国王達①
「バレッタ。非常に申し訳ないんだが1つ理解して欲しい事がある」
「はい。何でしょうか?」
俺達はビオス王国の王都へ移動する為に転移部屋へ来ていた。2人っきりでバレッタに伝えておきたい事があったんだ…。
「俺は国に遜る気は無い。むしろ力を見せつけて理解させる必要がある。そこは譲れない。だが、そんな俺の態度によって世話になった冒険者ギルドに迷惑を掛けるのも本意ではない」
ライトという存在は抑止力にならないといけない。ライトに手を出したらヤバいって思って貰わなきゃいけない。
でも、そんな俺と仲良くしてると…きっと迷惑が掛かる…。だから…。
「俺は『冒険者ギルドなんてどうでも良い』という姿勢を取る。王城でも場合によってはバレッタに冷たく当たるかもしれない。だが…本当にバレッタの事をどうでも良いと思ってる訳じゃ無い。そこは理解してくれると嬉しい…」
俺は、怒られると思ってました。『自分勝手な!』とか『そんな都合で冷たくされても…』とか言われる覚悟をしていました。
でも、バレッタの反応は予想外なもので…。
「ふふ…ふふふ…。はい、分かりました。我々がライト様を脅す材料にされない為の考慮ですね?承知致しました」
何で…笑ってるんでしょう?何だか嬉しそうな感じさえするんですけど…。
「何か………可笑しかったか?」
「そうですね。自分の自惚れた想像が…。私は急に冷たくされてもライト様を信じたと思います。でも…先に説明頂けました。ライト様は私に勘違いされるのがそんなに嫌だったのかな?と、考えてしまいまして」
バレッタ…何を言ってるんだ…。
「その通りだ。『バレッタの事はどうでも良い』と、バレッタに誤解されるのが嫌だった。だから事前に説明させてもらった」
当たり前です。バレッタに勘違いされたら悲しくなります。
そのバレッタは、何故か目を見開いて俺を見ていました。そして、珍しく俯くと床を見つめています。何だか顔が赤かった気がするけど…勘違いかな。
「ヤバいですわ…。不意打ちはズルイですわ…」
んー。時々バレッタの行動はよく分かりませんね…。とりあえず伝える事は伝えたし、理解もしてもらえたし…そろそろ王都に行きますか。
「バレッタ。では、そろそろ王都に行こう」
「はい。承知致しました」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「国王に呼び出された冒険者のライトだ。何処に行けば良い?」
「冒険者?何か聞いてるか?」
「いや、国王陛下が冒険者を呼んでるなんて初耳だな」
俺とバレッタは、王都に来てすぐに王城へと足を運びました。
貴族は正門を通るらしいのですが、平民は裏口みたいな一般人通用門を使うそうです。と言う事で一般人通用門にやってきたのですが、門衛に話が通っていないらしくてとても怪しまれている状況です。
「そうか。で、俺はどうすれば良い?入って良いのか?帰って良いのか?」
「貴様…。その態度、平民風情が何様のつもりだ!?」
「ライト?何処かで…ライト…ライト……」
俺の態度が気に食わないらしく、門衛の1人が凄んできました。しかし、もう1人の門衛は俺の名前が何か引っかかるみたいで、繰り返し呟いています。そして、何か思い当たったみたいです。
「ライト!?仮面を付けた男!まさか、今年の武闘大会優勝者か?」
なるほど。そっちで名前を知ってたんですね。
「あぁ。確かに金クラスで優勝したが?」
「それならば本当に国王陛下が呼んだ可能性がある…。確認して参りますのでお待ち頂けますか?」
「あぁ。大丈夫だ」
急に敬語になった門衛が城の中へと確認に行きました。
凄んで来ていた門衛は残っていて、とても不満そうな顔をしています。
「本当に優勝者なのか?そうは見えないが…」
「信じるも信じないもお前の自由だ」
「ちっ…。やっぱり信じられねぇ…。俺が確かめてやる!」
「そうか」
門衛が腰の剣を抜いて構えました。
「おい!武器を構えやがれ!」
「必要ない。いつでも掛かってこい」
「舐めやがって…。だったら後で勝手に後悔しやがれ!」
門衛は俺に思いっきり切り掛かってきました。刃引きしてない剣で丸腰な相手に躊躇無く来るとは…。まぁ武器が不要だって言ったのは俺なんだけど。
とりあえず、門衛はかなり未熟だと思います。軌道はバレバレだし振り下ろす速度も遅いです。
俺は門衛が振り下ろす剣の柄を蹴り上げました。身体強化はしてません。してたら剣を握ってる手が千切れちゃうからね…。
剣はクルクルと回転しながら宙を舞い、そして落下してきます。
唐突ですが、いま練習してる事があるんですよ。
この前のSランククエストでついに魔力操作がレベル10になったんだけど、それでこんな事ができる様になりました。
『部分強化』。俺は右足だけに強化魔法を使うと、落ちてきた剣にタイミングを合わせます。そして、剣が地面に刺さる様に剣の柄を踏み抜きました。
ドゴォオオオォォォォ…
地面はクレーター状に陥没し、剣はその中心でめり込んでいます。柄は地上に残るかな?と思ったんだけど、柄ごと地中に埋まってしまい柄の先っぽだけが少し見えていました。
「まだ続けるか?剣を抜いたんだ。覚悟は出来ているんだろう?」
「う…うぁ…。す…すいませんでした…。どうか…い…命だけはお助けを…」
門衛は震えながら膝をついて土下座をしてきます。こんな事で門衛が務まるんでしょうか…。
「そうか。まぁお前の命を貰った所で何の得もない。邪魔をしないなら許してやる。今後は気をつけろ」
「あ…ありがとうございます!同じ事が起きない様に他の兵士達にも言って聞かせておきます!」
お、それは助かりますね!是非広めて貰いましょう。抑止力が強まる気がします。
そして、城内へと確認しに行っていたもう1人の門衛が戻ってきました。陥没した地面を見て驚いています。
「これは…。いったい何があったのでしょうか…」
「俺が後で教える…。ところで、ライト様の謁見はどうだったんだ?」
「ライト様?まぁ良いか…。確かに登城指示が出ていた。ただ…出たのは昨日で…到着は10日後位を想定していたらしい」
あ、早く来過ぎちゃってたみたいです。だから門衛に話が通ってなかったんですね。日付の指定とか無かったから急いだんだけど…。
「で、国王は会うのか?会わないのか?」
「はい。お会いになるそうです。ご案内致します。こちらへ」
急なのにすぐ会えるとは…どうやら優先してくれたっぽいですね。
そして案内してくれる門衛の後ろを付いて行くと、俺達は大きな扉の前に来ました。何度も見てきたので雰囲気で分かります。ここは謁見の間だと思います。
「あの…」
「何だ?」
案内してくれた門衛が何だか言いづらそうにしています。まぁ、何と無く分かりますけどね…。
「ここは謁見の間になります。その…謁見のマナーとか大丈夫でしょうか?特にその…仮面は…」
「あぁ、大丈夫だ。気にするな」
「分かりました…」
そして、門衛は深く息を吸い込むと腹から大きな声を出しました。
「冒険者のライト!及び冒険者ギルド職員のバレッタ!入室します!」
そして、門衛が扉を開けてくれたので俺達は中へと入りました。玉座の前の方まで進んで行ったのですが、国王はまだ来ていない様です。
すると、突然怒鳴り声が響きました。
「貴様!ここを何処だと心得ておる!?その様な仮面を着けて陛下の御前に立つつもりか!?」
「つもりだが?」
「な…なんだと!それが無礼な事だと分からぬ田舎者なのか?」
怒鳴り声を上げてきたのはプレートメイルに身を包んだ騎士風の男でした。ヘルメットは外して小脇に抱えています。
「それに、さっさと跪かぬか!跪いて陛下をお迎えする事くらい分かるであろう!」
「跪くつもりはない。第一、お前は誰だ?」
「お前…だと?陛下に跪くつもりが無い…だと?き…貴様……」
男は怒りに身を震わせてプレートメイルがカチャカチャ鳴っています。そして、顔は真っ赤です。
「俺は仮面を外したく無い。何故お前達の慣習に合わせて外さなきゃならないんだ?それに俺はビオス王国の国民じゃない。この国の国王より下位な存在だとは思ってないぞ」
「陛下を付けんか!!貴様、自分の立場が分かっておらんのか?レイオスなどどうとでも出来るのだぞ!?」
「勝手にすれば良い。冒険者登録をした場所がたまたまレイオスだったというだけで、俺にとってはどうでも良い町だ」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ…」
騎士の額に浮き出てる血管がはち切れんばかりです…。
「冒険者ギルド!どうなっておる!」
「そう言われましても…。我々には何の強制力もありません…。条件が合えば仕事をして頂ける…それだけの関係ですので…」
ナイス、バレッタ!事前に話してた意図を理解した発言をしてくれます。流石ですね!
「許せん…。ビオス王国を…国王陛下を舐めているとしか思えん発言の数々…決闘じゃ!剣を抜けぃ!」
「舐めてるんじゃない。事実としてそういう関係性なだけだ。むしろ舐めているのはお前だろう?国という数の力に酔いしれて相手が跪くのが当然だと勘違いしている。時間の無駄だからさっさと掛かってこい」
周りには何十人も貴族っぽい人がいるし騎士っぽい人もいるのですが、全員見て見ぬふりをしています。
額に青筋を立てている人が多いので、生意気な俺が退治される事を望んでるんでしょうね。
「ビオス王国 第二騎士団 団長!ガズール・フォン・バーグ!参る!」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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