暴れる子供と汚い空 3
アリサが、叫ぶように吐き出した言葉の直後。
琴誇の「えい。」と、言う声が、アリサの耳に届き。
アリサの目の前を。
琴誇の手から放たれた、木の板が、宙を舞う。
投げた本人の意思道理。
アリサの顔へ向かって。
アリサの目が、徐々に見開いていく。
目の全てを使い。
目の前で起こっている事件を、理解しようとするアリサに、デキるのは。
動かず、固まる事だけ。
考える前に、咄嗟に動くこと。
そんなことは、当たり前にデキる事だと、言われるが。
それがデキるのは、本物のアスリートか、訓練を受けたものだけだ。
考える前に動く事は、想像以上に難しい。
車を見て。
横断歩道の途中であっても。
自覚なく、立ち止まってしまうように。
なにがあったか、確認してからでないと。
理解してからでないと。
動くことは、できないモノだ。
見て、どう動くか決めて、やっと行動に出る。
寝ぼけていなければ。
この間、一秒も、かからないだろう。
だが、この一秒が、全ての分かれ目だ。
少なくとも一秒は、完全に固まっているのだから。
今すぐに避けないと車に引かれる。
理解して動くまでの一秒で、車は、人を撥ね飛ばす。
鍋を、テーブルの上で、ひっくり返してしまった、ときのように。
琴誇の行動は、アリサの予想を超え、理解が追いつかない。
アリサが、琴誇が、何をしたかを理解したときには。
ペタッという音が、アリサの頬から聞こえ。
重力にしたがい、木札は、服の上にポトリと落ちる。
木札に引き寄せられるように。
アリサの頭は、下に向かい、暫しの沈黙が車内を包んだ。
嵐の前の静けさだと、誰もが思う中。
火蓋は、切って下ろされる。
「きゃやああああ!」
耳を、つんざく悲鳴。
人間、意識せずに悲鳴をあげれば。
歌手顔負けのファルセットを飛び越え、超音波になるものだ。
「琴誇も、やるようになりましたねぇ?」
「耳痛い…。遠回しに押し付けて来る方が、悪いでしょ?」
「一応、客ですよ?」
琴誇の顔を見上げたナビィの目の前に、間抜けな顔をした男が誕生した。
「あ、ああ。そうだね」
「忘れてましたね?
今、タクシー賃走しているのも、忘れてましたね?」
「もう、支払い押せばイイ?」
アリサが、髪をかきむしるなか。
前列シート内には、日常が漂う。
迷惑そうに、身動ぎするガルフ。
だが、アリサの暴走は止まらない、
取り払おうと、動けば動くほど、木札は服の上で転がり。
木札が、自分の服の上で転がっている光景を見るたび、体が飛び上がる。
アリサの目線が扉をとらえ。
手が、ドアレバーにかかる。
引いたドワレバーは、カッチャンという音と一緒に、空を切った。
「うわぁ…。琴誇。
ここぞとばかりに、今までの仕返しを…」
「なんか、あわてふためく姿を見てると、胸の辺りが、晴れていくようなんだ。
不思議なことに。」
「可愛そうだとか、思わないんですぅ?」
「いや、なんか。自業自得だな、と」
慌てふためいた、アリサの体は固まり。
下に向いた顔が、正面に勢いよく持ち上がる。
そのワインレッドの目に、黒い筋が浮かび上がっていた。
それを見た、琴誇の動きは早かった。
タクシーの自動ドアと言う、名の手動ドアは。
ものすごく、アナログな作りだ。
ボタンを押して、客席左側のドアを、開閉しているわけではない。
ドライバー席、右下。
ドアポケットの真横にある、鉄の棒を、手で上下させて開閉させている。
アナログな開閉装置は、ドアロックが、かかっていても、開閉可能だ。
琴誇は、一息で、開閉装置を引き上げ。
アリサ左側のドアを開け放つ。
だが、アリサが外に出ていかない。
車内が、スゴいことになる前に、対処しようと。
琴誇は、車の外へ飛び出し、アリサの真横で大声を張り上げた。
「アリサぁあああ、外にでれるぞぉおおおお!」
言われるがまま、外に向かったアリサの体は。
車内から弾き出されるように、飛び出した。
「間一髪だったぁ…」
空から、アリサの喉のドコから出しているか分からない、龍の雄叫びが響き。
琴誇の目の前にカランと、木札が舞い落ちる。
琴誇は、木札を拾い上げ、よく見てみれば、なんて事はない。
「ただの、埃とニスだな。コレ」
まだ、作られたばかりなのだろう。
木札は、鮮やかな黄土色と、茶色のコントラストを、木目が作り出しており。
茶色く変色している箇所がない。
木が腐らないよう、塗られる木ニスが、まだ乾ききっていない。
だから、ベトつくのだ。
ウルドは、あの小屋で、木札を作っているのだろう。
木札の裏側に、文字が並んでいるところを見ると。
この木札は、許可証であり、案内板なのだ。
身なりは汚く、近寄りがたい匂いだが。
仕事は、これ以上なく、シッカリとしているようだ。
一人車内に残されたガルフは、深く、息を吐き出すだけ。
「ガルフさん。ご迷惑、お掛けしました」
「……。耳が痛い」
「すいません。ホント、すいません」
空を見上げれば、アリサが我を忘れ、なにか奇声をあげている。
「あ~。取り返しが、つかないことに」
ドラゴンスキンに、まだ片足しか入れていないのに。
コノ有り様では、先が思いやられると、琴誇は、深いため息を吐き出した。
黒く、泥で汚れたタクシー車体に、写る空。
辛うじて薄く、なにかが、チラリと光る。
日の光とは、違う色、紫と白の光。
背後を振り返り、空を見上げれば。
深い紫と、黒と白のコントラストで光る、ビー玉ほどの球体。
気球のように、ユックリと空に向かって、浮かび上がろうとしている。
「なんだ、アレ?
まぁ、魔法とかに違いないだろうけど。
お~い、アリサァ~。そろそろ降りてこ~い」
「面白い!」「続きを読みたい!」など。
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