恋って、どうやって始まるの? 4
「正確には、雲隠れよ。生死すら、定かじゃないわ。
それで、家に残された私が、10歳で、南の管理者に、なっちゃったわけ」
「ちょっと待って、今、いくつ?」
「十九だけど」
「え、本当に!? タメなの!」
「タメ?」
「同い年って、ことだよ」
「そうだったの! もっと、年上だと思ってたわ」
「僕のドコを見て、そんなふうに、思ったんだよ」
「私より、モノを知ってるから。見た目よりは、年取ってるのかな、って」
「今すぐに、そこの認識を改めようか」
「うん、改めるわ」
「なに、そんなに、嬉しそうに言うんだよ」
「いえ、別に」
あとは、簡単な話だった。
両親が雲隠れしたのを知ったアリサは。
その翌日に青龍に呼ばれ。
守護者として、生きていくことになる。
この世界は、四龍によって繁栄したと言って良い。
強烈な、龍信仰なしでは、今の世界は、なかっただろう。
四龍は、その絶対な力を見せつけ。
争いを根底から排除し、教育に至るまで、戦後復興を担ったのだから、当然と言えば当然だ。
その信仰を作った根底にあるのは。
絶対的な力への恐怖だったのも、間違いではない。
だからこそ、青龍の呼び出しという出来事に関し。
お家騒動が関与する隙間は、なく。
アリサが守護者となる。
この世界における、龍とは。
神の次に、ひれ伏すべき対象であり。
敵に、まわしてはならない、目に見える抑止力だ。
龍の存在は、それだけ、この世界に住んでいる「人間」と呼ばれる全てにとって。
絶対的な存在なのだと、アリサの言葉の節々から、琴誇は感じた。
「それで、私は、苦労したわよぉ~。
知恵を、いくらでも引き出せることが。
こんなにも、私を変えてしまうとは、思わなかったわ」
アリサが言うには。
元々、「力」を使ったあとの状態。
甘えん坊アリサが、そのまま幼い頃の自分なのだという。
普通、勉強という言葉から何を想像するだろう。
机に向かって本を広げ、必死に、ノートを書いていくこと、だろうか。
だが、それでは、欲しいと思った知識しか得られず。
自分の理解力をこえているとき、理解できなくなる。
だからこそ、全ての勉学は。
ステップアップ方式で、段々と、難しくなっていくように、なっている。
ステップアップ方式は、階段のようなモノだ。
一段でも飛ばせば、理解不能に陥ってしまう。
それは、大概の場合。
分からないことを、放置した個人の問題なのだが。
南の管理者様に、そんな言い訳が、通じるハズもない。
ノーマンとのハーフであるアリサに。
ちょうど良い、教育者などいるハズもなく。
小さなアリサを使って、南を管理しようとする、やからも多かった。
教育とは、一歩間違えば、洗脳になる。
行きすぎた宗教と、変わらないモノへと腐っていく。
十歳の少女が、どのようにして、南の管理者に、なり得たか。
それは、反則技に近い、知恵を得る行為に他ならない。
アナログなインターネットである、龍の知恵だ。
龍の知恵による学習は、体験学習だという。
体験学習が終わると。
頭に、体験談こみの知恵が違和感なく、身に付いているのだそうだ。
気がつけば、少なくない時間が過ぎており。
刷り込まれている教養に、最初は、自分自身で驚いたと言う。
簡易で、必要だと思わない知識すら、刷り込まれていき。
段々、周りの大人が醜悪に見え始めた暁には。
家の人間との関係を打ちきり、龍の知恵による学習に、のめり込んだ。
両親が、いなくなったのだから。
自分が、何とかしなければという、淡い義務感も後押し、したのだろう。
そして、アリサは。
半年もしないうちに、お家を、まとめることに成功する。
「まず、家をまとめるための知識を、優先して学んだわ。
気づいたら、周りの大人が、何も言えないだけの口と。
知識が、スラスラと、口から出てきたのよ」
「かわいくない、子供だねぇ~」
「本当に、その通りだったのよ。だからこそ、知恵の力の本質が、見えてきたわ」
龍の知恵から、教養を得る行為。
龍の知恵とは、今までの守護者と、龍の記憶の集合体だ。
テレビのように、映像だけを見せられるのではなく。
ソコにあった感情すら、一緒に記憶される。
そして、理解できないと言う。
誰もが一度は、ブチ当たるだろう、学問の壁を、なくしてしまうのだ。
体感してしまえば、考える必要もないのだから。
たとえば、ステップアップの学問で。
いきなり3を、言われても1・2を理解していなければ。
3が、理解できないという壁を、超越させてしまう。
なぜなら、3を求めると。
1・2が、一緒に刷り込まれているのだから。
努力など必要なく、ただ、知恵を、のぞき見るだけで。
だから、年齢相応の思考が殺されていった。
年齢相応に、誰もが通る道を。
自分で通過せず、通過させられたのだ。
同世代との感覚がズレていき。
「大人なら」理解できる話だったものが。
「年配の人なら」に、すりかわり。
そして、いきすぎた知識は、アリサを、孤独へ連れ立てる。
皆、どうして、こんなにも、バカなのだろうかと。
どうして、そんな愚行を、簡単に、できてしまうのだろうかと。
皆が言う、正解は。
この世のルールかのように、振りかざす正論は。
常に変わるのだから。
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