この剣は無敵の剣だ 2
浮かんでは消え、また、違うモノが浮かび上がる。
温まる映像だけを願いながら。
浮かび上がる映像を、のぞき込めば、また、違う映像。
「所詮、繰り返したところで、たかが、知れている。
人の命が尊いだと? 馬車にひかれ、死んだ家畜と、何が違うと言うのだ。
命など尊くなどない。
いつだって、無慈悲に消費される、だけの物だ」
そうではない、と、いうのが、普通なのだろう。
だが、映像の自分は、ただ。
黙って、その人物の眼前に、血まみれの剣の先を向け。
ただ一言「…そうか」と、呟くだけだ。
「戦場をかける、小さな戦略兵器、それが、お前だ」
不意にかけられた言葉に、自分は、ひどく気分が、落ち込んでいた。
お前は、それだけ強いと、言われただけだ。
なのに、心の強さを望んでしまっている自分に、奥歯を、かみしめていた。
「武器が、どれだけの意味を、お前の前で持つのか、俺は知りたい」
「何を求める? 剣を捨てられる未来? 冗談だろう?」
望み続けているのは、いつだって平穏だった。
いくらでも口にされる、普通だった。
だが、心は、いつでも、理解しているのだ。
そんなモノは、ありえないと。
どのように努力しても。
望むモノから、壊れていくと。
望まないものだけが、身を塗り固め。
自分を作り上げていく。
誰もが、うらやむモノは。
自分が、最も求めていない、最低だった。
最低を受け入れて、さえ、しまえば。
最高だと、さえ、思えてしまえば。
そのまま、幸せに、死んでいけるというのに。
そんなものを。
何一つ、望んでいない自分が。
誰よりも、この世界を、黒く染めていく。
何かが起こるたび。
墨汁を筆に流しかけ、紙に、たたきつけるように。
白い紙は真っ黒に染まり。
わずかに残った白い部分に、希望と、願いを、込め続けるのだ。
これだけ黒くても、白があるのだから、良しとしよう。
百は唱え。
気づけば、そう思っている自分に、手が震えていた。
向かうことが正しいと、誰もが、そう言っていたが。
向かい合った結果は、いつだって同じだった。
赤だ。
独特の匂いが、鼻の奥に、いつまでも、こびりつく。
ゆらりと、周りを見渡せば。
赤から茶色く染まり、夜の明かりが、黒く染めていく。
立ち去れば。
たくましい野生動物や虫が。
きれいに、痕跡を掃除していた。
骨すら残らない。
それが嫌だと、逃げ続けた。
逃げ続けたかったのに。
逃げなくても良いか、と。
勘違いを、起こしてしまった。
やっと温まるハズだった心は。
希望を大きく持ってしまった分だけ、下に向かい。
想像を、簡単に超える最悪を見せつける。
泣いて、叫んで、抵抗して、許しを求めて。
神は、ドコにもおらず、手を差し伸べる人も、おらず。
最愛だったハズの人すら。
自分の右手が握る剣が、心臓ごと串刺しにした。
目が離せない光景とは。
良いモノばかりを、指すモノではない。
信じられない光景、想像を逸脱した悲劇。
まじまじと、見つめ、立ち尽くし。
頭が真っ白になり、なにも考えていない時間。
自分の意志とは、関係なく。
自分の体が、相手を串刺しにした。
バカみたいな力で、串で打ち付けた肉を、遠心力で放り出す。
宙に大きく広がる体。
綺麗に、なびく髪。
目が離せなかった。
目を背けても、おかしくないのに、ただ、見入っていた。
すべてが、終わるまで。
ドシャリと、落ちた体に駆け寄れば。
目すら閉じず。
不自然なまま、時間の止まった彼女を見て。
ようやく、自分が、何をしたかを理解した。
だから、逃げ続けた。
また逃げ続け、また、立ち止まり。
赤い大地を作り上げては、逃げ続け。
そして、やっと命の使い方を得られた時に、心に広がったのは、ただの安堵感だけだ。
だが、それはいつまでたってもやってこなかった。
人一人が、自分一人が、戦場という場所で、数千、いく万の相手に、完勝し続けてしまった。
誤算だった。
英雄と呼ばれる力は、ただ、人の範疇を超えた化け物が、持たされてしまっただけだと言うのに。
力だけじゃなく、運命すら結託して人一人を、この自分一人を殺さないように。
早く、いなくなってしまいたい心を嘲笑うかのように。
負けることなく、完勝し続ける。
疲れても、嫌気がさしても、ただ安堵を求めて、突き進み。
予想外の角度から、フッと沸いた安堵以上の温かさに、心奪われた。
それでも、串刺しにした人の光景が、脳裏から離れない。
とことん、信用できないのだ。
自分を含めた全てが、皆が、こぞって口にする結果にはならないと、繰り返し仕付けられた子供のように。
自分に限っては、良いことになるハズがないと。
よい結果なんて、雲の上の存在だと。
だから、体がどんなに悲鳴を上げていようと。
今すぐに寝なければ、倒れてしまうとしても。
この夢の自分は、広い大地を駆け抜けた。
ただ、一人で。
孤独も、孤高も独り占めにして。
人が周りにいようと、彼は、一人だ。
いつでもどこでも、人とは違う時間を生きているかのように。
負けるハズがないのだから。
死ぬハズもないのだから。
何をしても、ダメなのだから。
救われることは、ないのだから。
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