おかえり!
「あれ、リルは何処だろう?」
約束通り奈落の底にある城に来てみたのですが、リルや部下達の姿が見当たりません。外に出てるのかな?
庭に出てみると遠くにリルの姿が見えた。リルも僕に気付いたみたいで駆け寄ってくる。遠近法って凄い…。近付くにつれ、尻尾を振るリルの姿がどんどん大きくなる。
「トールー!お迎えありがとー!」
「全然大丈夫だよ。部下の訓練は一段落したんだってね?僕の講師なんて始まったばっかりなのに、リルは凄いなぁ」
俺は飛行魔法で浮くとリルの首元を抱きしめてモフモフした。久しぶりだなぁ。んー、気持ちいい!
そして、リルを追いかけて部下のトロールとオーガ達も走ってきた。あれ?
「リル。何だか上位種が増えてない?」
「うん!いっぱい食べていっぱい訓練してたらいっぱい進化した!!」
なるほど。確かにこれなら奈落の底でも生活きていけるかな。集団で生活すれば、だけどね。
「それと人間っぽいのがいるけど…」
部下達の先頭には、細マッチョで身長の高いロン毛の男と、小腹が出てるけど筋肉が凄い男の人がいました。奈落迷宮を踏破したのかな?
「オーガロードとトロールロードだよ!2人とも人族化のスキル覚えたの。何言ってるのか分かりやすくなった!」
魔眼で見てみると、ロン毛がオーガロードで小太りがトロールロードみたいです。
「それじゃ行ってくるけど、ちゃんと毎日強いのを選んで狩りするんだよ?」
「承知」
「リル様、お気をつけて」
部下達は揃ってリルに敬礼をしています。軍隊みたいだ…。
じゃあ、準備オッケーぽいのでそろそろ学園に行こうかな。
「リルも人族化してもらって良い?これから学園に行くから、パーティメンバーとしてみんなに紹介したいんだ」
「うん!リルも学校に行くー!」
そう言うと、リルは小さくなって女の子の姿になった。まずはEクラスに行って、後で和也にも紹介しよう。
という事で、俺は学園へのゲートを開いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「せんせー!そのコは誰だにゃ?」
「俺とパーティを組んでいるリルだ」
「リルだよー!よろしくねっ!」
リルを連れて教室に入ったら、真っ先にタマが質問してきました。獣人だけあって何か感じるものがあるのかな?
「え!?ライト先生。その娘は俺達と同じくらいか…むしろもっと若く感じるのですが。先生とパーティが組めるだけの実力者なんですか?」
「あぁ。リルは強いぞ。レオは信じられないか?」
「ライト先生以外が言ったのなら信じない。でも、ライト先生が言ったから迷ってる」
なるほど、判断つかないか。俺は子供の頃に父親から言われた言葉を思い出した。当時は全然理解出来なかったけど…。
『自分が見たものしか信じられない男にならないで下さい。様々な経験をして見識を育てるんです。見ても見なくても判断できる正しい見識を。だから…裏切られる事を怖がらないで…恨まないで』
見てない事でも真実は確実に有るし、むしろ自分で見た物の中に嘘が混じってる事もあると思う。そういう事も見抜ける様にって事だよね?
どこまで行っても完璧な見識になる事は無いけど、沢山為されて沢山裏切られて沢山経験すれば近付いて行くよね。
という事で、信じて貰う為じゃなくて、みんなの経験とする為に…行ってみますか!
「よし。リルの力に疑問を持ってる者はリルと模擬戦だ!自分の眼力と事実のギャップを実感しろ」
「おぉ!やったらぁ!グラウンドに集合だ!」
「私は止めとくにゃ…」
それもまた良し。止めるべきと思った感覚の成功経験にしてくれ。
「わーい!戦闘だー!」
しまった…。経験も命あっての物種だ…。俺はリルに近付くと耳元で囁いた。
「リル。模擬戦って戦闘ごっこごっこだから」
「ごっこごっこ?」
「そう。戦闘ごっこよりも安全に。甘噛みでじゃれあう感じかな」
「うん!分かった!」
リルが俺の気持ちを理解してくれたのは信じてる。問題はリルの甘噛みがどれくらいの強さか…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えーい!」
「うわぁああぁぁああああ!」
ボロボロになっても立ち上がったレオが宙を舞っています。リルに腕を掴まれて振り回された挙句に、ジャイアントスイングの要領で放り投げられたんです。
周りには既に、クール男子のルーカス、神官のロッテ、美少女のチャーリー、宿屋娘のサリーが倒れています。ボッコボコです。
でも、重症者はいないかな。リルがちゃんと手加減できて良かった!
「馬鹿だにゃあ。リルの危険な感じが分からなかったのかにゃ?」
「私はリルの強さは分からなかったけど、ライト先生を信じましたわ」
タマとルナが倒れてるクラスメイトを見て呟きました。そんな2人にルーカスが反論します。
「僕だってライト先生を信じてました。だから模擬戦に参加したんです」
「どういう事ですか?」
「ライト先生も認める強者と戦えるチャンスですよ?やらない訳がないでしょう。これで一歩、あなた方より先に進めたかもしれませんね」
「にゃにゃにゃ!しまったにゃ!やっぱり私もやるにゃ!」
なるほど。経験を積む為に敢えてチャレンジしたのか。良いね!
それにしても、みんなリル相手に思ったよりも耐えてました。走り込みの成果が出て体力がついてますね。そろそろ次のステップに行っても良いかも。
あ、タマとルナも吹っ飛んだ…。
「よし。もう良いかな?光魔法で回復するから全員集まれ」
みんなが地面を這ったりフラフラと歩きながら近付いてきます。まるでゾンビの様です…。
「聖域。これでもう大丈夫だろう」
「うわ…。凄いですね。光属性の回復魔法ってこんなに効果あるのか…」
「レオ、違うと思う。光属性の回復効果は聖属性以下のはずだからライト先生が特殊なんだと思う」
「ルーカスの言う通りだ。他の光属性使いがこんな回復魔法を持ってるとは思わない様に」
怪我が治ったみんなは既に立ち上がっています。聖域は疲労感を消したりはできないんだけど…みんな凄いな。
そして、凄く楽しかったみたいでリルが嬉しそうに駆け寄ってきました。
「リルも学園通いたい!」
「…………え?」
う、うーん…。人間の文化や常識を学べるからアリかもしれないけど…。年齢とか誤魔化せるかな?それに、そもそも編入試験を合格できるのか…。
「先生!出来るんならリルにはEクラスに入って欲しいです。負けっぱなしじゃいられない!」
「タマも賛成だにゃ」
他の生徒達も見てみると、みんなリルを受け入れてくれるみたいです。じゃあ…頑張ってみますか。
「分かった。まずは学園長に相談してみよう。さて、みんなそろそろクラスに戻るぞ。オスカー先生が一限目の授業を開始できなくて困ってる」
『はーい!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「リッケルトに帰るの?」
「最近は魔法道具研究の為に別の屋敷で寝泊まりしてるんだ。友達と一緒に向かうからちょっと待ってね」
今日の授業は終わりました。学園長にリルの事を相談しようと思ったのですが、今日は外出してて学園にいなかったので、和也と合流して研究所に向かいたいと思います。
「親友お待たせー!あれ?その女の子は?」
「前に話したリルだよ」
「リルはリルだよ!宜しくね!」
「あ、あぁ。俺は佐藤和也。宜しく。えっと…前に言ってた実家に帰った狼さん?」
和也は少し呆気に取られた様子で質問をしてきました。
「そうそう。人族化ってスキルでこの姿にもなれるけど、本当は狼だよ」
「そうなんだ?もっと大きいのかと思ってたよ」
ふふふ…。ここで本来の姿に戻るわけにはいかないからね。研究所のベランダでお見せしましょう!
「とりあえず研究所に行こう。そこで本来の姿になってもらうよ」
「了解!」
それからゲートを開くと、全員で研究所の庭へと移動しました。そして、大きな屋敷を見たリルが第一声を上げます。
「小さいおうちだねー!」
「「え!?」」
ちょ…マジで?凄く大きいと思うけど…。
「リル…もしかしてリッケルトの部屋とか狭かったりした?」
「んーん。全然そんな事ないよ?それにトールが堅めた石は頑丈で安心だもん!」
「でも、この屋敷が小さく感じるならリッケルトの宿屋も小さいよね?」
「うん!地上の建物は全部小さいんだね!」
あー…なるほど…。
「和也、分かった。リルはずっと奈落の底の城で生活してたんだ。だから、あれが普通サイズなんだ…」
「あ、コクヨクさんに連れて行ってもらった城か…。あの城はデカかったなぁ…」
リルの考える「大きい」の基準が凄い事になってるけど、別に小さいから嫌という事でもないみたいなので、とりあえず良かったです。
「じゃあリル。和也に本来の姿を見せてもらっても良い?」
「うん!いいよー!」
そして、リルは狼の姿となり、更にどんどん大きくなっていきます。
「う…うわ…マジ?で、でけー」
和也がリルの顔を見上げて、口をポカーンと開けてます。ふふふふ…。
「どう?大狼だったでしょ?」
「大きいにも程があるだろ…」
どうやら和也の想像よりも大きかったみたいです。すると、ここでリルが予想外の提案をしてきました。
「ねぇねぇ!戦闘ごっこごっこやろう?」
「何だそれ?」
「超手加減のじゃれ合いかな。Eクラスのみんなともやったけど無事だったから大丈夫だよ」
「そうなのか…。それなら良いけど…」
「わーい!じゃあ行くよ!」
リルは巨大な姿のまま、大きな手を横に薙ぎました。大きな肉球は和也が立っていた所を通り過ぎます…。
あれ…。リル?手加減大丈夫だよね??
「いや!これは死ぬだろ!たとえ肉球でも質量がヤバいって!!」
良かった…生きてた…。どうやら和也は転移で避けたみたいです。そして、何故かリルの目は爛々と輝いています。
「わーい!トールみたいだ!凄いね!!」
そう言いながらリルは和也に追撃をします。魔法は使ってないし多角連撃もしてないし爪や牙は使ってないし…。一応、僕との戦闘ごっこよりは手加減してるかな…。
「うひっ!ぬひょっ!ひやぁっ!」
和也が変な声を出しながらギリギリで回避しまくってます。これは…結構和也の訓練としても丁度良いのでは…。
「すごーい!えいっ!えいっ!」
「親友!笑ってないで止めさせて!」
「いやいや!これは続けた方が良いって!」
頑張れ和也!僕はしばらく様子を見守る事にしました。
和也には悪いけど、リルがいるとやっぱり楽しいな。とりあえず、リル、おかえり!
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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