何やってるの?
※途中まで和也視点になります。
「あー、ねむ…。昨日は徹夜だったから今日は早く帰って寝よ…あれ?あそこにいるのは…」
ここは学術都市の商店街。学園から宿舎に帰っていると仁科さんが露天の宝石商でイヤリングを見ていた。
俺は気になって覗き込んでみる。
「仁科さん、何やってるの?」
「あ、和也くん。商品を見てただけだよ」
仁科さんが見てるのは鈴の様なイヤリングだ。デザインが紋様みたい。仁科さんがアクセサリーに興味を持つなんて珍しいな。
俺は仁科さんが気にしている鈴を手に取ってみた。
「あれ?鈴みたいに音がするのかと思ったら何もしないんだね」
「そう。音がしないの。凄い」
鈴の中を見てみると舌はちゃんと入ってる。あ、舌って鈴とか風鈴に当たって音を鳴らす重りの事です。
これ、鈴だとしたら不良品だよね?何が凄いのかはよく分からないけど、仁科さんが気に入ったんなら買ってあげようかな。
「仁科さん。それが気に入ったんなら俺に買わせてよ。この前変なお願いしちゃったお詫びにさ」
「え?そんな悪いよ」
「大丈夫だよ。俺、分配金あまり使ってなくて結構残ってるんだ」
親友から預かってるお金もあるけど、それを使うのは何か違うよね。ちゃんとクエスト報酬を分配した俺の貯金から支払おう。
という事で、俺は店のオヤジに話しかけた。
「オヤジさん。このイヤリングを貰えるかな」
「あいよ。金貨3枚だ」
……あれ?金貨?銀貨の間違えだよね?銀貨3枚でも高い気がするけど…そこは地球との技術力の差として理解できる。
「えっと、銀貨3枚?」
「き・ん・か!だから金貨3枚だ。効果はよく分からんが一応マジックアイテムだからな」
マジか…。これはかなり予想外の出費だ…。でも親父が言ってたな。意地を張る姿が格好良く見えたりする事もあるって。よしっ!
「だから良いって」
「いやいや、大丈夫だよ。全然余裕だって」
俺が暫くダイエットすれば良いだけだからね。親友と一緒に何か売れる物を開発しよう…。
「はい。金貨3枚です」
「はははは。そういう男の意地は嫌いじゃ無いぜ。その意地を通させる為にも値引きしないで受け取ってやる」
「お、おぅ…。ありがとう?」
おっさんに刺さってもな…。値引きしてくれて全然良いのに…。俺はイヤリングを受け取ると仁科さんの両耳に着けてあげた。
「あ…ありがとう…」
「いいよ。確かに似合ってるしね」
少しはお詫びになったかな?
それにしても、このマジックアイテムの効果は何なんだろう。親友なら何か分かるのかな?まぁ、似合ってるんだからそれでいっか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※ここから透視点になります。
「昨日の和也達は辛そうだったな。今日は復活してると良いけど」
一昨日は黒翼車の為に徹夜になっちゃったので、昨日は何もせずに帰って寝る事にしました。
今は朝の通学タイムなのですが、自分のクラスに行く前に和也達の様子を見に行こうと思います。
「えっと、高等部2年の臨時教室は…あそこか。あ…」
和也達の教室を見に行くと、ちょうど双葉と白鳥さんが登校してきた所でした。下手に近付くとまた正体がバレそうだな…。
そうして警戒していると、白鳥さんが教室のドアに手を掛けました。
「麗奈!危ないっ!」
白鳥さんに声を掛けた双葉は、そのままジャンプすると白鳥さんに落ちてきた物体を蹴り飛ばします。
しかし、蹴り飛ばしたのは黒板消しだったみたいで、チョークの粉が舞い散りました。
「ゴホッ!ゴホッ!麗奈、ごめん。大丈夫?」
「ごほっ!うん、大丈夫だよ。ありが、きゃっ!」
上に気を取られていた白鳥さんは、なぜか足元に落ちていた謎の果物の皮を踏んで転んでいました。
なるほど。これが白鳥さんだけ不幸な事が続いてて『薄幸の聖女』とか呼ばれてるって和也が言ってたやつか…。だとすると、俺の予測が正しければ…。
俺は探知魔法で周辺に誰がいるのかを調べる。そして、隠れて白鳥さんを見ている存在を確認すると、後へ回り込んで頭を鷲掴みにした。
「お前は何やってるんだ?」
「ラ、ラララ、ライトじゃありませんの?如何なさったのかしら?」
どうやら白を切るつもりの様なので、俺は掴んだ頭をそのまま持ち上げた。
「ミレーヌ。聖女に起きている不幸な事象の犯人はお前か?」
「な…何の事かしら?降ろして下さいまし!」
「お前が犯人ではないと心から誓えるか?もし嘘だった場合、お前は俺の信用を失うことになる」
「うっ…ぐぐぅ…」
ミレーヌが責める様な目で俺を見てくる。いやいや、俺が脅してるみたいな雰囲気出してるけど自分が原因だよね。
「全てなのかは分かりませんが…。私が仕組んだモノもあるのは認めますわ。でも、それは当然の報いなのです!」
「まぁ何となく分かるが一応聞こう。何故だ?」
「純粋なアレク様の御心を騙しているのです!プロポーズまでさせられるなんて…きっと邪悪な聖女に操られているのですわ!」
邪悪な聖女って何だよ…。それにしても、やっぱりプロポーズの事はバレていたか…。流石は大国の情報収集力。
「ちなみに、父親の事はどうでも良いのか?勇者と同じ異世界人だから聖女を恨んでるとかは?」
「そこはむしろお礼が言いたいくらいですわ。封じなければならない事実を生まずに済みましたから」
あー、やっぱり勇者が殺らなかったら自分達で殺るつもりだったのね…。
「重要なのは過去ではなく、現在と未来です。なので、私はそんな事よりも弟に対するリスクが残っている事の方が気になりますわ。ライト、勇者を殺してくれません?」
嫌だよ…。
「断る。俺は暗殺者ではない」
「残念です。所で、そろそろ降ろして下さいませんか?」
聖女の事が決着してないので駄目です。俺はミレーヌの発言を無視して追加の質問をした。
「ついでに聞くが、帝国は何故アクル王国を攻めないんだ?皇帝が暗殺されたんだから普通は報復を考えそうなものだが」
実は少し気になってたんですよね。
「平和主義だったジョン叔父様の思いを無下にする訳には。というのも有りますが、政治的にも困難なんですわ」
「それは何故だ?」
「勇者、賢者、聖女がいるアクル王国を攻めたら聖教国が動きますもの」
「この大陸で最も信仰されてる宗教の総本山だったか」
「そしてバルトロ帝国の国教でもありますわ。聖教国は勇者、賢者、聖女を神の使徒として敬っているので、アクル王国を攻めると敵対する可能性がありますの。それは非常に困りますわ」
「アクル王国の悪行が原因なのにか?」
「普通はそう考えますわよね。でも、聖教国の基準は一般とは異なるんですのよ」
そんな宗教、俺には邪教に感じるけど…。でも宗教って難しいですよね。地球でも俺には理解し難い理屈で戦争が起きてたし。
ちなみに俺はどの宗派にも属してません。そして、人の信仰そのものに口を出すつもりもありません。ただ、行動が俺と敵対する結果になるのなら…俺は徹底的に戦うと思います。
あ、誤解を与えたかも。俺は神様がいないと思ってる訳でもないんです。何を以って神と定めるのかにもよるけど。
超常の存在はいるかもしれないけど、少なくとも人間を無償の愛で救う存在、人類の味方だとは考えてない。って感じです。
「そう言えば、聖王国のSランクが学術都市に向かってるという情報を入手しましたわ。ライトはSランクの新参者ですから、絡まれない様にお気をつけなさい」
「二つ名が『聖女』の奴か。聖女に絡まれるとなったら、俺の絡まれ属性もよっぽどだな。で、話を戻すぞ?本物の聖女の話だ」
ミレーヌが嫌そうな顔をします。このままだと頭離さないからね?怪人ブラブラって呼ばれてたくらいだからね?
「聖女がアレク王子を操ってるとは思えない。ミレーヌとしても誤解ならば何の問題も無いんだろう?」
「まぁそうですわね。でも、それならばアレク様がプロポーズした理由も明らかにならなければ納得できませんけど」
そう来るか…。まぁ何にせよ、まずは本人から話を聞いてみた方が良いと思います。
「では、アレク王子を俺に紹介してくれないか?直接事情を聞いてみたい」
「あっ!それは良いですわね!是非アレク様をコクヨクに乗せてあげて下さい。コクヨクの事をアレク様にお話ししたらとても興味を持たれてましたの♪」
ミレーヌは俺に頭を掴まれてブラブラされながら、握った両手を頬に持って行って嬉しそうにしている。
「善は急げですわ!ライト、今日の放課後は空けておきなさい。アレク様を紹介しますわ」
アレク王子の許可が絶対貰える前提か…。アレク王子も可哀想に…。それと、そもそもの本題を忘れるなよ?
「あぁ、分かった。ただし、アレク王子に確認できるまで聖女への嫌がらせは止めるんだ。いいな?」
「ふぅ。仕方ありませんわね」
何でお前が『やれやれ…』って雰囲気なんだよ。こいつ、この調子で普通の学生生活が送れてるんだろうか?
それからミレーヌを解放すると、俺は自分のクラスへと移動しました。そういえばミレーヌも中等部なので、レオやタマ達ならミレーヌの学生生活について何か知ってるかもしれません。
「ちょっと教えて欲しいんだが、中等部3年の代表をしてるミレーヌ皇女って日頃どんな感じなんだ?」
「え…」
「ミレーヌ皇女って…悪役令嬢の事だろ?」
「そうだにゃ。アレク王子に近付くと酷い目に遭わされるにゃ…」
「私はアレク王子に話しかけた女子が泥まみれにされたって聞いた事があるわよ」
「アレク王子に近付いた女子は学内で不幸な事が続くらしいね。そして、アレク王子から離れると止まる。ミレーヌ皇女の仕業だってもっぱらの噂だよ」
陰で『悪役令嬢』って呼ばれてるのか…。
ミレーヌ…。何やってんの…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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