」


 どうやら、ソロ戦闘はやめるみたいだ。


「ただの消耗戦だね。相性が悪すぎて時間がかかるだけの作業かなぁ」

「確かに、上位プレイヤーの装備無し縛りプレー動画を見ているみたいだったよ…」

「ゲームでわざわざそういう事をやってる人がいるんだっけ?私はイライラしてきちゃうなぁ…」


 時間を掛ければ倒せる確信は得られたみたいで、ソロで倒す事はどうでも良くなったみたいだ。


「今後の為に必要な課題も見えたし、ソロで戦ってみたかった目的は達成できたよ!みんなありがとう!」

「そっか。それなら装備の損耗とかも考えて効率的に倒しちゃった方が良いね」

「うん!その方が安全だし、そうしよう!」


 白鳥さんも同意して、全員で戦う方針になった。そこで双葉は、それぞれに指示を出す。


「私と仁科さんは攪乱で。回避盾?って奴かな。仁科さん鱗の隙間から刺しまくっちゃって!どうせ皮は持って帰れないし切り刻んじゃって大丈夫だよ!」

「了解」


「田中君は一番相性良さそうだからメインアタッカーよろしくね!」

「わかった」


「でも田中君は割と攻撃を受けちゃうと思うから、麗奈は結界と回復を田中くんによろしくね!」

「うん!」


「和也くんは投擲をお願い。出来るだけ相手の目を狙って欲しいかな」

「ほい!了解!」


「じゃあ行くよー!!」


 ギャアオォォオオオオオオ!!


 そして、レッサードラゴンと聖女パーティの本格的な戦いが始まった。


…………。

………。

……。


 全員で戦い始めてから、30分程が経っていた。

 レッサードラゴンは傷だらけになっているが、持ち前のタフネスさでどうにか立っている。しかし、もう少しで決着は付きそうだった…。


 ドスッ!ザバァーッ!


「マナよ燃えよ!赤く燃えよ!怒り狂う炎となりて、目の前の敵を焼き尽くせ!!」


 田中君は、レッサードラゴンの腹をバスタードソードで引き裂いた。そして、引き裂いた場所へ火魔法を放ち、レッサードラゴンの内部を焼いたのだ。


 ドゴオォォオオオオオ…


 グルァァァァァ………

 ドスッ…ドスッ…ドスッ………ズズンッ!


 田中君の攻撃を受けたレッサードラゴンは、数歩ほど歩いてから盛大に倒れた。


「ふぅー!終わったかな?」


 双葉はレッサードラゴンの胴体部分に近づくと、心臓の鼓動がしない事を確認した。


「うん。倒せてるね!やっぱりパワーは田中君が一番だね!」

「ハァ…ハァ…。まぁ…みんなの支援が無ければ…すぐに潰れて終わりだけどな…」

「田中君。お疲れ様でした。回復しますね」


 田中君は何度もレッサードラゴンの攻撃を受けていたので、白鳥さんは改めて念入りに回復する。


「やったー!俺は石投げてただけだけど、それでも嬉しいな!」

「うん、よかった。でもこれは、解体が大変そうだね」


 仁科さんが動かなくなったレッサードラゴンの巨体を見ながら呟いた。確かに大きすぎて大変そうだ。


「うーん…通常のドラゴンじゃなくてレッサーだから、肝とか肉とか血はそんなに価値が無いみたいだよ」


 和也の言う通りで、レッサードラゴンの場合は珍しい食材くらいの価値しかなかった。それでも十分な価値ではあるのだが…。もしAランク以上のドラゴンであれば、エリクサー等の材料として非常に価値が出て来る。


「優先順位としては、魔石、牙、爪、鱗、皮、骨、内臓、肉、血って感じだね。いま俺が持てるのは鱗の途中までだと思うよ」

「じゃあ状態の良い鱗を選んで出来る限り持って行く感じかな?」

「そうだね。胸を割いて魔石を回収して、牙と爪を抜いて、良い鱗を選んで剥がす感じで…2時間弱だね」


「了解!じゃあ回収作業してから小休憩取りましょう!」

「「「「はーい!」」」」


 レッサードラゴンを撃破した聖女パーティは、素材を回収して小休憩を取った後、31階へと進んで3日目を終了した。


 その後、4日目で33階まで、5日目で35階まで探索を進める。30階まで1階1時間で進んだ聖女パーティだが、調査しながらとなると1階あたり半日は必要だった。


 そして、予定通り1週間での帰還に向けて、残りの2日間をかけて地上へと向かった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「わぁーい!1週間ぶりの地上だぁー!!」

「双葉ちゃん!やっとベッドで寝れるね!」


 聖女パーティは予定通り地上へと辿り着いた。

 とは言っても既に夜だったため、アイテムの売却等は明日にしてすぐに常宿へ戻る事にした。


「ただいまですー!夜遅くになっちゃってすいません!」


 双葉は宿屋の受付で挨拶をする。部屋は借りっぱなしなので、鍵だけ受け取った。


「フタバさんお帰りなさい。時間は大丈夫なんですけど、それより皆さんにお客さんが来てますよ」

「え?誰だろう?その人は何処にいるんですか?」

「2日前にいらっしゃって、それからここに宿泊されてます。203号室なので伺ってあげてください」

「わかりました!行ってみますね!」


 そして双葉達は、荷物を部屋に置くと装備は付けたまま再集合した。待ち人の所へ行くのだが、誰だか分からなかったので念のため警戒したのだ。


「この部屋だね。ホントに誰だろう…」


 コンコン…


「はい。何方ですか?」


 待ち人の部屋からは女性の声がした。あれ、この声は…。


「海老原先生。立花双葉です。他の4人もいます」

「…っ!!」


 ガッ…ガチャッ!!


 焦った様子で扉が開く。出てきたのはやはり海老原先生だった。聖女パーティの面々を1人1人しっかりと確認している。


「会えて良かったです。皆さんが元気そうでひとまず安心しました」

「先生も元気そうで良かったです。所で何かあったんですか?」

「あ、そうですね。お話ししたい事があるんです。ひとまず中へ」


 海老原先生に促されて、全員が部屋へと入った。


「お話ししたかった事は、情報共有と今度の連絡手段についてなんです…」


 そして海老原先生は、国王との謁見があった事、その場で隼人が成果を出す約束を国王としていた事などを話した。


「城之内君…何を勝手な約束してるのよ…。準備ができたら日本に帰るんでしょう…」

「先生もその辺を城之内君に聞いたんですけど、話を濁すんですよね…。もしかしたら帰らないつもりなのかもしれません…」

「まったく…何を考えているんだか…。あ、もう1つの連絡手段の話っていうのは何ですか?」

「それは…これなんです!」


 双葉の前に手の平を出す海老原先生。その手の上には…ネズミが載っていた…。見た目はハムスターなのだが、ハムスターより5倍くらい大きい。


「チュチュッ!!」


 ネズミは敬礼の様なポーズを取っている…。


「海老原先生…これは何ですか…?」

「これはスマートラットのチュー太です。Fランクの魔物なんですけど、戦闘能力は皆無なんです」


 戦闘能力は皆無という言葉を聞いて、チュー太は残念そうに肩を落としている…。


「もしかして…テイムってやつですか?」

「そうなんです!テイマーの能力で感覚共有がありまして、この子に話せば私に伝える事ができるんです!」


「凄い!逆に先生からも話せるんですか?」

「チュー太は喋れないので話はできません…。チュー太のジェスチャーになります…」

「わーお…。それは解読できるか謎ですね…」


 チュー太は『任せろ!』と言わんばかりに胸を叩いている。


「この子を…皆さんに連れて行って欲しいんです!」

「なるほど…連絡係って事ですね」

「はい!これで何かあった時に私とすぐ連絡取れる様になります!」


「双葉ちゃん。連れて行ってあげよう?私と一緒に居れば割と安全なんじゃないかな?」

「そうだね!先生と連絡を取れるのもありがたいし、結構可愛いし!」


「チュチュー!!」


 チュー太は喜んで白鳥さんに飛び乗ると、肩までよじ登って行った。


「ふふふっ…。チュー太さん、これからよろしくね!」


こうして、聖女パーティには影の6人(?)目が参加する事になった。

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書いてませんでしたが聖女パーティの魔法属性は次の通りです!

白鳥麗奈:聖

立花双葉:土

佐藤和也:時空

仁科 咲:風

田中修平:火


そして、次回は透側に戻ります!

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この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

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