この剣は無敵の剣だ 3
唯一許されているのは、どこまでいっても人殺し以上の、なにものでもない。
だが、彼は、少ない人に囲まれ、屈折しすぎた心が一瞬許した甘さを自分以外へむけた。
するとどうだ、最後の戦いと銘打たれた戦場で、やっと死を感じることに成功した。
このままいけば死ねる。
終わってしまう。
生きたいと必死に足掻くのが普通なのだろう。
ただ、映像の中の自分は、違う。
今すぐに戻れば助かったのかもしれないと言うのに。
治療を受ける場所まで駆け抜ける力を持っていたと言うのに。
痛みすら喜びだと。
体の力が、自分の意思とは関係なく抜けていき、足すらまともに動かせなくなった事に、心が震えていた。
死を感じ、恐怖ではなく、心に広がる真逆の心境。
やっと許されたんだという開放感が、全身を駆け抜けていた。
役目ぐらいは果たして終わろうと、玉座にふんぞり返る老体と対面し、いくつかの言葉を交わし。
すぐに玉座は、赤に染まる。
初めて、自分の赤で、大地を染めたのは、この玉座だけ。
終わったと、力尽きて倒れることもせず、帰ってきてほしいという願いすら聞き入れず。
生きている事と、死んでいる事の境界線すら分からなくなって。
夢の中の自分は、それでも自分であり続けた。
見ている側が、悔しいと、惜しいと、生きろと叫んでも。
人外の化け物は、波乱しか生まないと。
城の地下へ向かい、蓋がかけられた井戸を見つけ、最後の力を振り絞り、身を投げた。
ノイズだ。
あるのか、ないのか、分からない夢うつつ。
目を覚ませば。
狭い部屋の、窓の景色は流れ、いつもの二人がガヤガヤと賑やかそうに言葉を交わす。
今の現実が、目の前に広がった。
「胸ぐら、捕まれ損ってこと?」
前の椅子から振り返る、男にしては弱そうな人物が、のぞきこむ。
目が覚めたガルフは、琴誇に向かって、素直に謝罪を口にしていた。
「…すまない」
「え? ガルフさん、マジで?」
よく見る夢のようなもの。
その映像の空気が、匂いが、声が確信させる。
夢の中の光景が、本当にあった事ならば。
何も知らない土地に飛ばされてきた時、神だと言い張った女が言った言葉も納得できる。
もう、いい加減。普通に、楽しく生きていいからね。
意味も分からず尋ねれば。
お前の人生目標は、楽しく生きることだから、と、何度も説得され。
やっと、神に頷いてみれば、言葉すら通じない場所に投げ込まれていたのだから、笑い話だ。
無意識に抱え続けている剣。
元来、持っていた剣は神に取り上げられ、代わりに、と、渡された剣。
剣を持っている事に、どれだけの意味があるのか分からない。
これが、どれだけのモノだったのか、さえ分からない。
だが、こんな鉄の塊が、何よりも大事な物なのだけは、理解できた。
今、琴誇は、選択基準をなくし、考え方すら否定され。
導き出されてしまった「何もない」という結論に、違和感しか感じない。
それが、毒のように、疑心暗鬼を作り上げていくのが、顔を見れば分かった。
そう、だからこそ。
おそらくガルフという人物が。
一度も、行えなかった選択をする動機には、十分だ。
これからを、楽しくするために。
これからが。
自分が思っている以上の世界が、あるのだ、と。
信じるために。
未来が、最悪しかない、と、嘆く前に。
少しはマシな、結果を導き出してもらうために。
「…琴誇」
茶色に、金色の簡単な装飾がされた鞘から頭を出す、銀色の柄。
柄に布が固く巻かれ、なんの色気もない、戦うための武器。
抱えていた武器に手をかけるだけで。
目の色を変える二人に。
苦笑しているつもりのガルフの表情は動かない。
「…手を出せ」
前の座席の琴誇は。
いわれるがままに、手を差し出し。
ガルフは、そのまま剣の柄を、琴誇に倒す。
思った以上の重み。
これが武器なのだと、わかる感触は。
琴誇の顔に、驚きだけを広げていく。
「…怖いだろう?」
「なにがですか?」
「…失敗してしまった結果が」
「怖いです」
アリサが、抱えてきたモノは。
問題ばかりに思えたが、この世界の「常識」では、問題ですらない。
実は、何も起こっていなかった。
考えて動いた結果「間違ってました」と、言えたら幸せだろう。
この世界の常識以外を、知りすぎているからこそ。
考え付く限りの最悪は。
人同士が、肩を並べている以上、起こりうることだ。
起こってしまった場合。
誰もが、想像できる最悪だけが、残されるのだろう。
そのときになってから。
何も、なかったんじゃないのか?
嘆いたところで、もう遅い。
自分の命を天秤にかけ。
気楽になれるほど。
琴誇達を取り囲む状況は、甘くないハズなのだ。
そう考える事が、おかしいと言われる事。
疑心暗鬼は止まらず。
でも、それは、おかしいと繰り返し。
頭の中で。
答えを導き出す方程式は、結果を導き出せず。
途中計算を繰り返しては。
一番最初の「そう思えることが、おかしい」を、証明してしまう。
もう、一度繰り返しても。
何度、繰り返しても。
一周して、なんの答えも出せないまま。
話の落としどころが見えないまま。
どこまでも、ループし続ける。
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