暴れる子供と汚い空 5
収集がつかないように思える、だだっ子に琴誇は、大声を張り上げた。
「アリサァ! 頭、撫でてあげるぞぉおおお!」
この賃走中に身につけた伝家の宝刀を、琴誇は抜き放つ。
ここまで喜怒哀楽が、幼児退行しているのも、困りものだ。
いつ、導火線に手がかかるか、分かったものではない。
だからこそ、伝家の宝刀が光輝くのだ。
アリサの頭を撫でれば、すべて、うやむやにデキる。
そう思った琴誇に。
現実は、なにもおこらないと言う結果を、琴誇に返した。
「え? なんで?」
空を見上げれば太陽と、紫色の光。
そして、目の前の爆心地。
琴誇は、自ら開け放ったドアを見て、やっと理解した。
氷を押しあてたように、キモが冷えていく。
頭を撫でれば、なんとかできる。
思い込みではない確信は。
前提条件が、絶対必須だと忘れさせていたのだ。
「僕のバカぁ…」
頭を抱え、その場にうずくまり、後悔しても、もう遅い。
「翻訳機トラップに、また引っ掛かったぁ…」
流れで、外に出てしまうと。
言葉が通じない事を忘れてしまう。
もう、何度、引っ掛かったかわからない、トラップ。
作者自信も、トラップにハマり。
文章を、全部作り直した事が、数回あるのは余談である。
琴誇が車内を覗きこめば。
あきれ返るナビィの目線を、一身に受けた。
ゲンナリして、視線を下に落とせば。
ナビィ足元の、無線機型翻訳機のマイクが、目に映る。
無線機本体から、線がバネのようにのび、マイクへ繋がっているのが。
この翻訳機が。
本来、タクシー業務を行うとき。
会社と、やり取りするために付いている、無線機なら。
末端に付いているマイクは、スピーカーであり、マイクだ。
これを翻訳機として、自称神の後藤が改造したとき。
マイク真横のボタンを押すだけで、車内の言葉が、翻訳されるようになっていた。
形にあまり意味がないと、思っていた琴誇に、一つの疑問を投げ掛ける。
翻訳機末端のマイクが、スピーカーであり、マイクなら。
琴誇は、助手席側のドアを開け放ち。
車内のマイクを、引きちぎらん勢いで、手繰り寄せ。
ギリギリ車外まで伸びたマイクを口にあて、琴誇は、全力で叫んだ。
「アリサァァア。車内に戻ってくれば、頭、撫でてやるぞぉおお!」
ピタリと止まる暴風。
琴誇は、この翻訳機を作った、後藤に初めて感謝した。
原理は、分からない。
翻訳し。
各自の耳に。
各自の分かる言語で送り届けているのは、このマイク部分だったのだ。
本体から別にある、ドライバー席、左側に垂れ下がっていた。
邪魔な存在程度に、思っていた物。
後藤の仕事を考えれば、スグに気づけたかもしれない。
後藤は、琴誇の世界にあるタクシーを、再現し。
その上で、異世界生活に対応できるように、改造した。
なら、メーター表示の一件で、気づくべきだったのだ。
再現したのが、オンボロクラウン。
最新鋭の機材を積めば良いと言うのに。
リアリティに、こだわり。
わざわざ、世間一般水準のタクシー会社の車と、同じようにした。
後藤の変な凝り性に、今回は救われたのだ。
なるべく、現代のタクシーメーターと、同じようにするため。
表示だけ、この世界の通貨に変えただけの仕事。
ザックバランな仕事だ。
なら、無線機を翻訳機にするとき。。
なるべく、無線機と同じような使用感にするため、改造したのだ。
翻訳機として使いやすいモノを、備え付ければ良いのに。
わざわざ、無線機型翻訳機にしたのだから。
琴誇が、ホッと、気が抜けたように空を見上げれば。
空の青は、異様な紫に変色していた。
「なんだ、コレ?」
「こ~と~こ~」
「僕が、ケガしちゃうから、歩いてこないと、撫でてあげないよ?」
「う、うん」
アリサが、一歩を踏み出そうとした、足元の地面が。
今まさに、エグリとられようとしている。
琴誇は、間一髪だったと、背筋に冷たいモノを感じた。
言われるがまま。
アリサは、琴誇の目の前に座り込み。
泥だらけの頭を、突き出してくる。
砂ぼこりやら。
泥やらをキレイに払い。
頭を撫でてやれば、幸せそうな顔を琴誇に返す。
アリサの顔面が、とんでもないことに、なっていることより。
九死に一生を得た事が、すべてだった。
「もう、こういう冗談はやめよう。本当に」
「絶対、無理だと思うんですけどねぇ? 私は」
ナビィが、頭の上から皮肉を言ってくれることすら、心地が良いと。
感じられる自分に、どれだけ追い詰められたかを、自覚する。
「琴誇、そろそろ言葉を、覚えないと厳しいかと」
「全部じゃなくても。
いくつかのフレーズだけでも、覚えないとダメだなぁ?」
「それだけでも、違うかもしれませんね」
「茶番一つで、こんな事になるなんて、思わなかったよ」
「私は、いつか起こると思ってました」
「良いところで、止めようよ!」
「そしたら、楽しくないかなぁ、と」
「誰がだよ!」
「私たちを、見ている人が」
「あんな人に、そんな配慮、いらないでしょ!」
「あんな、クズみたいな神でも」
「……」
「あんなクズみたいな__」
「聞こえてるから!」
「私にとっては、産みの親なので。
ちなみに、琴誇と、私と、ガルフが、馬鹿にする分には許しますけど。
他の人なら、天誅下しますので、よろしくです」
「歪んだ、親への愛情を、ありがとう。ちなみに、天誅って?」
ナビィは、満面の作り笑いを張り付け。
頬に指を添える可愛すぎるポージングを、琴誇に返す。
「小さな体で、スゴいこと、しちゃうぞ!」
「魔法とか、特殊能力とかじゃなくて。
物理的に、怖いことだって言うのは、伝わってきた。」
と、アリサを撫でていた手から、震えが伝わってくる。
今度は、なんだと、アリサを見れば。
下を向いたまま、細かく震えていた。
琴誇は、また暴れられては、たまらないと。
すべてを、うやむやにする、必殺の一言を口にする前に。
アリサが、口にした言葉が、頭を真っ白にする。
「木札…」
アリサが、見下ろす視線の先に転がる。
元凶が、日の光を怪しく、照り返していた。
助手席のドアを開けるとき。
あまりに、必死すぎて、存在を、忘れていた木札。
まさに、その時だろう。
無意識に放り出し。
今は、琴誇の、足と足の間で微笑んでいる。
琴誇は、黙ったまま。
ゆっくり木札を拾い上げれば。
アリサの視線は、木札に吸い寄せられるように、持ち上がる。
目の前まで持ってきたころには。
琴誇は、アリサの左手の平に、赤い光を見た。
琴誇は、徐々に体をスライドさせ。
車のない野原に、背を向ける。
「もしかして、その手で、私を触ったの?」
琴誇の脳裏に。
木札を左手で拾い、左手でアリサの頭を撫でた自分が、再生された。
「そ、そんなことないよ?」
言葉以上に、逃げた目線と、隠せなかった表情が。
純粋なアリサに訴えた。
「嘘だ!」
琴誇は、アリサの言葉と同時に、木札を、全力で頭上に放り投げる。
すぐに頭上から。
髪の毛が、チリチリと焼ける音が、すぐに耳に届いた。
頭を焼かないよう。
背後に倒れた琴誇の視界の空に。
グリーンランドで見た、赤い光が。
とんでもない速度で、突き抜けていく。
「し、死ぬとこだった…」
赤い光は、木札を一瞬でチリに変え。
そのまま、天高く伸び。
紫色の球体に直撃する。
また、誰かに迷惑をかけるのか、と。
あきらめた視界で。
紫色の光の球体は、赤い光を飲み込み。
ビー玉を、ハンマーで割ったように四散した。
「あ~、やっちゃったよ…」
そして、変化が訪れる。
天高く昇った球体を中心に、空が赤と紫に染まり。
体を起こした琴誇の耳を。
カラオケで聞く、ハウリングよりも。
もっと高音の音が、脳まで震わせる。
思った以上の大音量。
痛みさえ感じるほどに。
耳をおさえ、少しでも、音が聞こえなくなるように、頭を抱え。
うずくまるしかない。
音が収まり、まだ痛みが走る頭をおさえながら、琴誇は、立ち上がった。
わんわんと泣くアリサ。
両耳を押さえ、眉間にシワを寄せる、ガルフの姿。
ダッシュボード上のナビィは。
美少女にあるまじき、醜態を見せたまま、失神。
車の背後を見れば、壁のように立ちはだかる、赤と紫の壁。
琴誇が、ためしに、小石を投げつけてれば。
暑い鉄に、水をかけたような音と共に、一瞬で蒸発した。
「これは…」
「こ~と~こ~」
泣いたまま、抱きついてくるアリサに。
汚いだとか、ウザいとか、以上に。
やらかした、とんでもない失敗が。
琴誇の心に、ズッシリと、のしかかる。
「とんでもないことに…」
ドラゴンスキンの空は、赤と紫が混じりあい。
太陽すら、淀んだ色に染まる。
なにかが起こった。
それは、誰の目にも明らかだ。
想像を簡単に飛び抜けていく、この世界の「常識」。
やらかした結果が。
自分の想像を上回ったとき。
誰もが、立ち尽くす姿を、こう言うのだろう。
ただ、唖然と立ち尽くしたと。
「面白い!」「続きを読みたい!」など。
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