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あきらめる、と 3

「ばっかじゃないの!

 ホント、ばっかじゃないの!

 反動で、この乗り物、吹き飛んじゃうわよ!」


 前列シート二人のアホ面が、ルインに返される。


「バカバカバカ。高い威力のなにかを、打ち出したら。

 普通、自分が持たないから、誰も使わないのよ!」


 勢いよくモノを打ち出す、土台の話だ。


 とてつもない威力の弾丸を打ち出すには。

 反動に耐える土台が必要なのだ。

 土台がしっかりしていなければ、打ち出した弾丸の制御もままならず。

 暴走バズーカは自爆し。

 使用者を殺し、明後日の方向に打ち出された弾丸は。

 思わぬ災害を、撒き散らすことになる。


例えば、周囲を凍らせるほどの冷気を、作り出したとして。

 繰り出した本人が、氷漬けにならないのは、なぜなのか。

 自分を守ることがデキるからだ。


「じゃあ、なんでアリサは、ダイジョブなの?」


「人と、龍の恩恵を受けた龍族の身体能力が。

 話にもならないほど違うって、知らないの?」


「どれぐらい違うんですか?」

「頑丈さでいったら、金属と、ペラペラな紙ぐらい違うわ」

「ちゃんと答えるルインちゃん、素敵です」


「この車内には、バカな男しかいないの? 話にならないわ!?」

 そう言ったルインの横目に、剣を抱えて黙る、ガルフの姿がうつる。


「…すまん」

「あやまられちゃった…」

 扉を開け放ったルインにあわせ、寺田も車外へ。


 これから何をするのか、分かっていないのは、寺田も同じようで。

 真面目そうな顔に、罵声を浴びているようだった。


 アリサの体を、覆う光は色濃なり。

 胸の前で握られていた拳は、脇腹に移動する。

 後ろに大きく足を踏み出し。

 体の脇で広げた手のひらで、赤色の球体が、回りの空気を変えていった。

 その光だけで、全ての空気を吹き飛ばし。

 その存在だけで、冗談半分に揺れていた心に、緊張感を走らせる。


 アリサのまわりで光る。

 車輪のように流れる文字が、アリサを彩り。

 これから起こる、大事を演出していった。


 寺田、ルインが、やっと動き出そうとするなか。

 アリサの目は、大きく開かれた。


 ワインレッドの瞳に入った、幾つもの黒い筋。

 やんわりとしていたアリサから、にじみ出る緊迫感。

 地面に向かい、大きく声を張り上げたソレは。

 女性のモノとは、ほど遠い声。


 聞いている者の腹に響き。

 地面すら揺らすほどの、咆哮。


 聞いた人は、否応なしに、体を凍らせるしかない。


 アリサを知っているからこそ。

 目の前でデキ上がっていくモノと、ギャップを感じ。

 そんなことすら、どうでも良くなっていく。


 龍の力が、どれ程のモノなのか、知らしめて。

 この世界の大戦を、終わらせたのが。

 どういった、存在だったのか。


 言葉の上でしか知らなかった。

 龍という存在が。

 なにも知らない、琴誇の肌へ訴える。


 睨まれ、敵意を向ければ。

 命なんてモノが。

 どれ程、軽くなるのかを。


 人間の命が尊いと言われる言葉が。

 概念が。

 人同士でしか通用しないという事実を、浮き彫りにする。


 龍が見下ろした、人という存在は。

 地上を這いつくばり、利己的に物事を解釈し。

 人間以外の全てを、損得で善悪をつけていく存在にしか映らない。

 そういった存在をなんと言うか。

 漢字二文字で、表せてしまうのだろう。


 害虫と。


 声一つで、全てが凍りつき。

 光が織り成す、幻想的な世界に取り残された。

 一台の車に関わった人達。


 ガルフでさえ。

 目を奪われる光景に、ただ、見入る。


 圧倒的な迫力と、美しい光。

 濁った空が、怪しくアリサを飾り立てた。


 この光景を比喩する言葉が分からず。

 思考すら投げ捨て、見惚れる美しさ。


 アリサの体の変化が、よりいっそう顕著に現れ。

 人の肌は、肌色の鱗へ変わり。

 顔まで鱗は、侵食していく。


 硬骨とした鱗の繁殖は止まらず。

 アリサが、龍族なのだと思い知らされる。


 体全身が、二足歩行する龍へ変わり。

 靴すら突き破った、龍の前三本指が地面を捉え。

 鎧のような皮膚は、青と肌色のコントラストを作り出す。


 人の形を残した、二足歩行する龍か。

 それとも、顔の一部しか露出していない鎧を纏ったアリサなのか。


 その、どちらとも言えない。


 アリサの変化した腕が、天につき出され。

 吐き出される真っ白な閃光に、皆は顔を背け。


 そして、皆。


 浮遊感を感じたのが。

 この光景の終わりだった。


 あまりの眩しさに、目を開けることもできず。

 全身に、強い衝撃が突き抜け。


 衝撃が、地面に叩きつけられ。

ようやく落ち着いたのを感じ。

 薄く開いた目で、琴誇は目を疑った。


 消えた眩しい閃光のせいで。

 幻覚でも、見せられているのだろうか。


 目を開けた世界から。

 色が消え去っていた。


 また、冗談かと。


 琴誇が、不意に蹴飛ばした雑草が。

 小麦粉のように、宙に消えていく。


 白い大地に。

 自分が吐き出した血が染み込み。

 赤を、より鮮明に見せる。


 思った以上に飛び散る赤を見れば。

 無意識に、体をまさぐる手。


 まさぐって、すぐ。

 石灰を砕いたような音が耳に届き。

 視界が、斜めに崩れ落ちていく。


 ココまで、目で見て、耳で感じ。


 自分が、どうなっているか。

 想像できないほど、子供なのか。


 ただ、認めたくないだけ。

 認めたくないから、言い訳を並べたいだけ。


 なぜ、確認せずには、いられないのだろう。


 目の前まで、持ち上げた左手は白く。

 ヒビが走り、掌の半分は宙に消えていく。


 ポロリと落ちた、親指の欠片が、地面で粉に変わり。

 まだ、あるハズの魂が、全力で叫ぶ。


 もう、何をしても無駄だぞ。

 だから、考えることも無駄なのだ。

 理由を知っても、どうしようもないのだから。


「面白い!」「続きを読みたい!」など。

少しでも、思った方は。

ぜひ、ブックマーク、いいね よろしくお願いします。


それだけで、皆様が思われている以上に

モチベーションが上がります。


お読みの上で、何かお気づきの点や、ご意見ございましたら遠慮なく


ツイッター @chicken_siguma

URL  twitter/chicken_siguma にて、DM または


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今後とも、長いお付き合いよろしくお願い致します。


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