…頭が、よいのだろう? 6
結局、辞典は、知識しか提供できない。
そして、辞典は使う人間がいなければ、本棚で埃をかぶるだけ。
辞典が、自分自身に載っている文字を正しく理解するには。
辞典に、使用法を説明する人が必要だ。
学校の授業は、何の役に立つのか。
その答えがココにある。
今回の話の根底は、ソコにあるのだ。
すべて、辞典一人で、できたなら。
今のようには、なっていない。
テキトーに。
行き当たりばったりに。
進んできたように思える、数日。
各自が、必要な役割を、無意識にやっていたからこそ。
うまく行っていた、だけだ。
だから。
ガルフは、たった一言を、繰り返し、アリサに訴えているのだ。
「…このままでは、皆、死ぬ」
「どうにかしないと」
「…考えろ、とは、言っていない。
…今更、無駄だ。諦めろ。
…今すべきは」
ガルフの静かに上がる右腕が、正面の座席を指差し。
腕を組み目をつぶる姿に、アリサは絶望すら覚え。
「え、寝ちゃうの!?
一緒に琴誇を、たち直させるとか!
そう言う、流れじゃないの!?」
「…俺に、できるのは。…戦うことだけだ」
「遠回しに、めんどくさいって、言ってるわよね? ガルフさん。ちょ、起きて!」
ガルフは、片目でアリサを、にらみ付ける。
「そ、そんな!?」
「…役立たずが、いなければ。…何の役に立たない、お前が悪い」
「……。ナビィちゃん、私、どうすれば良い?」
ナビィは、優しい笑顔で、アリサに語る。
「オメェ、いい加減、自分の考えで、何かしろや!」
アリサの笑顔が凍りつき、小さく「はい」と車内に、こだまする。
琴誇から逃げるように、右へ、そらしたアリサの視界に、ガルフが写り。
迷うような瞳が、小さく、ハッキリとした違和感を抱き。
ガルフを、もう一度見ると、違和感の正体に気づいた。
ガルフの、閉じているハズの左目が、開かれている。
何を見ている訳でもない、金色の瞳は。
鮮明に、何かを写しているように、動かない。
ガルフの下に垂れた頭が、ゆっくり持ち上がり。
薄く開かれた、まぶたが、さらに瞳を覆い隠す。
ただ、それだけ。
ただ静かに。
ただ少しの動きが、アリサに、疑問を投げ掛けるのだ。
後ろの座席に乗ってから、身じろぎ一つなく。
用がなければ、ほとんど話もしない、ガルフの変化が。
疑問は、問い掛けだ。
分からないのであれば、考えれば良い。
アリサにだけ、許された反則技は、疑問に答えを与え。
一つの可能性を、浮き彫りにしていった。
アリサが我慢できず、口を開こうとしたときだ。
ガルフの右手は、抱えていた剣のサヤを握る。
もう、聞く必要などなく。
アリサを確信させるには、これで十分だ。
「…しっかりと泣く時間ぐらいは、な」
「え?」
「…泣きたいときに泣けるのは、これ以上ない贅沢だ」
「何を言ってるの?」
「…こうは、したくなかったと、言っている」
ガルフは、車外に立ち、迷いなく運転席のドアを開け放つ。
黒い長袖から見えた。
想像以上に細い手首から伸びる、女性のようにキレイな形の手が。
琴誇の首根っこを、つかんだ。
ガルフは、何をしたいかわからないアリサの視界で。
大きな人形をつかみ出すように、軽々と、琴誇を車外へ、放り投げ。
琴誇は受け身なく、地面に放り出さる。
「いってぇ…」
琴誇は、周りを確かめるように起き上がり。
近づくガルフへ、文句の一つも、言おうとしたのだろう。
だが、琴誇の口は、不自然に半開きになり、驚きが顔に広がった。
ガルフは何も言わず、琴誇の胸ぐらをつかみ、持ち上げる。
宙に足が浮き、体重が、捕まれた胸ぐらに重くのしかかる。
非常識と、常識はずれ。
二つが、そろった映像を、見せられているかのような光景。
重を感じさせないガルフは。
手の中で苦しむ琴誇すら気にせず、車に向かい歩きだす。
アリサは、ワケもわからず震えだす両手を、胸の前で強く握り。
ガルフは、後部座席に琴誇を投げ込み、琴誇を座席に押し付け。
「…言葉は、わかるな?」
翻訳されたガルフの荒くもない単調で、息を吐き出すような声は。
琴誇の頭を、白く染め上げた。
「…選べ。死ぬか、生きるか」
琴誇の眼前で、大きく広がるガルフの顔。
薄く開かれた目元に、少しの、けわしさを残し。
奥で輝く、宝石のような茶色と黒の瞳は、まっすぐ琴誇の目を貫く。
「…なに、するんだよ」
「…もう、ふざけている時間はない」
「ほっといてくれよぉ…」
「…足りないのか?」
「なにがだよ」
返事のように、胸を、つかむような感情がわき上がり。
琴誇の体は震え始める。
恐怖という暴力だ。
両目を開くガルフを、目にいれるだけでも、大変なことになるのに。
直接、見せつけられる、金色の瞳。
琴誇の口から「かっ、はっ」と、喉から空気が抜け。
マイナスへ倒れこんでいく心を。
物理的な苦しみと、圧倒的な、生存本能からの警告が、すべて塗り替えていく。
落ち込んでいた心は。
繰り返される「足りないか?」と、言う言葉の数だけ。
何度も、叩きつけられる恐怖に。
有無もなく、次を求める絶対上位者に。
思考だけではなく、心すら白く染められていく。
「こ、心が壊れる」
「…そう言えるうちが、花だ」
「……」
「…答えろ。…後ろも、先も敵がいる。…お前は、どうする?」
「ドラゴンスキンに、いるって言うのか?」
「…そうだ」
「もう、追い付かれるって言うのか?」
「…そうだ」
「なら、ドラゴンスキンを、通らなければ良い」
ガルフは、琴誇の弱りきった顔を見て、一つ頷き。
「…良い答えだ」
と、琴誇を解放した。
「面白い!」「続きを読みたい!」など。
少しでも、思った方は。
ぜひ、ブックマーク、いいね よろしくお願いします。
それだけで、皆様が思われている以上に
モチベーションが上がります。
お読みの上で、何かお気づきの点や、ご意見ございましたら遠慮なく
ツイッター @chicken_siguma
URL twitter/chicken_siguma にて、DM または
chickenσ 公式ライン @729qbrtb
QRコード http://lin.ee/iH8IzAx にて 承っておりますので。
今後とも、長いお付き合いよろしくお願い致します。




