鉄鋼街ドラゴンスキン 3
こうして、誰の制約も受けない金山は、ただ、ただ、荒れ狂っていく。
村ですらないのだ、食料などの納税義務がない。
だが、いつまでも、続く訳もない。
彼らは、荒くれもの過ぎたのだ。
なにげない、治安調査という名目の、クレーム処理。
ようやく南の軍隊が、クレーターに顔を出したとき、絶句した。
贅沢と、形のない利権で、デキ上がってしまった立場に、踏み抜かれる労働者。
踏み抜かれている労働者の給料でさえ。
当時、まともに、労働をしていたモノとの差は、四倍以上。
そう、すべては。
金山が、もたらした妥協と、打算。
カネが作り出した。
究極の資本主義たる、究極の合理性が、ソコにあった。
ブラックだとか、ホワイトだとか。
良い、悪いの話ではない。
誰もが。
最終的には、納得できるだけのものが、ソコにはあり。
どう見ても、悪環境だというのに。
間違いを、許容できてしまい。
許容しているから、得られる美徳があった。
間違いを、正義の名のもとに、さばいてしまったら。
明日から、野菜のかけらしか口にできない、明日が来る。
反抗は、するだろう。
だが、反抗でしかない。
グチと、何一つ変わらないのだ。
酒一つで、流れて消えていく。
そして、また、一つの歯車として、回り続けていく。
狂気に取りつかれている、と、すら見える集団に。
軍は、なにを、どうしたら良いか。
分からなくなってしまったのだ。
道徳的な問題は、いくらでもあった。
一つを問題としてあげれば、キリがなく。
軍として、何か一つでも、手を出せば。
歯車が狂い、ここで働くすべての人の、生活を奪うどころか。
レーレシアの資金源を。
そして、鉄鋼資源が支えているすべてが、霧のように消える。
見ただけで、理解できてしまうほど。
争いすら、争いとしないまま。
崩壊せず、突き進んでいくスラム街は、異様な魅力感を放っていたのだ。
知恵と教養を謳う、北大陸に。
まったく、正反対の社会が生まれたのだ。
全てを、否定しているようにすら、見えただろう。
ほどなくして、軍は、レーレシアに帰還し。
ようやく、当時の南の管理者は。
クレーターで起こっている異常に、気づくことになる。
金属に関する事業を、広げてもしょうがない。
と、言う思い込みが。
ゆっくりと、規模が大きくなっていた、鉱石買い取り窓口に、活力を与えず。
散らかった報告書が、。
南の管理者に、スラム街の存在を、気付かせるのを遅らせた。
円周率を、千桁並べ。
一つ間違っていると気づくのに、どれだけの時間が、かかるだろう。
レーレシアを含む、北大陸の鉱石資源のほとんどを。
このクレーターが、賄っていたという事実だったとしても。
事の重大さに、ようやく気づいた南の管理者は。
合理性でデキ上がったクレーター周辺を、「ドラゴンスキン」と銘打ち。
本格的に、介入を開始する。
王国制度の、大前提。
土地の所有権は、すべて、王様のモノ。
国という組織が、住民に貸し与えているに過ぎない。
だから、国土は、国土たりえるのだ。
スラムにあった、形のない利権は、どれだけ手を尽くしても。
霧散していくしかない。
鉱石買い取り窓口。
税金で賄っていた職人・工房。
その全てを、スラム街の近くに、移設。
税金を食い荒らしていた集団と施設。
永遠に、続くかに思われた赤字をすべて。
ドラゴンスキンの産業が、かき消した。
北大陸の財政の一つとして、組み込まれていったのだ。
ドラゴンスキンは、統治のメスによって。
国営企業によって、牛耳られていく。
一つの町として、開拓者すら送り込み。
住宅・畑・牧場・水源確保を、急ピッチで、国家レベルで介入されては。
労働者・ならずものがいくら暴力的だと言っても、勝ち目はない。
誰が見ても、疑いようのない、正義の機関に、たてつき。
まともで、いられるわけが、ないのだから。
不自然なまでに早い開拓スピード。
資材の投入に。
当時を知る者たちは、眉をひそめたが。
税金を一切、投入することなく成長を続けた。
お金をかけた分、すぐに倍以上にして返す環境。
まるで油田のようだ。
そして、これが決め手になった。
ドラゴンスキンに、一枚の、正式な書面を、突き立てたのである。
クレーターは、北大陸ブルーキング王もと。
管理・所有していたモノだという書面である。
大戦時、乱立する国は、様々な場所にデキては、滅んでいた。
四竜により。
突然、終わった大戦で宙に浮いた支配権は。
統一された、東西南北大陸に、作られた国家が、所有するモノになった。
ドコが、とかではなく。
北大陸全土が、ブルーキング王国のモノだ。
住んでいる人々が、利用することを、許可しているだけであり。
最終的な権利は、王国にある。
どんなに権利を主張しようとも。
王国が顔を見せ、命令一つだせば。
命をかけて守っても、犬死だ。
明け渡さなければならない。
そう、普通なら波乱しか生まず。
反感しか買わない、強制力が高すぎる書面が。
ドラゴンスキンに、突き立てられたのだ。
そして、金だけを追い求めた労働者は。
王国と、話し合いを、しているわけもなく。
言うことが聞けないなら、出て行けと、明言されたのである。
こうして、スラム街は、強制的に、解体されることになる。
それが、暴力的であっても。
最悪、命の有無も、容赦せず。
異例中の異例だ。
それだけ、北大陸の有権者は。
事態を深刻に、受け止めた、と、いうことである。
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