15話 ルインと寺田 1
空を覆いつくす、赤と紫の膜。
まるで空色という絵の具に、赤と紫のチューブを、ひねり出したようだ。
それでも、地上に降り注ぐ光は、いつもと変わない。
緑色の野原、遠くに見える民家、車。
空の色だけが違う、奇妙な空間の末端に琴誇は、立ち尽くす。
琴誇は、口が半開きになっているのすら、気づかず。
唖然と回りを見渡した。
泣きわめくアリサを、視界の端へ追いやり。
なんとか、事の重大さを噛み締めようと、努力してはみるが。
「うまくいかない…」
こうなってしまったのは、自分達が、ふざけた結果です。
なんて事を、誰に言えるだろう。
茶番が、町ひとつを巻き込んだ。
笑えない冗談にしても、タチが悪すぎる。
琴誇は、いまいち、真面目になりきれない自分に、ため息を吐き出した。
ここまで、あからさまで、分かりやすい問題を、目にしているのに。
心は、まだ茶番の延長線上の話だと、思えてしまっている。
大笑いすれば、終わってしまうと。
どうしたら良いか、分からないのに。
伸ばす先を失い。
後頭部に、手を回し。
呆けることしか、できないのに。
何度、周りを見渡しても。
なにも変わらず、風が吹き抜ける。
唯一、変わっていくのは。
ガルフの険しい顔だけ。
どうしようもない、ことだけを確認した視界の端に、口論する男女が映る。
背は小さく。
キレイなピンク色の腰まである髪を左右に揺らす少女。
隣の、頭二つは背が大きいTシャツ・Gパンの男。
Yシャツ、黒いミニスカート、ニーソックス。
一番目につくのは、背中に背負っている杖だろう。
身の丈に、見合わない長さの杖。
プラスティックのような輝きを返す、ピンク色。
杖の、先端に金色のCの字。
どのように取り付けられているのか、分からない赤い玉が、その中で浮いている。
きっと、ファンタジーだ。
琴誇の足が、この二人に向かうのも、仕方ない事だろう。
近づいて行けば、この男女二人の場違い感が、より一層強まっていく。
男の身長は、琴誇より少し高く。
今まで、運動してこなかったのが、分かる細い体。
適度に短く整えられた髪の下に浮かぶ表情は、どこか優しい印象を受ける。
シャツとGパンとと言う、この世界では、まず、あり得ない服装。
極めつけは。
シャツにプリントされた萌えキャラが。
すごく可愛く笑っていることだ。
しだいに聞こえてくる、二人の口論。
もはや、どうでも良くなってきた、空の色。
琴誇の足は、いつしか早くなり、顔から、表情がなくなっていく。
男の口から「このツンデレちゃんは、もぉ。」なんて日本語を聞いて。
琴誇が、ついに走り出すのも、仕方ないことだろう。
二人も、走る琴誇に気づいたのだろう。
ただの口喧嘩だったハズの内容が、変わっていく。
少女は琴誇を指を指し。
必死に、男に訴え始めるのも、当然の事だし。
男が、小首をかしげるのも、仕方ないことだ。
無表情で全力疾走してくる、タクシードライバーが、迫ってくるのだから。
「おまえらかぁああ!」
「ち、ちがいますよぉおお!」
琴誇の怒りの一撃が、理不尽に、男の脇腹をエグった。
めり込んだ足に蹴り出され、男は、力なく地面に落ちていく。
なんとか持ちこたえた体を抱え。
男は、横っ腹を抱えながら、琴誇を見上げた。
「出会い頭に、跳び蹴りって…。
特撮じゃあるまいし…。いってぇ…」
「諸悪の根源でしょ?」
「久々に聞いた日本語がだよ?
罵声だった俺の身にも、なってくれ」
「いや。そういうの良いから、早く、この空を、元に戻してください」
「俺たちじゃないって…。寧ろ、解決しに来たんだって」
「え? 後藤さんの、イタズラじゃないの?」
「誰ですか?」
訴える男の姿は、どう見ても、嘘をついているとは思えない。
女性も、なにかを言っているが。
理解できるハズもなく。
琴誇は、自分が、やらかしてしまった失敗を、再認識する。
「えっと…。アナタ達では、ない?」
「だから、そう言ってるじゃないですか。
どうしたら、そんな勘違いできるんですか?」
何がと言われ。
そう確信したのは、どういう事なんだと、言われれば。
琴誇は、悪ぶれもせず口にする。
「えっと。自分達の姿を、鏡で見たことあります?」
男は、女性と自分の姿を見て。
目の前のYシャツネクタイに、不思議な顔を返した。
「アナタも、変わりませんよね!?」
「僕から見たら、異世界トリップしてきた人が、
この状況を作ったとしか、思えなくて」
「あ~。やっぱり、異世界トリップしてきたのは、俺だけじゃないんだ。
一人だけだから、特別感が出るって言うのになぁ…。
もったいないなぁ…。
すごく、裏切られた気分だよ」
「どうやって、トリップしてきたんです?」
「えっと、確か、嫁に買い物を頼まれて。
コンビニから、出たハズだったんだけど。
目を開けたら、彼女がいたんだ」
「え? 異世界トリップの王道…」
「だよねぇ!?
これキタ! ついにキタ! と、思ったのですよ」
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