Sランククエスト
「そうだ!急いで伝えなければいけない事があって死に物狂いで戻ってきたんだ!ギルマスの所に連れて行ってくれ!」
使命を思い出したドウさんの表情が引き締まりました。そんなドウさんに対してバレッタが答えます。
「ギルドマスターをこちらに連れてきます。怪我は治っている様ですが、みなさんは念の為ここで休んでいて下さい」
「そうか…承知した。バレッタ嬢、感謝する」
そして、バレッタがギルマスであるフリードさんを呼びに行くと、すぐに2人で戻ってきました。フリードさんも早く古狼の牙から話を聞きたかったんでしょうね。
「みなさんの怪我が治って良かった!リリアさん、ライト君、ありがとうございます」
「いえ、私はできる事をしただけですから…」
「こちらから申し出たんだ。気にするな」
フリードさんはニッコリと微笑みました。そして、すぐに真剣な表情になるとドウさんの方に向き直ります。
「ドウさん、早速ですが何があったのか聞かせてもらえますか?」
「勿論だ。少し長くなるが順に説明させてくれ」
「はい。よろしくお願いします」
ドウさんによる報告が始まります。時系列に沿って説明してくれるみたいですね。俺も一緒に聞かせてもらいましょう。
「まず、静寂の森に辿り着くと森の入り口まで瘴気で覆われていた。準備してくれた浄化装備で中に入る事はできたが、装備が無ければ入って数分で死んでしまうだろう」
もしかしたら、俺なら自分で浄化しながら進めるかもしれないな。後は、世界樹の葉とか枝とかそれなりに持ってるのでばら撒くか…。
「入り口周辺で魔物と戦ってみたが、魔物達は恐ろしく強力になっていた。しかも、数まで増えている。あれは…既に静寂の森じゃないと思った方が良い」
「それ程ですか…」
「俺達は戦闘を避けながら奥に行く事にした」
「流石は古狼の牙。隠行に長けた熟練者の集団ですね」
「あぁ。俺達なら行けると踏んだ。結果的にはまったくの自信過剰だったがな…」
どうやら、古狼の牙は調査とか潜入とかのクエストが得意なパーティみたいです。だからこのクエストに選ばれたんですね。良ければ今度勉強させてもらえないかな…。
しかし…あんな瀕死の状態になったんですから見つかってしまったんでしょう…。そう言えば、傷は強力な一撃によるもので、細かい傷はあまりありませんでした。多数に囲まれたと言うより強力な個体にやられた気がします…。
「瘴気は奥に行く程に濃くなっていった。そして、それに比例して魔物の量や質も…。俺達は息を潜めて奥まで行ったんだが、奥ではワイバーンやオーガが…」
「なるほど…危険ですね…」
「違うんだ。そうじゃない」
「どういう事ですか?」
ドウさんが呼吸を整えました。喋るのに覚悟が必要みたいです…。
「ワイバーンやオーガが…餌扱いだった。トロール、サイクロプス、ギガント…あんなに大量に見たのは初めてだ。そして、亜種ではない本物の竜種…」
「そんな…竜種はどのランクですか?」
「外にいるのはノーマルだ」
竜種は、亜竜、ノーマル、エルダー、エンシェント、ユニークという区切りになっています。ランクとしては亜竜がBランク、ノーマルがAランク、エルダーがSランクですね。
エンシェントとユニークは神話扱いで実在さえ不明らしいんですけど…少なくとも昔はいたはずです。だって、俺の漆黒の鎧の原材料であるバハムートがユニークドラゴンなので…。
「ドウさん。『外』とはどういう意味ですか?」
「あぁ、森の奥で瘴気の原因を発見した。瘴気は奥にある洞窟から出ている」
「まさか…入ってみたのですか?」
フリードさんの質問に、ドウさんが小さく頷きました。
「森の緊張感から一刻の猶予もないと判断した。1度戻ってからの再突入ではスタンピードに間に合わないかもしれない」
「やはり…スタンピードは起きますか?」
「十中八九発生すると思う。しかも…すぐに…」
冷たい沈黙が流れます…。そして、ドウさんが報告の続きを始めました。
「洞窟に入ると、見た事の無い…静寂の森にはいないはずの魔物がいた。本での知識だが、たぶんキマイラやバックベアードという魔物は居たと思う」
「何故そんな事に…」
「悪いがそれは分からないな…」
そして、ドウさんは目を瞑り…深呼吸をします。えっと…緊張している?
あぁ…古狼の牙を襲った相手の話になるのかな?思い出すのは辛いですよね…。
そして、意を決したドウさんが話を続けました。
「更に進むと、身体中に杭の刺さったでかいドラゴンがいて、そいつが瘴気を出していた。見た事の無いドラゴンだったが、あれはエルダードラゴンだと思う」
「Sランクですか…」
「そして奴の姿を見つけた時…何故バレたのかは分からないが奴もこっちを見つめていた。もちろん俺は即座に撤退を考えた。しかし…考えた時には…既に身体を刻まれちまってた。どうやって斬られたのかはサッパリだ」
事象から考えると時空属性っぽいな…。時空属性を使うドラゴン…もしかして…。
(バス。このドラゴンについて心当たりある?)
『杭は何か分からないっすけど、話の内容からするとイビルドラゴンぽいっす!』
(やっぱり…。もしかして奈落迷宮から逃走したやつかな?)
『確定じゃないすけど、可能性は非常に高いっす!』
むむむ。かなり黒寄りのグレーだな…。
「そこからは逃げの一手だ。森を駈け抜けるには魔物に気付かれない為に風属性が必要なんだが…。ウチで風属性なのはアイツだけだからな…足を斬られたアイツを担いで、ハラワタ引きずりながら走ったよ」
「運んでくれてありがとう。でも、激痛の中で魔法を使い続けるの大変なんだからな?」
「ははは。分かってるよ。助かった」
「まぁ、分かってれば良いけど…」
風属性魔法で匂いがバレない様にしてたのかな?でも、それだと偶然魔物に出会ってしまうかもしれないですね。数も凄いみたいだし…。
もしかしたら、むしろ匂いを使って魔物を誘導して遠ざけたとか?これも今度教えてもらおう。
「そして、どうにか入り口に辿り着いたんだが…もう限界でな。馬に身体を括り付けて走らせた所で意識を無くした。馬が無事に戻ってくれて助かった」
命懸けで入手して、執念で繋いだ情報か…。これは無駄にする訳にはいきませんね。
「もし魔物の群れがレイオスに来たら…防衛できると思いますか?」
「無理だ。レイオスの住人全員で戦ったって勝てない。蹂躙されるだけだ」
「そうですか…。では、スタンピードまでどれくらいの時間があると思いますか?」
「もう溢れる。食物連鎖のバランスが崩れた妙な緊張感があった。今日発生してもおかしくない。早く…レイオスの住人を全員避難させるんだ!」
何万人もいる町の人間を避難…。これは…凄く大変な事になってきました…。
そして、ギルドマスターであるフリードさんが迅速に指示を出します。
「町民全員に周知しろ!途中の村も合流しながらリッケルトまで避難する!各村には先に早馬を出して知らせろ!」
ギルドが慌ただしく動き出しました。リッケルトも冒険者の町ですからね。合流しての共闘を考えているんでしょう。
そんなドタバタの中、俺に念話が飛んで来ました。
『本体、聞こえる?ヤバい事になった』
闇属性のクラスメイト、平野未来さんを見守ってもらってたイトからの連絡です。平野さんに何かあったのかな?
(どうしたの?)
『イザベラ王女とヘルマンが来て平野さんと一緒に消えちゃった…』
マジか…こんな時に…。
平野さんも心配だけど、レイオスも放置できないし…。どうして問題って同時に起こるんでしょうね…。
よし!決めた!こうなったらもう…がっつり参戦しよう!
(イトは平野さん探して。僕はスタンピードを解決してからそっちに合流するよ)
『了解!』
俺はバレッタに顔を向けると、いま考えている事を質問してみました。
「バレッタ。質問がある」
「はい!何でしょうか?」
「スタンピードを抑えたらSランクに近付くと思うか?」
「え…。そうですね…レイオスの被害次第ではありますが、近付くどころか確定だと思います」
「そうか。では、俺に指名依頼を出す気はないか?溢れる魔物の駆除と瘴気を出すドラゴンの討伐を」
どうせやるならクエストとして対応した方がお得ですよね?
すると、話を聞いていたフリードさんが俺に質問してきました。
「ライト君…。やれるのですか?」
「確実にとは言えないがな。それに、失敗したとしても避難する時間稼ぎにはなるんじゃないか?」
「確かに…。ちなみに、どうやって防衛するのですか?」
「いや。防衛ではなく、こちらから静寂の森へと乗り込んで駆除して来たいと思う。ちなみに瘴気は大丈夫だ。世界樹の葉や枝を大量に持っているからな」
複数箇所を同時に守るのは難しいし、俺1人で戦うなら防御に周らない方が良いと考えました。町に被害も出ちゃいますからね。
町に来る前に魔物の数を減らして、スタンピードの発生そのものを抑えたいと思います。
フリードさんは顎に手を置いてじっくりと考え始めました。そして、結論が出た様です。
「分かりました。承認しましょう。ただ、引き続き避難は進めておきます」
「あぁ。そうしてくれ」
念のため避難はしておくべきでしょう。今は油断しないで安全第一に行動するべきだと思います。
そして、ギルマスの承認を聞いたバレッタは、俺の方を向いて背筋を伸ばしました。受付嬢としての責務を果たします。
「ライト様!冒険者パーティ『女神の希望』にSランククエストの指名依頼をさせて頂きます!クエスト内容は瘴気を出すドラゴンの討伐。及び静寂の森にいる魔物の駆除によるスタンピードの回避です。成功報酬は金貨2千枚。当然ながら討伐した魔物の素材はライト様の物です」
「受けよう。手続き宜しく頼む」
「はい!」
よし。それでは倒しに行きますか!
最近運動不足でストレスが溜まってる娘さんにも思う存分暴れてもらいましょう。
「リル行こう。いっぱい戦えるぞ?」
「わーい!やったー♪」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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