10話 …頭が良いのだろう? 1
作られたラブストーリーには、障害が付き物だ。
障害があるからこそ、この思いは、大切なモノだと自覚する。
問題が発生するから。
手に入らないから。
なおさら、欲しいと思い「恋」は、燃え上がる。
互いに欲しいと思うから、二人だけの思い出を共有できる。
そして、それは、無意識を結びつける深い絆になる。
使いならされた常とう句は、大事な段階を語らない。
ハッピーエンドが、約束された物語。
ならば、叶わなかった悲恋は。
どのような結末が、想像できるだろう。
届かない思い、疎遠、努力が報われず、崩れ去っていく主人公。
どれをとっても、感情移入が、できていれば、いるほど。
読み終えたあとに、心に広がるモノはなんだろう。
かなって欲しい、と言う思いは。
当人も、それを見ている読者のような、第三者も同じだろう。
ハッピーエンドよりも、悲恋の方が、現実には、ありふれているのだから。
失敗。
ありふれすぎた、失敗。
泣きわめき、立ち上がれない失敗こそ珍しいが。
それでも、立ち直り、嫌でも次を目指そうとするものだ。
なぜなら、そうせざる得ないと、分かっているから。
深い愛情と、深い後悔は、似ている所がある。
全く別で、逆の感情なのは間違いない。
だが、見方を変えれば、ひどく似ている。
どちらも、いつまでも忘れられない。
上手くいくことを、願い続けている。
いつまでも、一緒にいたいと願い続ける。
だからこそ。
次へ、前へ、進むことができるのだろう。
これだけの思いを、しているのだからと。
では、終わってしまった、ラブストーリーは。
どう、受けとるべきなのだろう。
自分が、途中で死んでしまった場合、どうしたら良いのだろう。
劇の途中で突然、暗転し。
幕が下ろされ、「もう終わりだから、帰れ」と、言われているようなモノだ。
座席に座る観客は、文句しか口にしない。
琴誇が口にする文句は、向ける相手が、いないのだから。
自分に向けるしかないのだ。
誰かのせいだとか。
あのとき、こうしていればだとか。
運が悪かったとか。
強烈に終わらせた原因が、言い訳を、キレイに切り落としていく。
死んでしまった、お前が悪い。
これ以上なく、終わりとして究極だ。
理由がシンプルすぎて。
必死に、言葉をひねり出そうと、開いた口が塞がらない。
いつまでも沸き上がる、いくつもの後悔が。
心に向かい、軍隊のように、とめどなく槍を突き刺し続ける。
おえつと、タガが飛んでしまった感情を、止めるスベを考えようにも。
熱い体と、ボヤけた視界が、邪魔を、し続ける。
なにも止められず、いくつもの爆弾が、爆発し続けるように涙を押し流させ。
また、目の前に、歴然と突きつけられる「死」が、思考を真っ白に染め上げる。
どうすれば良かったのか、考えることをもう、あきらめ。
そんなことを考えても、なにも変わらない後悔だけが、いつまでも心に刻まれる。
何度も、積み木を組み立て。
元通りにしようと頑張ったところで。
背後のゲームマスターが、容赦なく、ハンマーで、破壊するというループ。
「なんで、死んじゃったんだよ。なんで、なんで…」
何度も、繰り返される「なんで」が。
理由が分かりすぎている「なんで」一言、一言に。
自分が、なじられ続ける。
と、すら気づかずに。
ただ、ハンドルに、もたれかかり、震えるしかない。
「…雇い主。聞きたいことがある」
まだ聞きなれない声が。
琴誇の声だけだった、車内に混じる。
あまりにも空気を読まないタイミングで。
真横から聞こえてきた声に、アリサは、不思議そうに、ガルフを見た。
いつの間に目を覚ましたのか。
そもそも、寝ていなかったのか。
ガルフは、少しアリサに顔を傾け、片方しか見えない瞳を向けていた。
「え、なに? ガルフ?」
「…今の話は本当か?」
「琴誇を見て、わからないの?」
少し怪訝そうに、歪んだアリサの表情は。
どこまでも表情が動かない、ガルフの口元に否定される。
「…違う。大陸の昔話の方だ」
「え? そうよ? 誰もが知っている歴史よ。
今は、それどころじゃ、ないでしょ、ガルフ」
「…そうか。なら、本当に、それどころではない」
「そう、言ってるじゃない」
「…そうではない。想像道理なら、雇い主」
一つ、間をおかれた言葉に、イライラし始めたアリサは。
その口を閉じさせようとしたとき。
「…本当に、雇い主を追いかけているのは。他の管理者だけか?」
アリサの半開きになった口は閉じ。
言われていることを理解した頭が、視線を下に向けさせる。
「…この世界の歴史と言ったな。
ならば、今、雇い主がこうして、俺の目の前にいることは、かんばしくない」
「どう言うこと?」
「…頭が良いのだろう?」
「あんた、私をからかってるの?」
「…答えろ。この乗り物を、一撃で破壊する方法はあるな?」
もう、問いかけですらない。
すでに聞いていることが、聞く必要もないぐらい、当然のこと。
だが、一応、聞いておく程度の質問だ。
そして、頭をめぐらせたアリサは、相手の本意が分からないまま、返事する。
「あるわ」
「…思い付く限りで良い。いくつある?」
「面白い!」「続きを読みたい!」など。
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