毒
「アクル王国の第一王子、アレクです。よろしくお願いします」
「冒険者のライトだ。こちらこそ宜しく頼む」
放課後になるとハルトが教室まで迎えに来た。ハルトに着いて行くと、グラウンドでミレーヌとアレクが待っていて、アレクから礼儀正しく挨拶をされた。という訳です。
ふと横を見てみると、Eクラスのみんなが一生懸命に走る姿が写った。なんだかんだで魔法使いのルナも一緒に走ってますね。体力の必要性が分かって貰えたのかな?
「あ、あの、コクヨク殿に乗せて頂けると聞いたのですが!」
「あぁ、勿論大丈夫だ。ちょっと待て」
俺はゲートを開いてコクヨクを呼ぶ。ゲートから現れたコクヨクの姿を見ると、アレクは頬を高揚させて目を見開いた。
「話には聞いておりましたが…。こ、こんなにも大きいのですね!」
「コクヨクはアリコーンの中でも特に大きいからな。コクヨクが屈んだとしても乗りづらいだろうから俺が上まで運ぼう」
確かアレクは身体が弱いって話でした。ミレーヌみたいに自分で飛び乗ったり飛び降りたりするのは無理でしょう。
俺はアレクをお姫様抱っこすると、ジャンプしてコクヨクに飛び乗りました。そして、アレクを鞍に座らせます。
馬車の方が良いかな?とも思ったのですが、あれ実際は部屋の中にいるだけだからね…。何だか心が痛んだので直接乗ってもらう事にしました。
「コクヨク。このまま空を飛んでくれ」
「ヒヒーン!」(承知!)
コクヨクは空へと飛び立つと、そのまま一気に上昇していく。とは言っても大結界の手前までです。
初日に壊した大結界は白鳥さんの魔力によって既に復活済みなんですが、また壊したら凄く怒られちゃいます…。
「う…うわ…うわぁあああああ!」
「大丈夫だ。支えてるから落ちたりしない。例え落ちたとしても地面と衝突する前にコクヨクが拾ってくれる」
「はっ、はい!」
アレクは高い所が怖いみたいで全力で手綱を握りしめていた。こう考えると、最初から平気だったミレーヌとハルトは神経が図太過ぎな気がする。
「ライトさん、ちょっと慣れてきました…。風が気持ち良いですね」
「そうだな。空を飛ぶのは気持ちが良いものだろう。今アレクは、殆どの人間が知らない経験をしているぞ?」
「ふわぁあああ。そう考えると…胸が熱くなりますね!」
素直…。ホントにイザベラ王女の弟なのか?いや、むしろイザベラ王女の弟だからこう育ったのか?
それから15分くらい学園都市の上を飛んでから俺達は地上へと戻りました。
「アレク様。空のお散歩は如何でしたか?」
「ミレーヌ殿下!とてもとても素晴らしい経験でした!ライト様を紹介して頂き、本当にありがとうございます!」
「そ…そんな。アレク様に喜んで頂けたのなら何よりですわ」
2人に満足して貰えて良かったです。だけど、本題は別なんですよね。聖女の事をアレクに聞かないと。
「アレク。聞きたいことが有るんだが時間を貰えるか?」
「勿論です!あの…もし宜しければ一緒に夕食など如何ですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「あの…私も宜しいですか?」
「ミレーヌ皇女、勿論ですよ」
ミレーヌはやっぱり主旨を忘れてるな。お前が来ないと意味ないだろう…。
という事で、アレクのお屋敷に行く事になりました。これは…お披露目チャンスなんじゃないでしょうか!
「では馬車で行こう。俺の馬車がある」
「あら、ライトは馬車なんて持ってましたの?」
「ああ、最近作ったんだ。コクヨク用の馬車をな」
「あら、それは凄そうですわね」
俺はアイテムボックスを開くと、和也達と作成した馬車を取り出した。
「ライト…。なに皇族や王族よりも豪華な馬車を作ってますの?しかも宙に浮いてますわ…」
「豪華な馬車を作った訳じゃない。コクヨクに耐えられる馬車を作ったら結果的に高価になったんだ」
そう言いながら、俺は馬車のドアを開けて中へと促す。レディファーストで先にミレーヌが扉を潜ると、中を見たミレーヌが叫び声を上げた。
「これは何なんですのー!?馬車の中が広い部屋になってますわ!!」
「あぁ、時空魔法でちょっとな」
「か…拡張したんですのね!」
残念ながら拡張はしてません。種明かしするとがっかりされちゃいそうなので、ここはノーコメントです。
「ミレーヌもアレクも適当に座ってくれ。ハルトはアレクの家は知ってるのか?」
「あぁ、知ってるよ」
「では御者をお願いしても良いか?コクヨクに口頭で伝えれば大丈夫だ」
「それは楽だね。了解」
あ…軽い気持ちで御者をお願いしちゃったけど、ハルトって公爵子息なんだっけ?まぁいっか。今は正体隠してるんだし。
という事で、後はハルトに任せて俺も馬車の中(?)へと入った。
「2人は紅茶飲むか?プロのメイドほど上手くは入れられないが」
「頂きますわ」
「ありがとうございます。でも、これから馬車が動き出すのに大丈夫ですか?」
「馬車なら既に動いてるぞ」
「「…………え!?」」
俺の発言に一瞬停止した2人は、顔を見合わせてから窓へと走った。
「ほ…本当に動いてますわ…」
「こんなに揺れないなんて…どうなってるんですか?」
「仕組みは言えないが、馬車の揺れで紅茶が溢れる事は無いので安心して座ってくれ」
俺は淹れた紅茶をテーブルに置いてソファに座った。カップに注ぐのはもう少し蒸らしてからかな。
それから俺達はアレクの家に着くまでの間、馬車の中でゆっくりと寛ぎました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ブルルル…」(魔王様。少しお話が)
アレクの家に着いたので馬車を収納してコクヨクに戻ってもらおうと思ったのですが、何やら俺に話があるみたいです。
「コクヨク、何だい?」
「ブルル…ブル」(リル殿より伝言をお預かりしております)
「何だろ?食料が足りなくなったのかな?」
「ブルゥ…ブルルル」(いえ。配下の修行が一段落したらしく、明日の朝に迎えに来て欲しいそうです)
「おぉ!思ったより早かったね。伝言ありがとう。明日迎えに行くよ」
「ブルルル…」(承知しました。リル殿にお伝えしておきます)
部下達が奈落の底で生きていけるくらい成長できたって事ですよね。スパルタだったんだろうな…。
「ライト!早く行きましょう」
おっと、ミレーヌに急かされてしまいました。俺はコクヨクをゲートで送ってからミレーヌ達に合流しました。
「それでは食堂に参りましょう。ライトさん。こちらになります」
俺達はアレクに着いて行きました。冷遇されてるとは言え流石は第一王子。立派な屋敷です。
食堂に着くと、俺はアレクと正面になる形でテーブルに座ります。ミレーヌは何故かアレクの隣です。
「料理はまだだが話し始めても良いだろうか?」
「はい。大丈夫ですよ。聞きたい事って何でしょうか?」
「聖女の事だ。プロポーズしたと聞いたが本当なのか?」
アレクは少し驚いた表情です。「何故知っているのか?」と疑問に思ったのでしょう。そして、少し笑って答えてくれました。
「Sランク冒険者ですもんね。はい、事実です。プロポーズと言うか、許嫁になってくれないかと話させて頂きました。でも、残念ながら断られてしまいましたよ」
「アレク様のお誘いを断るなんて…なんて無礼な…」
ミレーヌよ…お前はどうしたいんだ…。
無茶苦茶なミレーヌは放置して俺は更に質問をした。
「何故聖女に?何か惚れる様な事でもあったのか?」
「えっと…。奈落迷宮を踏破した聖女様は尊敬しているし憧れています」
ん?違和感があるな…。
「憧れたらプロポーズするってもんでも無いだろう。惚れてる訳ではないのか?では何故?」
「それは…。これでも王族なので、自分の意思で結婚できる訳ではありませんから…」
「つまり、アクル王国の指示か」
「すいません。私の口からは…」
そりゃそうか。普通に情報漏洩になるよね。下手したら国家反逆罪とかになるのかも。
「アレク。今から俺の理解を話す。特に頷いたり認めたりしなくて良い」
「はい」
アレクの事は聞いてなかったけど、賢者に対するシルビア王女のハニトラと多分同じな気がします。
「第一王子のアレクに命令できる立場で異世界人関係となると、命令してるのはイザベラ王女か。勇者の様に従わない聖女を色恋で引き込めないか考えた訳だな。そうなると、シルビア王女と賢者の関係も…」
「違います!姉上は本当に賢者様の事を!」
つまり、自分は違わないと。
「今ではそうかも知れないが、キッカケはイザベラ王女の指示なのだろう?」
「うっ…」
「別に責めている訳ではない。今では本当に好き合っている様に見えるしな」
アレクは大きく頷く。姉から惚気話でも聞かされてるのかも知れないな。
「しかし、アレクの方は失敗して聖女の心は射止められなかったと。いや、今も作戦継続中かな。やればやるほど逆効果な気がして様子を見てるという感じか」
アレクはバツの悪そうな顔をしています。ただ、無言なままで返答はありません。
「という見解なんたが。ミレーヌはどう思う?」
「とりあえず、イザベラ王女を排して早くアレク様が王位に就くべきだという事は再認識できましたわ」
諸悪の根源はイザベラ王女だって事で納得してくれたみたいです。アレクが明言してくれないと駄目かな?とも思ったのですが、無言を承認と解釈してくれたみたいで良かった。
「事情は何となく分かった。アレク、不躾な質問で悪かったな」
「いえ。大丈夫です。歯切れの悪い回答で申し訳ありませんでした」
すると、タイミングを計っていたのか料理が運ばれてきました。まずはスープですね。とても良い匂いがします。
材料は何だろう?俺でも作れそうならリルに作ってあげたいな。俺はスープを魔眼で見てみました。
なるほど。この匂いはこの世界特有のキノコによる物なのか。あれ?視界の端に入り込んだアレクのスープだけ材料が違います。ミレーヌのは俺と同じだな。
アレクのにだけ入ってるファーシェルマッシュって何だろう?
『毒っす!即死する訳ではないっすけど、摂り続けると身体の内部から石化して行くっす!』
バスの説明を聞いた俺は、即座にアレクの腕を掴んでいた。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
ブクマして頂けたり、↓の☆で皆様の評価をお聞かせ頂けるととても嬉しいです!
あと、下にある『小説家になろう 勝手にランキング』をクリックして貰えると助かります!
ランキングサイトに移動しますが、そのサイトでの順位が上がるみたいです。よろしくお願いします!




