油断
「よしっ!副担任頑張ってみよう!」
いま僕は本を読みながら校庭を歩いています。
オスカーからお願いされたEクラスの副担任ですが、僕は引き受ける事にしました。サリーちゃんが心配なのもありますが、Eクラスはかなり酷い扱いを受けているみたいなので何か助けになればと思ったんです。
「それにしても、帰還魔法を調べるのは時間かかりそうだなぁ…」
僕は本をめくりながら呟きました。僕が歩きながら読んでいる本は千年前の勇者に関する歴史書です。
帰還魔法について調べる為にサリーちゃん達と分かれてから図書室に行ったんだけど…魔法や異世界に関する本が大量にあったんだよね。町の図書館なんて比較にならない蔵書量でした。
全部確認しようと思ったらどれだけ時間がかかる事か…。とりあえず数冊借りてみて、読んでみてる所って訳です。
ザッザッザッザッ…
先に言い訳をさせてください!僕はとても読書に集中していたんですよ。だから気付くのに遅れてしまったんです…。
何かが急速に近付いてくると僕は背後を取られていました。そして、足を封じられながらタックルされると、更に関節を極められてしまいます。
速い!しかも力も強い!かなり高レベルな身体強化の使い手です。しかも関節も完璧…技術まである…。情けないけど、ここまで極まったら身体強化で力尽くじゃないと逃げれないかも。
今まで戦った中で確実に1番強い。油断した…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ーー10分前。
「明後日からここで授業受けるんだって!凄く豪華な校舎だね!」
「うん。双葉ちゃん。私、何だか緊張してきちゃったよ…」
「俺は校舎よりも皇女様に会いに行くのに緊張してきたけどね」
「和也くん。緊張なんてするんだね」
「仁科さん酷いな…」
聖女パーティは到着早々にグルワール総合学園の散策をしていた。何か目的がある訳ではなく、ワクワクが抑えられなかったという感じだ。
「そう言えば聞いた?城之内君が引きこもってた理由は帝国でボロボロに負けた所為らしい」
「俺も聞いたよ。どうやらその相手っていうのがSランク冒険者らしいね」
「へー!そうなんだ?皇帝の暗殺だけでも大問題なのに、更に皇太子も殺そうとしたから罰が当たったんじゃない?」
「本当に城之内君どうしちゃったんだろう?昔はこんな事をする性格じゃなかったのに…」
勇者は暗殺をライトに邪魔された事を勇者パーティだけに話していた。しかし、人の口に戸は立てられない。引き篭もっていた事も相まって、勇者はかなりの大敗をしたと噂になっていた。
「立花さんは知らなかったんだね。城之内を倒したのは、何でも全身真っ黒で仮面を着けた怪しい奴らしいよ」
「和也くん。あんな感じ?」
「ん?あ、そうそう。あんな感じみたいだね。って…え?」
仁科さんが指差す方向には、本を読みながら歩く漆黒の怪しい姿があった。そして、その姿を見た途端………立花双葉と白鳥麗奈は無言で走り出した。
「え?ちょっと、2人ともどうしたの?」
2人が和也に反応する事はなかった。そして、走りながら身体強化の詠唱をしたのか、更に加速して漆黒に近付いて行く。
しかし、そこで1つ残念な事が起こる。麗奈は双葉ほど身体強化に慣れてなければ身体能力が高い訳でもない。麗奈は…漆黒の手前で転んでしまった。
転んだ麗奈は下半身にしがみつく格好となる。そして、双葉は背後から抱きしめた。『逃がさない』という気持ちを込めて…。
「お前達…何者だ?」
「立花双葉に決まってるでしょ!」
「白鳥麗奈だよ。透くん」
「………え?」
僕は…いや、俺は目を疑った。背後から俺を襲ったのが双葉と白鳥さん?急にどういう事だ??
「俺はキャリー・ライトだが。誰かと勘違いしていないか?」
「透…だよね?」
「私も透くんだと思ったんですけど…」
え…何でそう思ったんだろう…。全身ボディスーツとマントに包まれてるし、仮面で顔は見えないし、髪色は違うし…。
「やはり人違いみたいだな。何故その人物と思ったんだ?」
「「歩き方」」
「は?」
「透って姿勢が良すぎるの。背中に鉄棒でも入ってるんじゃないかって感じなんだけど、その状態を維持したまま歩くのよ」
「うん。特徴的な歩き方だよね」
そうなんだ…。自分の事はよく見えないものですね。何か言い訳を考えなきゃ。
「あー。多分だが、体術のレベルが同じくらいなんだろう。それで似た様な動きなのかもしれない。他に、髪色とかは同じなのか?」
「あ、確かに髪色は違います。でも、透って感じがするんです…」
「そう言われてもな…。ギルド職員を連れてきて俺がライトである事を証明させれば良いか?申し訳ないが別人だ」
「そっか…すいません」
「私も勘違いしちゃってごめんなさい。でも、本当にそっくりなんです…」
双葉と白鳥さんが納得して…くれたよね?というタイミングで、他のメンバーも追い付いてきました。
「はぁ…はぁ…。2人とも早すぎだよ…。それにどうしたの?急に襲いかかるなんて…」
「和也くんごめん。勘違いだったみたい」
「え?あ…俺の仲間が突然失礼な事をしたみたいで、申し訳ありません!」
和也が2人の事で謝ってきました。何だか男らしくてかっこいいです。
「あぁ、気にしていない。君達はここの学生か?」
「はい。明後日からですが。あなたはSランク冒険者のライトさんですか?」
「2人に手も足も出なかった上で名乗るのは恥ずかしいが、Sランクのライトで間違いない。俺も明後日からだが特別講師として学園に雇われたんだ」
「あ、そうなんですね。明後日から宜しくお願いします」
「あぁ、こちらこそ」
俺は手を前に出すと和也に握手を求めた。そして、素直に応じてくれた和也と握手を交わす。
「それでは俺はこの辺で。またな」
「はい。また明後日」
という事で、俺は聖女パーティと別れました。
ふぅ…。来てくれると良いけど…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ーーその日の夜。
「あの…。何のご用でしょうか?渡された手紙の通りに来ましたけど…」
待ち合わせ場所として指定した図書室で待っていると、和也に話し掛けられました。握手した時に渡した紙に従ってくれたみたいです。
「あぁ、悪い。君にだけ話しておきたい事があってな」
「な…何でしょうか…?」
ふふふ。和也のドキドキが良く分かりますね。
「分からないか?オレオレ」
「特殊詐欺…ですか?」
「違うよ!僕だって!」
「おい…まさか…」
僕は仮面を取り外しました。僕の顔を見た和也は、一瞬で安堵の表情に変わります。
「ビックリするだろ。先に電話で言ってくれよー」
「てっててー!サプライズ!」
何故だか和也が呆れています。そして、何かを思い出した顔をしました。
「サプライズって言えば、この前のプレゼントは何?お金はありがたいけど、もう一つの…」
「あ、ピエロ服?和也以上に似合う人はいないと思ったんだけど。能力も凄かったでしょ?」
「俺の特性が遊び人だから?能力は凄いんだけど…見た目的に普段使いできないよ」
「それは残念…」
「まぁ奥の手として使うさ」
まぁ、必要になるまでアイテムボックスに入れとけば良いんだから邪魔にはならないよね?
あ!あっちはどうだろう?
「でも、奈落迷宮でコクヨクから渡してもらったのは普通に便利でしょ?」
「そういう事か。コクヨクさんは親友の仲間だったんだな。あれはコクヨクさんのオススメ通りに分配したよ。凄く助かってる」
「そっか。良かった良かった」
みんなの特徴を考えて自作したマジックアイテムだから、喜んで貰えると余計に嬉しいですね!
「そう言えば、奈落迷宮のお城でもあの2人がメモ帳見て親友の文字だって言い切ってたんだよね」
「今回は透の歩き方だって断定されちゃった…」
「まさか正解だとは思ってなかったけど、帰ってからも2人は怪しんでたから注意してね」
「了解です…」
毎日一緒にいるとバレるかもしれないって思ったけど、まさか一目でバレるとは…。2人の事を甘く見てたみたいです…。油断した…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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