バレる予感
「この部屋ってリルがいないと凄く寂しいなぁ…」
サハルさんの宿の401号室は巨大モフリルをベースに設計してるので、リルがいないと広すぎるんですよね…。空っぽのコンテナにソファとテーブルとベッドだけがあって、そこに1人ぼっちなのを想像して貰えば分かりやすいかも…。
トールの替え玉をしてもらってるレフは出掛けてるみたいなので、ソファに座って適当に寛ぎます。僕は何となくステータスを開きました。
Sランククエストで戦闘しまくった結果です!
■名前:高杉 透
■種族:人族
■性別:男
■年齢:16
■レベル:78
■魔法
火:10
水:10
風:10
土:10
光:10
闇:10
聖:10
時空:10
無:10
■スキル
刀術:5
剣術:8
体術:8
魔法感知:10
魔法制御:10
苦痛耐性:4
アイテムボックス(特大)
自己再生
従者召喚
看破の魔眼
秘匿
状態異常無効
魔王覇気
即死無効
眷属作成
■称号:魔王
魔法系は全部10になりました!って事は…10が限界なのかな?でも、何だか『極めた』って感じがしないんですよね…。
とりあえず、現状11以上に成りそうな気配はありません。しばらくは接近戦の修行を中心にしようかなぁ。
そんな事を考えていると出掛けてたレフが帰ってきました。クエストにでも行ってたみたいで冒険者装備に身を包んでいます。
「ただいまー。あ、本体だ。おかえりー」
ややっこしいな…。
「レフおかえり。クエスト帰り?トールの代理ありがとね」
「いいよ。結構楽しくやってるから。まぁ、このだだっぴろい空間に1人なのは時々寂しくなるけどね」
僕も感じるんだから、そりゃあレフも感じるか…。
「リルを独り占めしててごめんね」
「だから良いって。はい、これギルドカードね」
僕はレフに貸してたトールのギルドカードを受け取りました。そして…内容を見て驚きます。
「え?ランク上がってるじゃん!2ランクも上がってDになってる!」
「カインとクエスト受けてたら自然とね。今は明光の非正規メンバーみたいな感じかな。さっきまで一緒だったよ」
パーティ名を略して言ってるし…。僕より馴染んでるじゃないか…。
「そっか。トールとして冒険者活動しようと思ってたんだけど、カイン達との予定が入ってたりする?」
「いや、しばらくは休みだよ。結婚式の準備で忙しくなるんだって」
「ふーん。そうなんだ」
って、おい!
「結婚って…もしかしてカインとリーシアさん?ちょ、レフさんや…情報共有が不足してやしませんか?」
「うん。カインとリーシアさんだけど、言った方が良かった?」
「そ…そうね…」
そっかぁ…。僕の行動って側から見るとこんな感じなのね…。相談しないで勝手に動くところ…確かにあるなぁ…。
我の振り見て我が振り直す事になるとは…。完全に直るかは別として…。
「じゃあ結婚式の時は呼ぶね。本体がトールとして参加するよね?」
んー。僕が2人をお祝いしたい気持ちは本当だけど、レフも僕以上にカイン達との絆を築いてるからなぁ。レフが参加できないのも違う気がする…。
「『トール』としてはレフが参加して。僕は僕でどうにか紛れ込むよ。秘匿スキルもあるし」
「そう?まぁ、確かに誰としてでも祝えれば良いか。カイン達から見てトールは参加してる訳だし」
「そうそう。流石は僕自身。理解が早くて助かるよ」
僕の価値観はなかなか理解されない事があるんですよね…。
トールが参加してないのはカイン達を悲しませるかもしれないから駄目だけど、僕達側の『祝いたい』という思いはトールとして参加してもライトとして参加しても変わるものじゃありません。
だから、僕とレフのどっちがトールとして参加するかは僕達には重要じゃ無いんです。それよりも…秘匿スキルで姿変えられるから僕が別人をやった方が良い。そんな感じです。
「カイン達の事はそれで良いとして、冒険者ギルドに行こうと思ってたんだけど今日はやめた方が良いかな?」
「いまギルドから帰って来た所だから『どうしたの?』ってなっちゃうね。討伐クエストだったし数日置いた方が良いよ」
「そっか。了解、そうするよ」
じゃあ3日後くらいに行こうかな。それまではレフと接近戦の修行でもしてようと思います。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「聞いたか?また暴君の奴がやらかしたらしいぜ」
「マジか。どんだけ騒ぎを起こせば気が済むんだよ」
リッケルトに帰ってきてから3日が経ち、僕は冒険者ギルドに向かっています。
最近『暴君』について話してる人を良く見かけます。どうやら冒険者の二つ名みたいなんですが、そんな名前を付けられるなんて可哀想な人ですね…。そう言えば、二つ名ってどうやって決めてるんでしょう?
そして、僕は久しぶりにリッケルトの冒険者ギルドの扉を開けました。
「あ、トール君!」
おや…知らない受付嬢さんに名前を呼ばれました。レフが知り合った人かな?ニッコリしながら小走りで近付いて来ます。
「この前はご馳走様でした!とても美味しかったです!良かったら、また誘って下さいね♪」
ど…どう言う事だ?とりあえず…知ってる体で話すしかない!
「お口に合ったみたいで良かったです。是非また行きましょう」
「ふふふ…。約束ですよ?」
知らない受付嬢さんは僕にウインクすると仕事に戻って行きました…。レフ…本当に何してるの…?
「お、トールか?ちょうど良い所に来た…な……ん?お前………いや、何でもねぇ」
そして、ギルマスのバルさんに呼び止められたんですけど…何だか気になる反応をされました…。
「お前、今日は予定あるのか?頼みたい事があるんだが」
「まだ何も決まってませんよ。無茶な話じゃなければ別に良いですけど…」
「あー、そんな警戒する事じゃない。客が来るからリッケルトを案内するとか接客を頼みてーんだ。お前は良い飯屋とか知ってるみたいだしな」
それ、僕だけど、僕じゃないんですよ…。
「費用はギルドが持つ。そうだ、Dランククエスト扱いにしてやるよ。どうだ?」
「指名依頼って形にするんですね。まぁ、大丈夫ですよ」
「お、ありがとな。じゃあエルマの所に行って受注手続きしてくれ」
「はーい。了解です」
僕は受注手続きをしてもらう為にエルマさんの所へと向かいました。そして、バルさんは溜息を吐きます。
「ふぅ…。半信半疑だったが今日確信した。今日のトールは偽物だ。いや、いつものトールが偽物なのか?もしや双子…。まぁ良く分からんが…とにかく別人だ。今日の方が格段に強い」
バルさんは額を押さえて首を振りました。
「あれは普通の奴が気付くのは無理だな。それなりの力を持っていて奴等と何度も接した事がある奴しか気付けない。やはり…あいつなのか?だとしたら…」
バルさんは口角を上げると、イタズラの結果を楽しみにする子供の様に笑いました。
「クククク…。今日の客の相手に丁度良かったかもな」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(レフ。受付嬢の人から食事のお礼を言われたんだけど…どういう事?)
『えっと、レイナさんかな?』
(いや、名前は知らないけど…)
エルマさんの所へ移動しながらレフの尋問を開始しました。しっかりと吐いて貰いましょう!
『魔眼で見れば良いのに…。赤髪で三つ編みの人でしょ?レイナさんだと思うよ』
(外見は合ってるね。で、どういう事?)
『別に大した話じゃないよ。クエスト達成手続きをしてもらってる時の雑談で『美味しいお肉が食べたいなー』って言ってたから、最近通ってたお店でドラゴン肉を奢っただけだよ?』
ドラゴン肉って超高級食材じゃないか…何1人でそんな高級店に通ってるんだよ…。渡してる生活費削ろうかな…。
それにしても『だけ』か…。眷属だからなのか、レフに下心が無い事はなんとなく分かります。
(レイナさん喜んでた?)
『うん。初めて食べたって感動してくれたよ。喜んで貰えるのは嬉しくなるよね』
もしかしたらパトロン扱いなのかな…?まぁ喜んで貰えてるなら良いか。
(了解。『また行きましょう』って言っておいたから、また誘ってあげて)
『はーい。じゃあ生活費の削減は無しって事で宜しく!』
むぅ…心の声が聞こえていたか…。
(分かったよ。あ、そうだ。今からお客さんをおもてなししなきゃなんだけど、良い店知らない?)
『いま話してたお店が良いと思うよ。貴族街に入る手前の所にあるから、基本的に上流階級の人しか居ない感じだね』
そんな店に通ってるのか…。本当に楽しく過ごしてるみたいで良かったですよ…。本当にね…。
「あ、トールさん。ギルマスから聞きましたか?」
「はい、エルマさん。お客さんの件ですよね?Dランククエスト扱いにしてくれるそうです」
「承知しました。じゃあ手続きはしておきますので、早速顔合わせをお願いします。実は丁度いま到着されたんですよ」
そう言いながら動くエルマさんの視線を追ってみると…そこには、トールとしては良く知らない、良く知ってる人がいた。
「冒険者ギルド・レイオス支部でライト様の専属受付嬢をしているバレッタと申しますわ。宜しくお願い致します」
マジか…。バレッタ相手に正体を隠せる自信ないかも…。
ボケボケなレフが気付けない事を、ボケボケなトールが気付ける訳がないですよね…。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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