墓守
「洋館に入って声の主に会ってくるけど、和也も行く?」
「お、おぅ!」
本音は怖いっぽいけど大丈夫かな?雰囲気から僕の考えを察したのか、和也が大丈夫な理由を説明した。
「正直、大量のアンデッドにはビビったさ。でも奈落迷宮で多少は経験してるから大丈夫だよ。嫌は嫌だけど我慢できるくらいには慣れてるよ」
「そうなんだ?了解。じゃあ行こうか」
そう言うと、僕は軽く地面を蹴って柵を飛び越えた。どこかに正門もあると思うんだけど、探すのも面倒だからね。
「うぉ…。親友は不法侵入に躊躇が無いんだな」
「え?違うよ。山にあるモノは全て購入した形だから、この洋館も所有権は僕にあるはずだよ?」
「そうなんだ?オマケで屋敷が付いてくるって金持ちの感覚はすげぇな…。じゃあ親友的には購入した建物に勝手に魔物が住み付いてる状態なんだな」
「まぁそういう事だね。そう言えば不動産屋さんが『本当に買うの?』って顔してたけど、これが原因なのかも」
「じゃあ『住み着いた』んじゃなくて『住み着いてた』のか。この世界は説明責任とか無いんだな。親友じゃなかったら詐欺みたいなもんだぜ」
確かに…。僕が対処できる保証も無いんだけど、他の人ならすぐ売却する事になるかも…。
グルァアアアアア!
侵入に気付かれたみたいでワイトが襲い掛かって来た。僕は刀を抜くとワイトの両足を斬って機動力を削いだ。ただし、トドメは刺しません。
「親友ごめん。俺がもたもたしてたから見つかっちゃったな。それにしても、何で倒しちゃわないんだ?」
転移を使ったのかな?いつの間にやら柵を超えて来てた和也に質問されました。
「アンデッドって色々と事情があるみたいなんだよ。死霊術師にアンデッドにされちゃったのとか、怨みからアンデッドに成ったのとか。できれば納得して成仏して欲しいから、可能な限り話しを聞いてあげたいなと思ってさ」
「なるほどね。親友の優しさは素晴らしいと思うよ。ただ、そうなると問答無用で足を斬れる容赦の無さが凄いな」
「まぁ、そこは、襲われてる訳だからね」
「じゃあ俺も相手を行動できなくすれば良いかな?」
「そうだね。よろしく頼むよ」
それから僕達は襲い掛かってくるアンデッドモンスターを撃退しながら洋館の中へ入って行きました。
アンデッドを操ってる魔力は地下から感じます。
「和也。ボスは地下にいるみたい」
「定番だな。マッドサイエンティストが研究とかしてるのかも」
「あー。あるあるだね」
悪い科学者が人体実験して…とか良く聞きますよね。
「あ、ここが地下室への入り口じゃね?」
「ナイス和也!良く分かったね」
和也が床に隠し扉を見つけました。床が簡単に剥がれるようになっていて、その下には扉があります。扉を開けると下に向かう階段になっていました。
僕もキールさんから探索技術を教わったはずなのに全然気付きませんでしたよ。和也の方が才能あるのかも。
「まーね。奈落迷宮でかなり鍛えられたからね」
なるほど…経験に勝るものはありませんね。よくよく考えたら僕って普通の冒険全然してないな。カイン達とクエスト受けまくってるイトの方が成長してそうだ…。
とりあえず、僕と和也はジメジメした階段を降りて行きました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「貴様ら…帰れと言うたのに…」
階段を降りてみたらかなり広い部屋に辿り着きました。部屋は実験器具の様な物が色々と並んでいて、マジックアイテムらしき物も転がっています。
そして、そこには魔術師風の衣装に身を包んだスケルトンがいました。違うな…スケルトンじゃなくてリッチという魔物みたいです。
「忠告を聞かなかったお主らが悪いのじゃ。死ねぃ!」
リッチから出る瘴気が僕達に襲い掛かる。どうやら恐怖の状態異常効果があるみたいだけど僕には効果がなかった。
しかし和也はそういう訳にもいかず、膝を付いて震えだす。そして、そんな和也を見た僕からは魔王覇気が溢れ出ていた。
「攻撃をやめろ。まずは会話をするつもりだったが、やめないのならば…問答無用で潰すぞ?」
「う…ぐ…ぐぅ…」
魔王覇気に当てられてリッチは呻き声をあげる。そして、瘴気による攻撃を止めた。
「何と恐ろしい覇気じゃ…。わしでは歯が立ちそうに無いのぅ」
「攻撃を停止してくれて助かる。俺はライトと言う。折角言葉が通じるんだ。まずは話をしないか?」
「わしに断る権利など無いじゃろ。話とは何じゃ?」
ありゃ…何だか卑屈になっちゃいましたね…。
「では質問させて頂く。何故、採掘場をアンデッドに襲わせたんだ?」
「この山はわしのものじゃ。侵入者を排除しようとするのは当然じゃろう?」
あれ?正式な手続きで買ったはずだけど…。
「俺が購入してて権利書もあるんだが。貴方は権利書とかあるのか?」
「ない…。わしが殺された時に奪われた…。しかし!殺されて奪われたから相手の物になるなど、納得できると思うか!?」
うわー。そういう事ですか…。その奪われた権利が今僕の所にあるって訳ですね。これは一方的に倒して良い話じゃないね。
「殺されたのっていつ頃なんだ?」
「もう600年ほど前になるの…。奴等…わしを騙して色々な研究をさせた挙句、わしや妻を殺し、部下や護衛の者達も殺し、研究成果を奪って行きおった。皆殺しじゃ…」
「貴方はその怨みでアンデッドに?」
「そうじゃな。それと、屋敷の中にいるアンデッドもわしの部下や護衛達の成れの果てじゃ。ただ、妻は成れんかった。いや…成れなかったのはせめてもの救いか…」
600年も前なのか…。じゃあ現代の人達は覚えてる可能性低そうですね。やっぱり一方的に消滅させなくて良かった。
「俺は聖属性の魔法が使える。浄化で昇天させる事もできるがどうする?」
「ほぅ、珍しいの。先程の禍々しい気を放ちながら聖属性も使えるのか。そうじゃな…。部下達は昇天させてもらえるか?因みに外におるスケルトンは部下ではない。この土地に埋もれてた存在を操っていただけじゃ」
「そうか。貴方自身は良いのか?」
「わしは良い。ここで妻の墓守を続ける。それに、わしを貶めた奴等が死に絶えるまで、成仏する訳にはいかん」
貶めた奴等って…。600年も前なんだから全員亡くなってるんじゃないかな?
「既に全員死んでるんじゃないか?」
「配下達はそうかもしれんが、中心にいたあ奴は今でも生きている気がするんじゃ」
マジか…。いったい何者だ?
「奴等って誰のことなんだ?」
「聖王国の聖騎士達の事じゃよ。中心になってわしと話していたのは教皇近衛騎士団『ツェペラウス』の第二席じゃ」
え?ちょっと新たな情報ばっかりで混乱中です。とりあえず、聖王国の強い騎士は席次で評価されてて当時の第二席が怨みの対象って事ですね。
「では、こういうのはどうだろうか?奥さんの墓には手を出さないし、むしろ守ろう。そして、聖王国の第二席の事も調べてみる。だから、この山で採掘する事を許して貰えないか?」
「随分と謙虚なものじゃな。強制的にわしを排除する力を持ちながら…。分かった。その条件を呑もう」
良かった!とりあえず採掘は続けられそうです。そして、リッチは更に予想外な言葉を続けました。
「この屋敷も好きに使ってくれて構わん。と言うか、わしを雇わんか?」
「え?雇うって…リッチは何ができるんだ?」
「生前のわしはそれなりに名の通った錬金術師じゃった。まぁ名前は忘れてしまったがの。じゃから魔法道具の生産ができるぞ。戦闘能力でもSランクくらいの強さはあるが…お主には不要じゃろ?」
あぁ、なるほど。この実験器具やら魔法道具やらは錬金術師として使ってたのか。悪の科学者じゃなくて良かった…。
「了解だ。俺の魔法道具作成を手伝ってくれ。この場所も利用させてもらおう」
「ホホホ。こんなリッチを雇ってくれてありがとうのう」
「そう言えば名前は忘れてしまったんだったか」
「そうじゃな。主殿、良ければ新たな名を付けて下さらんか?」
「またか…。では、リッチ…金持ち…ゴールド…ゴルド…。『ゴルド』でどうだ?」
「ふむ、なかなか良いな。気に入った。では、これからよろしく頼む」
「あぁ、こちらこそだ」
それから、ゴルドの部下達は浄化して成仏して貰いました。ただ、ゴルドの護衛隊長をしてた元騎士のデュラハンだけ『ゴルドと行動を共にしたい』と拒否して来たので、その意思を尊重して残ってもらう事になりました。この屋敷の門番をやって貰いましょう。
とりあえず、ホネホネ墓守お爺ちゃんのゴルドが仲間に加わりました。しばらくして本人も望む様なら、そのうち眷属化とかも考えようと思います。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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