ルインと寺田 5
「なに! 私じゃ不満なの!?」
「寺田さん。とんでもなく、めんどくさいことに、なってるじゃないですか」
「いや、それでも、言わせてもらっちゃうね」
「言わなくて、イイですから!」
「俺なんて、言葉も通じないところに放り込まれてだ。
絵に書いたモノを作り出せるなんて言う、中途半端な主人公補正だけだぜ。
しかも、琴誇がいたから、主人公補正ですらないじゃないか!?
大変だったんだぜ? 自分で言葉を覚えるの。
大変なんだぜ? この世界で、画材を揃えるのもさぁ!」
「ルインさんの背中の杖も、寺田さんのせいか。
なら、一番最初に。
この世界の、駅前留学ブック、作れば良かったじゃ、ないですか!」
騒がしかった車内が。
一瞬で静まり返り、寺田の手が震え始めた。
「なんで、最初に言ってくれなかったの?」
「…え。え! ちょっと待ってください。
なんで、そんな事すら、思い付かなかったんですか!?」
「バカだからよ。
コイツ、本当に、ロクでもないモノばかり、作って私に渡すんだから」
「しょうがないじゃないか!
魔女っ子として、その姿は可愛くないもん。
17歳だけど、見た目が、小さいから妥協してだねぇ?」
「妥協って言ったわね! 私の何が、イケないのよ!」
「キャラがいけない」
「なによソレ!」
「寺田さん、何を作ったんです?」
「衣装、一択です。受け取ってくれないからさぁ。
何とかしようとして、杖で妥協させた訳だけどさぁ」
「妥協!? なかば脅迫じゃないの!」
「それは、魔力が弱すぎる、ルインちゃんがいけないんでしょ。
ちゃんと、魔力上がったじゃないか」
「デザインが、気にくわないのよ!
しかも大きすぎるのよ!」
「それがイイんじゃないか!
それを槍みたいに突き出してさぁ~。
すごい魔法とか、ブッぱなしてごらんよ! 俺が満足するから」
「そんな事したら、魔力が、一瞬で枯渇しちゃうでしょうが!」
「魔術なら、お得意のもんでしょうが!」
この二人は、こんなやり取りを、ズッと続けてきたのだろう。
お互いが、お互いに対する、遠慮のない言葉が、琴誇にそう思わせる。
「テメェら、いい加減だまれやぁ…」
ナビィの口から出た毒に、驚いた寺田は固まり。
片手を耳に添え、ナビィに顔を近づける。
「寺田とか言ったかぁ~。
話が前に進まないんだわぁ?
仮にも緊急事態だと分かってんのか? コラ」
「琴誇君。なにコレ? かわいい声で、ヤンキーみたいなこと言ってる」
「仕様です」
「そんな仕様書、燃やしてやる。
あ! そうだ。ルインちゃん、画材だして」
「絶対に嫌よ」
「なんでよ! 俺の創作意欲が、バーニングなんだって!」
「また、衣装作る気でしょ!」
「当然だ」
「寺田さん。ちなみに、どこまで書けば、作り出せるんです?」
「白い紙に、訂正線なしの一発線画。
しっかり色つけて、陰影のグラデーションと光をいれて。
質感まで出した一枚絵を、前後左右。
肌に当たる内布部分を、服を切り開いた形で、書き上げたら作れる」
「ルインさん、画材って、どれぐらいするんです?」
「中途半端な画材じゃ、こいつの力が使えないのよ。
それなりのモノを用意するするから…。
コイツが、ひとつ作り出す費用で、飢えで苦しむ子供が、一ヶ月は生きられるわ」
「スゴい手間と、時間と、お金と、技術が、必要な力ですよね?
そういう認識で間違ってないですよね? ルインさん」
「そうよ。なのに、コイツと来たら。
気づいたら、私から画材をくすねて、無駄なモノを一杯作るのよ」
「作ったものを売ったら、お金に困らなくなったでしょうが!」
「売るまでに、どれだけアンタの抵抗を受けたと思ってるのよ!
画材費用と食費で、お金なんか、残らないじゃないの!」
「借金してないから、イイじゃないか」
「あんた、今度は、その子の服書く気でしょ?
売れないモノを書き出したら、私が破産するって、どうして分からないの?」
「大丈夫だ! 需要は、きっとある!」
「一生に一回見れるかどうかの、妖精でも探して、売り付けるつもり?
バカじゃないの! ほんと、バカじゃないの!」
「…話の先を、待っているんだが?」
静かに座っていたガルフの声が、二人の視線を釘付けにする。
「どなたです?」
「寺田さん。もう、黙りましょう」
「え? どうし__」
「うん、黙ろうか。この車の絶対のルールだよ」
琴誇は、右手で年上である寺田の顔を、容赦なくつかみ、黙らせる。
「まさかのヒイラギフィンガー…。ゴロが良いなぁ…。
頭部を破壊されたら、負けなルールか?」
「黙りましょうか」
両頬に沈む五本指が、寺田の顔を、ひょっとこのお面のように変形させる。
「アリサ、話してイイよ」
「もう、いいもん」
「……。めんどくさくなったぞぉ?」
「…大丈夫だ」
ガルフのカチャリと持ち上げた剣の鞘が、アリサの顎下に添えらる。
ふてくされたアリサの顔が、すぐ怒られた子供のように。
「…話せ」
「ひゃ、ひゃい」
「ガルフさんの恐怖教育すごいなぁ…」
始まるアリサの一人舞台。
今回、一つだけ不満を漏らすなら。
アリサが甘えっ子モードから戻っていないコトだ。
「だからねぇ~。まほうとぉ、まじゅつっていうのは、ねぇ~」
聞きづらい、イライラする。
誰もが抱いた感情を、誰も口に出せないまま。
だらだらと、時間は過ぎていった。
「面白い!」「続きを読みたい!」など。
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