バス
2023/02/25 間を少し見直しました。
「やったー!やっと出来たー!!」
魔法制御の訓練を初めてから2週間が経っていた。僕の前には30センチの水球が浮いている。
無尽蔵な魔力を利用して1日中練習していたが、これは常人では実現できない練習量だった。それを毎日続けた結果で、やっと一般的な大きさに成功したのだ。
手加減って…何て難しいんだ…。
ちなみに、最初は水球で練習してたんだけど水属性のレベルばかり上がって行くので、今では色々な属性で訓練していた。
その訓練の中で、制御して抑えない場合の各属性魔法についても一通り経験しておいた。
闇属性の影操作で自分の影を広げた結果、見える限りの地面が闇に染まったのにはびっくりした。
あと、殺傷能力の高い火属性と光属性はヤバかった…。この2つについては、制御してる状態の威力をしっかり確認しておきたいと思う。
「よしっ!じゃあまずはファイアーボールだ!」
僕は火球が飛んで行き、着弾と共に爆発するのをイメージする。
ゴォォォォォォォ…ドガァ!!
制御版火球が着弾した地面は、魔法の熱によって溶けていた。もし人に当たったら、一撃でグロい死体の出来上がりである。
「よしっ!30センチくらいしか溶けてない!!火口の様な風景にならなくて良かった…」
地面が溶けるだけって所まで抑える事ができたんです!って…何だか感覚がズレてしまっている気がしなくもない……。
とりあえず、次は光魔法だな。
絞って…絞って…絞って……。岩山に向かって指からレーザービームが出るのをイメージする。
ピュンッ………。
何の抵抗も感じず、岩山には数センチ幅の穴が貫通していた。
「おぉ!制御できてないと前方が全て消滅する感じだったのに!!」
僕は魔力制御が上昇したのを実感していた。ただ…
「効果範囲は良い感じだけど、やっぱり威力がなぁ…。必要に迫られるまでは使用するのは控えよう…」
威力について見て見ぬ振りをしようかとも思ったけど、トラブルの原因になる気しかしないので、やっぱり認める事にしました……。
でも、これで大量殺戮の回避はクリアだよね?やったー!!
「じゃあ、次はオススメ魔法を覚えて行こうかな。大優先なのは…っと……うん、この4つだね」
僕は、無属性の身体強化魔法と探知魔法、時空属性の転移魔法とゲートをやってみる事にした。
「この4つ以外はレベル上げしながらそのうち覚えれば良いや。じゃあ、まずは身体強化だ。本でも特に大優先って書いてるし」
身体強化は魔力で全身の筋力や体力を上昇させる魔法らしく、近接戦闘をする人には必須らしい。どれくらい強くなるのかは魔力次第とのこと。
防御力も上がるので、後衛だとしても覚えておいて損は無いみたいです。
「魔力をそのまま……全身に巡らす感じ…っと……。」
僕は目を瞑り、全身を巡る魔力を感じ取る。あれだね。気を練ってる感じに近いと思う。
血液が血管を通って循環している様に…魔力が全身を循環してる……。そして、巡る程に膨らんでいく感じだ……。
「うん。これで合ってるっぽい。体の底から力が溢れ出して、身体の表面を魔力で覆われている感じ……」
僕はその場で石を拾う。さてさて、どれくらい強化されているのかな?
ガゴオッ!!
石を握ってみると簡単に砕けてしまった。手を広げると細かい石と砂になっている…。
更に、手の中の細かい石を近くの木に向かって投げてみた。
ガッ!カッ!ガンッ!ゴッ!バゴッ!………メキ…メキメキメキメキ……
投げた小石によって木の幹は削られ、耐えられなくなった木はそのまま倒れた。折れた箇所は散弾を受けた様な痕になっている。
「これも手加減が難しいなぁ…」
でも、人間相手は別として、魔物相手にはとても期待できそうな気がします。という事で、身体強化は理解できたので次に行ってみましょう!
「次は探知だね。えっと、魔力をソナーみたいに周囲に飛ばして…飛ばした魔力が触れたものを…感じ取ると…」
僕は魔力を放射状に飛ばしてみる。お…おぉぉ…!これは凄い!魔力を飛ばした範囲の白黒画像が、僕の頭の中で3D映像化されてる感じだ!
「これは使い勝手が良いな。よし、魔力制御を緩めて使ってみよう!」
さっきは範囲を絞って半径100メートルくらいを探知したんだけど、今度はもっと広い範囲を探知してみる。さぁ、どうだっ!
「お、良い感じ!どんどん把握してる範囲が広がって行く!!ん?……あれ?いや…ムリムリムリムリッ!やっぱり無理!!」
僕は急いで探知魔法をキャンセルする。やり方が分からなかったけど、魔力で壁を作って情報が入ってくるのを遮断してみたら出来た。
これは情報量が多すぎて……僕には把握しきれない。うわぁ…気持ち悪い…。周囲の情報量を把握して、探知する条件や探知範囲を考えて使わないと駄目だな。これは追い追い慣れて行く事にしよう。
つ…次!次に行こう!
「じゃあ…次は転移とゲートだな。似た様な移動魔法だけど、どう違うんだろう?まずは転移から…」
僕は10歩くらい先の場所に自分が現われるのをイメージして転移をやってみる。
ブゥン…。
「お、出来た。一瞬で風景が変わって違和感があるけど、問題は無さそうだね」
一瞬の事で分かり辛いけど、どうやら転移先で中心部分から広がる様にして現われるっぽい。
何が言いたいのかと言うと、転移先に物が有ったとしても融合する事は無さそうだ。その証拠に足元の草は僕に踏まれている。
例えば、岩の中に転移してしまった場合、僕の身体の方が強ければ岩が砕け散り、岩の方が強ければ僕は潰れるんだろう。危ないな…。でも…。
「出現にリスクはあるけど、これはなかなか面白いなぁ。戦闘と組み合わせて使えそうだ」
僕は接近戦における転移魔法の有効活用について考え始めた……が、途中で止める。
「応用は改めて考えるとして、とりあえずゲートやってみよう」
ゲートは、2つの扉を出現させてその間を行き来する魔法らしい。まぁ…青い猫のどこでもなんちゃらみたいな感じかな?
という事で、転移と同じ様に10歩くらいの距離でゲートを発動してみる。すると、目の前と10歩先で黒い渦が発生した。
「今の所は大丈夫そうだね。じゃあ通ってみようかな」
恐る恐る目の前の渦に手を入れてみると、10歩先の渦から自分の手が出て来る。
「なるほど…。転移は消えて一気に現れるのに対して、ゲートは空間が繋がってるだけで歩いて移動するって感じか。安全を考えると移動にはゲートを使った方が良いかなぁ」
あ!ゲートの良い使い方を思いついた!!
僕は、僕の前と後ろにゲートを発生させる。そして前のゲートに顔と手を突っ込んだ。
「おぉぉぉ。自分で自分の背中が掻ける…」
関節柔らかいのでそんな事しなくても掻けるんだけどね…。さて、馬鹿な事をしてないで…っと…。僕には真面目に確認しなければならない事があった。
転移もゲートも共通なのだが、移動先を認識していないと使えないらしい。その為、行った事が無い場所には移動できないとの事だった。
じゃあ逆に…行った事がある所なら何処でも行けるのか?………日本に…転移する事は可能なのだろうか?
そう。これを確認しなければいけない。この可否によって、今後の予定が大幅に変わって来る。
じゃあ、やってみよう…。伸るか反るかの大一番だ。とてもドキドキする…。
僕は日本で一番イメージしやすい所。16年過ごした自分の部屋をイメージしてゲートを使ってみる。
「………ぐっ…ぐあぁぁぁぁああああ!!」
僕はその場に片膝を付いた…。だ…駄目だ…。
魔力が僕の部屋へ向かって伸びて行くのを感じた。しかし…それが途中で…次元の境みたいな所で弾かれてしまう…。
「く…。これは転移をやってみるのはちょっと怖いな…。でも…やらない訳には行かないっ!!」
僕は覚悟を決めて、僕の部屋に自分が現われるのをイメージする。行ってくれ!!
僕は自分の身体が魔力へと変わり地球へと向かっていくのを感じる…。しかし…やはり次元の境まで辿り着くと、壁の様な物に当たり弾き返される感じがした。
(くぅ…吹き飛ばされる…うわぁぁあああああああ!!!)
…………。
………。
……。
気が付くと、僕は転移を使用した場所に倒れていた。どうやら、数分程度だと思うけど気絶してしまっていたみたいだ…。魔物に襲われなくて良かった…。
「残念だけど駄目かぁ…。まぁそんな気はしてたけど…」
僕には次元の境を超えられそうな気がしなかった。次元の境を超える為には、召喚魔法についてちゃんと勉強する必要がありそうだ…。
「とりあえず…これで本格的に鍛える為の準備はできたかな。そろそろレベル上げを開始しますか!」
そして、僕はどうしようか考える。どうせなら、色々と魔法の訓練も絡めながら効率良く行きたいね!
まずは、探知、身体強化、転移の訓練に、ご飯回収とレベルアップを兼ねた一石五鳥な訓練で行ってみますか。
「まずは探知!ふむ…あっちに巨大な熊がいるな…。じゃあ身体強化をしてからの………転移だ!」
………。
……。
ブラッディベアは森を歩いていた。周囲には誰もいない。はずだった…。その時、ブラッディベアに不幸が訪れる。
不意に足が地面から離れる。ブラッディベアは、何故自分が浮いてるのか理解できなかった。何かが頭を掴んでいる。が、それも把握できていない。
そして地面が顔に近づいてくる。全く意味が分からなかった。そして、ブラッディベアは訳が分からぬまま、唐突にその生涯を終えた。
「まずは1頭…」
僕は転移で熊の前に現れるのと同時に身体強化した脚力で足を払い、腕を掴んで引っ張った。更に転移して熊の背後に回ると、頭を掴んで地面に叩きつけたのだ。
叩きつけられた地面は、半径5メートルくらいのクレーターになっていた。
「やっぱり転移は攻撃に使えるなぁ。さてと、色々な魔法を使いながら、どんどん行きますか」
そうして、その森にとって最悪の1日が始まった…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
モグモグモグモグ…。ゴクンッ。
「ふぅ…ご飯も食べたし…。そろそろ今日の成果を見ますかね」
「ワフゥ!」
僕は城に帰って来てから、リルと一緒にご飯を食べた。リルは毎日肉でも良いんだろうけど…僕はそろそろ飽きてきたかな…。
流石に野菜とかも食べたいなぁ…。とか考えながらステータスを開く。
<ステータス>
■名前:高杉 透
■種族:人族
■性別:男
■年齢:16
■レベル:27
■魔法
火:5
水:7
風:6
土:6
光:5
闇:5
聖:4
時空:6
無:6
■スキル
刀術:1
体術:6
魔法感知:4
魔法制御:8
苦痛耐性:3
アイテムボックス(大)
自己再生
従者召喚
看破の魔眼
■称号:魔王
「おぉ!レベルが一気に上がってる!これなら30なんてすぐじゃん!!」
「ワゥッ!」
「新しく覚えたスキルは『従者召喚』と『看破の魔眼』だね。本に書いてた10レベルの重要スキルは召喚の方かな?」
「ワフーン!」
リルも『そうだ!』って言ってくれてる気がするので、さっそく使ってみましょう。
「従者召喚!」
従者召喚を使うと、僕の身体からもくもくと煙が出てきた。そして、その煙が一か所に集まって行く。
「な…何が起きてるんだ…?」
煙が全部集まると、煙の塊はパーン!と弾けた。
『パンパカパーン!おめでとーございまーす!!』
「…は?」
そこには、20センチくらいで3等身な、蝙蝠の翼が生えて悪魔っぽい男の子が飛んでいた。
『ご主人様?どうしたっすか?』
「いやいや…。君に驚いてるんだけど…。えっと…自己紹介してもらっても良いかな?」
『あいっ!おれっちはご主人様をサポートする従者っす!名前は無いっす!』
「え?名前が無いの?」
『たった今生まれたばかりなのでまだ無いっす!できればご主人様に付けて欲しいっす!』
「名前とか苦手なんだよな…。従者…執事…セバスチャン……バスってどう?」
『わーい!嬉しいっす!おれっちの名前はバスっす!』
バスは喜びながら空をパタパタと飛んでいます。
「喜んで貰えて嬉しいよ。で、バスはどういうサポートをしてくれるの?」
『色々な質問に答えてナビゲートするっす!』
「お、マジで?じゃあ例えば……新しく覚えた『看破の魔眼』って何かな?」
『簡単に言うと魔王様専用の鑑定っす!対象の情報を見抜くっすよ!鑑定より凄くて隠蔽スキルとかで偽装した情報も見抜くっす!』
おぉ、凄い!これは助かる!これで宝物庫のアイテムも効果が分かるな。この世界で生きて行くには、確かに従者召喚は重要そうです。
『他には何かあるっすか?』
「バスの声が変な感じに聞こえるんだけど、これは何?」
『テレパシーっす!おれっちはご主人様の魔力でできてるので、いつでも繋がってるっす!ご主人様の中にいる時もお話しできるっすよ!でも…』
「外に出てる時は、別に声に出しても喋れるっす!」
声に出しての会話もできるし、テレパシーでひっそり話す事もできると…。なかなか便利ですね。
「魔力で繋がってるんだね。あれ?何だか似た話を聞いた事がある様な…」
『たぶんテイマーじゃないっすかね?テイマーは従魔と魔力パスを繋げてコミュニケーション取るっす!』
「じゃあテイマーってこんな感じで喋ってるの?」
『普通は何となく気持ちが伝わる程度っす!おれっちは人間語を理解してるのとご主人様自身の魔力でできてるから特別っす!』
僕は、バスの声が聞こえてなくてキョトンとしてるリルを見た。
「そっか、リルとも会話できる可能性があるのかな?って思ったけど…駄目かぁ~」
『リルが成長すれば話せる様になるっすよ!あとは繋がってる魔力パスを強めれば、今より意思疎通ができるようになるっす!』
「え?リルって喋れる様になるの?あと、既に魔力パスって繋がってるの?」
『人間語を解する種族っす!今は子供で声帯が出来上がってないっすけど、大人になれば喋れるっす!』
確かにリルって喋ってる内容を理解してるよな…。バスが言う感じだと普通の犬じゃなさそうなので、僕は看破の魔眼でリルを見てみた。
<ステータス>
■名前:リル
■種族:神滅狼
■性別:雌
■年齢:5
■レベル:42
■魔法
風:4
土:3
無:4
■スキル
自然治癒上昇:3
悪食
疾風迅雷
雷狼化
巨大化
■称号:四天王の娘
称号も気になる所だけど…。それ以上に……。
「リル…犬じゃなくて狼だったんだね…」
「ワフン!」
「そっか。で、フェンリルは喋れる様になる種族なのか…」
『そうっす!年齢よりレベルの方が重要っすけど、成長すれば喋れる様になるっす!』
そっかそっか、それは楽しみだな。
『あと、既に魔力パスが繋がってるのか?って話っすけど、完璧じゃないけど繋がってるっす!』
「そうなのか…いつの間に…。それで何となく何言ってるのか分かったんだね」
『魔力パスを強化しておけば、その『何となく』が、より分かりやすくなるっす!』
なるほど。僕としては、リルとより分かり合える様になりたいかな…。
「リルは僕との魔力パス強めるの嫌かい?」
「グルルル…」
リルは唸りながら睨んで来る。『そんな訳ないだろ?』ってちょっと怒ってるみたいだ。
「よしっ!じゃあやってみよう!バス、やり方を教えて欲しい」
『了解っす!まず、リルと正面から見つめ合うっす!』
「わかった」
僕はリルに近づき、頭を撫でながら見つめ合う。
『次に目と目の間に魔力を集中させるっす!本当はそれを糸状に伸ばして接続させるっすけど、既に繋がってるのが見えて来ないっすか?』
「あぁ…見えてきた…」
『じゃあ、既にある糸の上に魔力を流して、糸を強化するっすよ!うん……そうっす…良い感じっす!』
「えっと、もうちょっとこうして……できたぁ!」
「ワフーンッ!」(やったー!)
「おぉ、確かに伝わる情報量が増えた!やったな!リル!!」
リルが跳ね回って喜んでいます。僕も同じ気持ちです。
『上手く行って良かったっす!他には何かあるっすか?』
「んー、今日の所は大丈夫かな?」
『了解っす!おれっちはいつもご主人様の中にいるので、必要な時はいつでも呼んで欲しいっす!』
「あぁ、分かった。ありがとな!」
『それでは戻るっす!またっすぅーーーーっ!!』
そしてバスは、僕の胸に飛び込んで身体の中へと入って行った。
いやー、非常に助かった。様々な情報も嬉しいけど、久しぶりに人と話した気がする…。
僕の魔力でできてるらしいから、壮大な独り言と言えなくもないけどね……。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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