ジェットコースター
「じゃあさ。隼人に勝ったら何かご褒美貰える?」
「んー…」
いや、ご褒美なくても頑張るけどさ。やっぱりそこはモチベーションが変わるじゃん?
時空属性無しで勇者に挑む俺の心に力を!
「しょうがないなあ。エロいのは厳禁だけど、私にできる事なら何か希望を叶えてあげるよ」
「マジで!?えっと、仁科さんに触れなくて体操服より露出しない事ならエロくないよね!?」
「え?まぁ…そうかな?何だか怪しいけど…」
やる気出てきたぁー!!
これは何がなんでも勝たないと!!
「よし!じゃあ隼人をボコボコにしてくるね!」
「う…うん。大丈夫かな…」
前に出ると隼人が話しかけてきた。
「和也。捨て駒も大変だな」
「そう思うなら、隼人も負けて区切り良く全敗にしてくれない?」
「笑えない冗談だ。せめて俺が一矢報いないとダメだろう」
「やっぱ負けてくれないよね」
「当然だ」
戦わずに勝てたらベストだったんだけど、さすがに無理でした。戦うしかなさそうだけど、無属性魔法だけでどうしようかな。
「和也、もしかして俺と本気で戦うつもりなのか?魔法属性も無いのに?」
「まぁ、やるだけやってみるさ」
仁科さんの期待に応えたいしね。
「装備はどうする?」
「和也は好きに使えば良い。聖剣は使わないから安心しろ」
そう言うと、隼人は刃引きした練習用のロングソードを構えた。
隼人は俺が弱いと思って油断しまくってる。まぁ時空属性使えない俺が弱いのは事実なんだけど…。でも、勝ち目があるとしたらそこら辺かな。
「では始めるぞ?大将戦、開始!」
俺は親友による開始の合図と同時に無詠唱で身体強化をすると、地面に落ちてる石を拾って隼人に投げつける。この学園のグラウンドは日本ほど綺麗に整備されてなくて、普通に石が落ちてるし草も生えていた。
石の勢いを見た隼人は、受けるのは危険だと判断したっぽい。詠唱を中断すると凄い反射神経で石を回避した。
投石は結構得意なんです。立花さん達に時空属性を伝えるまでは投石でのサポートがメインだったからね!
「和也!開始前に身体強化しておいたのか?ずるいぞ!?審判!」
隼人は親友にルール違反を訴えた。しかし、親友は淡々と回答する。
「いや、ルール違反ではない。試合を続けろ」
「なっ…。確かに身体強化を事前にしてはならないとは決めてなかったが…。これだから卑怯者共の感覚は…」
試合開始後に使ったから問題無いってだけだと思うけど…。隼人は勘違いから1人でズレた発言をしていた。
親友は試合中に細かく説明する気は無いみたいだ。
俺はレイピアを抜くと、ヒットアンドアウェイで刺突を繰り返す。離れた瞬間には投石も混ぜて隼人に詠唱する隙を与えない。
しばらくの間、俺の攻撃を受けるだけになっていた隼人が段々とイライラしてきた。
たぶん、そろそろだと思うんだけど…。
「和也…。あいつの友達なだけあって、お前も随分とムカつく奴だな」
はいはい。友達って言うか親友な!
俺は喋ってる余裕なんてないので、隼人の発言は無視して攻撃を続けた。
「ちっ…。どうせ仮面野郎が守ってくれるんだろう?だったらこいつを受けてみろ!」
そう言うと、隼人は手に持ったロングソードを俺に投げつけてきた。あっぶな!
更に隼人は、この状況を覆す為に腰に佩いた剣を引き抜く。聖剣デュランダルを。
「光よ!」
隼人は叫びながら聖剣を振った。聖剣からは光の斬撃が放たれ、俺に向かって飛んでくる。
これは…当たったら確実に死ぬと思う。助ける約束を親友がしてるからって、よくこんな攻撃をクラスメイトに撃てるな…。
しかし、親友が俺を助ける素振りはありません。そして、俺は時空魔法を使いません。
結果、隼人が放った斬撃は俺に命中し、着弾と共に爆風を撒き散らした。
「和也くーん!!」
仁科さんが俺の身を案じて名前を叫んでくれてます。心配かけてごめんね。
そして、爆風が収まると隼人が呟きました。
「どういう…事だ?ゴフッ…」
血を吐く隼人のお腹には俺のレイピアが深々と刺さっていた。
「さて、どういう事だろうね?もちろん秘密は教えないよ。って事で俺の勝ちで良いかな?何度でも防ぐからね」
ブラフです。実はこれ、1日1度しかできないんだよね。種明かしをすると、コクヨクさん経由で貰った親友お手製ローブの能力です。
親友は各々の特性を考慮して装備を作ってくれた訳だけど、俺に必要なのは『致死ダメージの自動防御』なんだって。
時空属性の天敵である『不意打ちによる瞬殺』を一撃耐える事ができれば転移で逃げる事ができる。生存率が格段に上がるので『一回耐える事』に特化させたらしい。
「ふざけるな!勇者が遊び人に負ける訳ないだろう!この程度なら全然平気だ!」
隼人は腹に刺さったレイピアを掴むと、そのまま引き抜いた。傷口は淡く光輝き、流れる血が止まると傷口が段々と塞がって行く。
駄目かぁ…。確かに全然平気そうなんだよな。
「先生!城之内君はさっき聖剣使わないって言ってました!ルール違反じゃないですか?」
「フタバ。それは2人が勝手に話していた内容だ。この試合のルール違反にはならない」
「で、でも、意図的じゃなくても騙す結果になりました。それが許されるんですか?」
立花さんが援護してくれる。でも、多分通らないんじゃないかな。騙されてもいなかったし。
「確かに騙す事は良くない。だが、盗賊や魔物相手にその理屈は通るのか?いま学んでいるのはスポーツじゃない。騙そうとしてくる敵も多々いる事だろう。悪い、悪くない、ではない。騙されたら死んで終わるだけだ。騙される事に備える必要はある」
「それはそうかもしれないけど…」
「それに、カズヤは騙されていない。ハヤトが聖剣を使ってくる前提で待ち構えていた」
「え?そうなの?」
「うん。ごめん、立花さん。ありがとうね」
「そっか…」
すると、痺れを切らした隼人が怒鳴り声を上げました。
「おい!さっさと続きをやるぞ!さっきのが防がれたんならもっと強力なのを当ててやる!」
そう言うと、隼人の魔力はどんどん高まって行った。もうローブの効果は切れてる。ヤバい。
「和也!防げるものなら…防いでみろ!極光!」
隼人から放たれた光が俺に襲いかかってくる。転移で避けるか?いや…いま避けると後ろで応援してくれてる仁科さんに当たる…。
できる限り後ろへの被害を抑えようと俺は両手を広げた。のですが…。俺の目の前に現れた親友が光魔法を放ち、隼人の魔法を対消滅させてしまった。
「おい仮面野郎!何故邪魔をする!?」
「何を言っている?命の危険がある時は俺が止める予定だったろう」
「ん?と言う事は?」
「ハヤト。お前の勝ちだ」
「そうかそうか。なるほど。まぁ当然だがな」
悠々と勇者パーティに戻って行く隼人。俺もみんなの所へ戻っていった。
「ごめん。やっぱり負けちゃった」
「ん。お疲れ。負けた事は別に良い。全力を尽くす姿はかっこよかった。かも?」
かもかぁ…。
「あと、最後守ろうとしてくれてありがとう」
「え?何か言った?」
「何でもない」
「という事で、結果は聖女パーティ4勝、勇者パーティ1勝で聖女パーティの勝利だ。だが、全員よくやったと思う」
親友から労いの言葉を頂きました。
「今回は見学だったEランク以下の者達。自分達との力量差が分かったか?お前達にはこのレベルを目指してもらう」
『えー!!』
生徒達からは不満の声が上がった。まぁ、とりあえず目指すだけだから…。
そして、隼人も質問をする。
「俺達はどうするんだ?」
「各々の良い所を伸ばし、弱点を減らす。それぞれ異なる内容の訓練をやっていこうと思う」
バラバラなのは凄く助かる。さすがは親友だ。
すると、横で一緒に聞いていた仁科さんが俺に話しかけてきた。
「ねぇ。和也くん。今日は頑張ったから、負けたけど特別にご褒美あげても良いかも。何をして欲しかったの?」
「マジで!?えっと…短パンを履いた状態で良いからスカートを捲り上げた所を見たいなぁ…なんて…」
「………却下。信じた私が馬鹿だった」
「和也くんの株は上がったり下がったり大忙しだね。ジェットコースターみたい」
「え?これ駄目だった?ぬぉおおおおおお…」
あれ?いつの間に上がったのかも分からないけど、ご褒美の内容で凄く下がったみたいです。条件はクリアしてたはずなんだけど…。
仁科さんと立花さんは凄く呆れた表情をしていました…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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