あきらめる、と 4
終わりは、やって来てしまったのだ。
終わってしまったのだ。
始まりは、しない。
エピローグと、プロローグは、繰り返すことなど無い。
始まりがあって、終わりがあるだけだ。
命に、再スタートありえない。
人生は、やり直すことなんて、できない。
デキるのは、過去を振り変えることだけだ。
デキるのは、まだある未来を、見ることだけだ。
それを、どこまでも理解していたのは。
間違いなく、琴誇自身なのだから。
終わる事に。
納得なんて、最初から求められていないのだから。
許された自由は、許容の中にしか、存在しない。
許容ですら、誰かに、求め続けるものなのか。
ソレは違うのだろう。
違わなければ、おかしいのだ。
琴誇が、感じているモノ。
すべてが、否定されてしまうのだから。
誰かに求め続けるモノなら。
こんなに、砕けた腕を、見つめることもない。
動かなくなった口。
固まってしまった体。
だが、魂は。
間違いを正そうと、間違い探しを続け。
走馬灯のように、琴誇の中で形になっていく。
そうか、そうだったのか。
思えてしまえば、もう、説明は不要だ。
誤解であったとしても。
一つ筋の通った答えが、見えれば。
解決策は、見えてしまう。
一つ一つが。
別々に存在しているが。
一つと考えれば、全てに答えが転がり出る。
ドラゴンスキンを覆う、マナを吸い続けるドーム。
奇跡的に発動したのは。
足りないハズの力を、このドームが、持つマナ変換によって補った。
アリサの一撃を、吸収したからだ。
ドラゴンスキンのすべては。
水槽の中に放り込まれた、金魚と同じだ。
金魚は、水槽の中でしか、生きてはいけない。
海水では、塩分が、酸素をこし取っているエラ。
金魚の鼻をつまらせ、窒息させる。
陸上に上げれば、酸素だけでは濃すぎて。
毛細血管が破裂し、死に至る。
酸素の本質は毒だが。
適切な方法で、体に取り入れなければ、死んでしまう。
マナは。
金魚が泳いでいる、水槽の水、そのものだ。
その水槽の中に。
水すべてを飲み込んでしまう、ハ虫類を入れてしまったから。
潤っていた水槽の中は、枯れ果てた。
このドームを作り出していた。
天辺にある核を、破壊するという発想は、悪くはなかった。
正解だったのだろう。
だが、破壊のために、必要な力を得るには。
水槽の中の水を、全て使わなければいけなかった。
破壊する前に、水を使いきってしまっては。
ドームが、自然消滅するのと、同じ事だ。
方法論としてはあるが、現実的には不可能。
そういった部類の、やりかただった。
ドラゴンスキン全てを犠牲にして。
消滅させただけ良いのだろうが。
ドーム内に閉じ込められた、人たちを救うには。
マナが枯渇する前に、救い出すしかない。
マナが枯渇してでも救い出すのは、不可能だ。
枯渇してでも救い出すと言う時点で。
マナを、理解できてない。
そこまで理解していれば。
アリサの全力ブレスは、愚作以外、何物でもないのだと分かる。
ドームは破壊デキるが、全てが死滅しては意味がない。
琴誇は、白い大地になす術なく崩れ去り。
綺麗な青色の空を見る。
脳裏に何故か浮かんだのは、姉の顔。
終わってしまった。
諦めろと後藤に言われた。
諦めてはならない感情。
納得は求めていないと言われ。
理解は、必要ないと言われ。
それで、全てを投げ捨てることが、デキるのなら。
誰も葬式なんて言う儀式は、必要ない。
諦めることができないから。
もう、どうしようもないから。
言い訳じみた美談で、全てを覆い隠していくのだ。
もう、ソレしか、できないから。
もう、許された方法が、ソレしかないから。
死んだ本人を前にして。
思いもしなかった、屈折した思いの捌け口として。
だが、それでも消化できないから。
いつまでも、どこまでも。
忘れるまで、思い続けていくモノだ。
諦めることは、簡単だと。
誰が、言い出したのだろう。
諦めることが、難しいから。
誰もが、大義名分を盾に手放し。
別の何かで、忘れていくのだから。
諦めることが、簡単なわけがない。
諦めたのではなく、忘れただけ。
思い出さないだけ。
逃げたいだけ。
めんどくさいだけ。
結果として、ではなく。
過程として諦めている者は、どれだけいるだろう。
諦める。
ソレは本来、高尚なモノなのかもしれない。
だから、琴誇は、諦めきる事ができない。
これで、諦めてしまえば、二度目なのだから。
失敗して、死んでしまう。
自宅前バック事件と同じだ。
琴誇は、それで、全てを失ったのだから。
他人事だから。
ニュースで、ありふれているから。
見逃すことがデキる。
見下すことがデキる。
笑ってしまうことさえ。
だが、火中の当事者は、いつ笑えるだろう。
事故の被害者は。
お笑いのボケ担当などではなく。
アナタの隣にいる、その人と変わらない。
笑いを振り撒きながら。
身寄りに絶望を振り撒いて。
琴誇は、全てを失ったのだ。
今までの。
努力も。
苦しみも。
悲しみも。
希望も。
望みも。
命ですら、消えた。
また、別の世界にでも行けば。
やり直せるだろうか。
また、後藤に。
納得も理解も必要ない、忘れろと。
説得されなければ、いけないのだろうか。
もう一度、綴ろう。
これで二度目なのだ。
琴誇には、もう、不可能だ。
忙しさに悩殺されても。
もう、一瞬でも。
二つの出来事が相成って。
忘れることが、できないだろう。
いつまでも。
どこまでも。
呪いのように訴える感情が。
一生をかけてでも、この青の大陸に、戻ろうとするだろう。
生きているのに、死んでしまうのだろう。
だって、ソレは。
姉を諦めるのと、同じことなのだから。
「あ。あ~あ」
弱々しく絞り出した声も。
固定されてしまった唇のせいで、言葉にする事もできず。
自分の体が、粉になって消えていくのを、見る事しかできない。
不意に強く吹いた風が。
大きな白い塊を、琴誇の目線まで運び。
琴誇の顔に向かい、落下を始める。
白い彫刻は、陰影がなければ、よく解らないモノだ。
展示の際には、強いスポットライトと。
暗い部屋が、必要なぐらい。
琴誇の頭と、落下物がつかる、その刹那。
その彫刻が、何であるかハッキリと目にする。
所々、崩れ落ちていて分かりにくいが。
アリサの頭だ。
琴誇の頭の上に。
アリサの頭が落ち。
互いに崩れ、粉となって、風に運ばれる。
琴誇の意識は、そこで、全て暗闇へと落ちた。
落ちた暗闇で。
緩く、弱いが、しだいにハッキリと聞こえてくる音。
耳をつんざく、キーンと言う音。
体もないのに、痛みを感じ。
耳を押さえるための、手すらない。
もう、耐えるしかなく。
耐えられない痛みに、目の前が真っ白に染められ。
やっと収まったと、目を開ければ、見えたのは数字だった。
3金2銀5銅40鉄。
ぼんやりとした視界が、晴れていき。
メーター機の数字だと分かるのに、数分もかかる。
頭に伸ばした手から、顔を撫でる感触が広がり。
バックミラーで覗き込んだ顔は、肌色をしていた。
見渡せば、ギュウギュウの車内で。
皆、耳を押さえ悶絶している。
「これは…」
空は淀んだ色のまま、背後を見れば赤紫の壁がある。
今、見てきたのが、夢だったのか。
違うと。
心に、強烈に刻まれた、諦めたくない思いが、否定した。
今、何が起こったか。
問題は、そんなことじゃないと。
琴誇は、無理やり振り払う。
そう、今は。
時間が巻き戻されたなど、些事でしかない。
戻った原因も。
戻された理由も。
琴誇の中には、明確にあるのだから。
メーター機を見て。
琴誇は、この後、自分が口にした言葉を、反芻し。
一言目を、大がかりに変えていく。
「だれか、白い世界を見てきた人はいますか?」
と。
「面白い!」「続きを読みたい!」など。
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