鉄鋼街ドラゴンスキン 6
「…うん。やっぱり、そういうことだよ、ガルフさん」
「…これは」
「気づけないですよねぇ~。良かったぁ~、ドラゴンスキンに来て」
「なんで、私が話してるのに、私だけ、蚊帳の外なの?」
「ん? もう、分かったから気にしないで。
それより、目の前の、おじちゃんを、納得できないから、先を説明してよ」
「え? あっ、うん。証が、ないとダメなのよ」
アリサは、不満を隠さず、先を話し始める。
ドラゴンスキンに、資格と管理方法が、あっても。
証明するための証を、紙で、肌身離さず持ち歩くわけにもいかない。
それこそ不正が、横行する。
そこで、一つの制度と、魔法が絡んでくるわけだ。
資格者たちは、国家魔法士に、すぐ人に見せられる体の部位に、魔法紋が授与される。
魔法紋とは、各個人の家紋を、浮かび上がらせ。
光る色で資格を、証明するモノらしい。
誰でも、簡易に確認することができ。
細かい情報を見るには、しかるべき方法が必要になる。
ただの証としてではなく。
付加価値として、ファミリーネームを、証明する物とすることで。
簡単に、手放せるモノでは、なくなった。
自分の出生も、これで証明できるのだ。
ドラゴンスキンで、魔法紋を持たない者。
それは、浮浪者と同じだ。
魔法紋は、資格を証明する以上の物であり。
名字を持たない者。
持つもの両者に、道徳的方法で、不正を防いでいるという。
アリサが持っている龍紋との違いは。
魔法紋は、決まった手順で、維持しなければ、消えてしまう点だ。
最長でも二ヶ月に一度は、維持する処置を、国家魔法士に、受けなければならない。
「ああ、やっと、全部分かった」
「そう言うことよ。税金は、魔法紋維持の名目で、回収するのよ」
資格喪失、それだけは、回避しなければならない。
消失させた場合、いかなる理由があろうと、学校行き確定だそうだ。
焼失させた悪い子は、再卒業に、シッカリ3年かかる。
援助金も、奨学金もなしに、学費も即金で、笑顔で請求される。
まるで、運転免許取り消しになって、取り直しに行くようだ。
違うのは、時間も、かかる学費も、馬鹿にならない。
二カ月に一回は、長そうで、かなり短く感じるハズだ。
ドラゴンスキンで働く理由が、なくなるまで、職場を離れられないだろう。
囲い込み対策すら万全である。
「あのおじさんが、気負って仕事しなくても。
用が、ある人は、声をかけてくるから、それまで暇なわけだ」
「そういうこと。このまま、素通りできるけど。
住宅地に入れても、商業・工業・採掘区には、入れないわ」
「でさ、ガルフさん」
ガルフは、片目を琴誇に向けることで、返事をかえす。
「僕が考えている通りなら、非常にマズい状況だと思うんだ」
「…白紙と」
「…えっと。そう言うことです。
起きていることとか、
僕たちが、今までしてきたことは、もう仕方ないとしても、です」
「…迷子の子供と、かわらんな」
「二人して、何を通じあってるの?」
「僕たちは、どう考えるべきか。
分からなく、なっちゃったんだよ、アリサ」
「え! そんな、スゴい話、してた?」
「そんな、スゴい発見を、僕達は、しちゃったの」
「どんな発見?」
「強烈な龍信仰、龍が終わらせた、戦いの歴史があるのに。
なんで僕たちは、こんなにも、相手が攻めてくると、思っていたのか。
不思議に、なっちゃったの」
「……。え、今更!?」
「うわぁ~。その顔、殴りたい」
「なんで、今更!?」
「二度も言われると、頬ぐらいなら、はたくから、気を付けてね」
「もう二度、言っちゃったんだけど…」
「ガルフ先生、お願いします」
「なんだか、よく分からないけど、ごめんなさい」
「素直なのは、良いことなんだけど。
…ほんと、どうしようか?」
常識の違いは、相手が、何を考えているのか、思っているのか。
分からなくさせてしまう。
日本でも、職業ごと常識が違うように。
家庭でも、常識と言うヤツは違う。
だからこそ、こぞって世間様は「普通という言葉で、
誰でもない「普通」を、ベースに、物事を考えていくものだ。
この常識の違いは、さじ加減程度だが。
相手の常識を知らなければ、誤解と反感を買ってしまう。
だから、会話で、そのズレを、埋めていくモノなのだが。
今回、琴誇達が体験している「常識の違い」は。
このズレ程度では、済まない。
常識のズレとは、発想が違う、と、言うことだ。
戦うという発想が、そもそも、ないのだ。
龍が、剣を相手に向けさせることを、強制的に終わらせ。
地面に投げ捨てさせた、この世界は。
そして、大昔の大戦とは言え。
表舞台で、大々的に動いている訳ではないにしろ、龍は、現存している。
今まで琴誇と、ガルフが、口にしてきた話の流れ、今の状況の捉え方。
すべてを、根底からひっくり返す「常識」だ。
問題を強制性的に決着させる、暴力という手段は。
人々の問題解決手段として、龍は取り上げたのだ。
北大陸は、知恵と教養の王国なのだから。
この世界の「常識」を、もとに考えるてみれば。
難しく考えていたのが、バカバカしくなるほど。
なんてことない事実が、浮き彫りにされていく。
アリサが逃げ出したからと言って、その場で、捕らえなかったのは。
戦うという発想がなく、見送るしかなかったから。
一番、この大陸では、軽蔑されるべきモノだからなのだろう。
遠征軍が、後ろから来ているのも。
アリサを捕らえるためではなく、便利屋の彼らは。
ただ、業務通りに、帰っているだけ。
先見隊なんて概念が、そもそも、あるのか、分からないのだ。
大人数の世話を、しなければいけないから。
先んじて走り、本隊の大人数が到達する前に、宿泊の段取りをつけたいだけ。
部隊の世話をするために走る部隊を、先見隊と言っていたら、お手上げである。
反龍信仰組織でさえ。
確たる証拠はない。
アリサ以外の常識によって。
存在していないと、話のスジが通らないと言う、決めつけがある。
想像の域を出ない話なのだから。
そんな組織は、存在しないかもしれない。
この世界の常識でいえば、存在するハズがないのだ。
気づいてしまった「常識」が。
高確率で、なにも起こらない可能性を、膨らませていくが。
それでも、安易すぎると思えてしまっている、自分が正しいのか、間違いなのか。
全く判断がつかない。
今、琴誇は、アリサに。
なにも考えず。
ストレートに、目的地を目指していれば、到着、デキたハズだったのに。
と、言われたら、返す言葉もない。
否定できないのだから。
この世界の「常識」を知って。
それでも「なにも起こらない可能性」に、違和感しか感じないのは。
琴誇と、ガルフが、違う世界の人間だから、と、言われてしまえば。
それで、終わりだ。
アリサの、不意に溢した言葉は。
琴誇と、ガルフを、否定するわけでもなく。
形があったハズの思いや、考えを。
蒸気のように、宙に霧散させていく。
物事を考えるための基準を、取り上げるという方法で。
物事を考える基本となる部分を、全否定、されているようなモノだ。
ドラゴンスキンまで、たどり着いた、ココにきて。
あと、レーレシアを通過すれば。
ブルーキングに、到着できるという所まで、来ていると言うのに。
致命的。
そう思うことすら、この世界の常識を、知らないから、なのか。
だが…。
強い疑念だけが、車内に漂った。
「えっと、つまり。琴誇。」
「何ですか、アリサさん?」
「胸ぐら、捕まれ損って事?」
考えもしなかった角度からの言葉に。
琴誇の口は、半開きのまま、固まった。
「ヤベェッス、アリサさん。マジ、パネェッス!」
やたら楽しそうな、ナビィの眼前で。
琴誇の迷った視線は、ガルフを写し。
片目が珍しく開かれた、ガルフの口から音が出る。
「…すまない」
「え? ガルフさん、マジで?」
目を閉じるガルフを見て、琴誇は。
ハンドルに、頭を、こすりつけるのだった。
不意に鳴った、クラクションの音に、驚いているアリサを無視して。
「面白い!」「続きを読みたい!」など。
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