神 後藤 博文 2
正解のない選択肢を、選ばされるぐらいなら。
ある程度、代案を必死に、ひねるべきだったという後悔は。
この先、いつまでも、ぬぐえないだろう。
そして、ここまで恥を安売りして、発動するのは。
大したことのない救済策なのだ。
周りの時間が止まり、地面から生えるように、一人の人物が現れるだけ。
背の小さく丸めた、杖を突いた初老のじいさんが、パンフレットを琴誇に渡し。
何を聞いても、何度、説明を求めても。
「なにに、するかえ?」
しか答えない。
まごうことなき、レトロゲームの村人スペックキャラを演じている。
いらない仕事に徹している、目の前のおじいさんに。
琴誇が、深いため息を吐き出すのも、しかたない。
「神」が、とりあえず窓口を用意しておいた感が、ハンパない。
やっつけ仕事過ぎて、琴誇が、何も言えなくなるのも、当然だろう。
救済策とは。
たのしいタクシー計画と、コンドームのようなキャッチフレーズを打たれた。
パンフレットに書かれた物を、購入できる能力である。
購入なので、もちろん、有料だ。
ちなみに、欲しいものを伝え。
お金を渡さないと、先に進まない地団駄を。
レトロゲームジジイに、踏み続けなければ、いけないのは。
この世界に来る前に、確認済みである。
琴誇は、ようやく一分が過ぎたと。
車外を指さして固まる、アリサの姿を見て立ち上がる。
足元の雑草は、風にしなだれたまま固まり。
肌で感じていた、そよ風も消え。
ぬるりと、光が地面から生えるように現れた人物に。
琴誇は、眉間にしわを寄せた。
「チュートリアルは、十分か?」
言葉に似つかわしくない声が、広い野原に消えていく。
「本当に、さぁ?
本当に、ふざけてるよねぇ? そんなに暇だったの? 後藤さん」
「後藤じゃない! 私は、神である!」
目の前には、ふわりとしたブロンドのセミロングヘアーに。
幼さを残した、優しい表情を張り付けた女性。
琴誇と変わらない身長、考え抜かれたスタイルの体を。
キャミソールのように露出度が高く、ミニスカートより丈の短いドレスが包む。
肌の色が透けるほど薄く。
白い羽織の背中には。
ピンクの糸で、いびつに「神」と自ら縫い付けた、アップリケが輝く。
作為的と思える、かわいいアニメ声を、その喉から響かせる。
琴誇の、目の前に立つ彼女は、後藤 博文。
今まで何度も、文字として「神」と言われた、ソノ人。
自称・神様である。
「後藤さん、なんで出てきたの?
暇、なのは、いつもの事だろうから、本当に理由が分らないんだけど?
寧ろ、あなたが押しつけてくれた、魔術という名の羞恥プレイから。
なんで、出てきたの?」
「何でって…。そりゃオマエ!
神は、ときどき、かいま見せる奇跡が大事だって、本にかいてあったからさぁ~。
やってみようかなぁ~、と」
「今なの? それ、今、必要だったの?
奇跡が微妙すぎて、やっている行動の趣旨が、出オチにしか思えないよ!?
初めて、この魔術を使ったときの、僕の後悔を返してよ!」
「俺を敬えよぉ!」
「今回の登場理由は、かまってちゃん、な、だけなんだ」
「なんか、チラっと見たらなんか、追い詰められてる、ようだったからさぁ~」
「もっと、四十代まで生きた経験を感じるセリフ、言えないの?」
「39年ですぅ! 実際には、もっとだと思うけど」
「39も40も変わらないよ!?
女性みたいな、数字のマジックに、しがみつかないでくれますか?」
この二人の会話を、いったい、どれだけの人が理解できるだろう。
通りすがりの方には。
説明しなければ、この二人のやりとりは、誤解しか生まないだろう。
説明しても、かなり怪しいものだ。
何を話しているか、分からなくて良い。
これだけ、頭に入れて、この会話を聞き流してくれ、と言うしかない。
後藤は、元、男性なのですと。
ちなみに、今は。
生物学的に、間違いなく女性だけれど、と。
説明文を並べ。
これだけ、相手を混乱に突き落とす存在も、そうはいない。
なら、いっそのこと。
説明する手間を省いて、自分の身を切る方が、マシなのかもしれないが。
身を切って納得できるかどうかは、別の話だろう。
「俺、女なんだから、許してよ」
「自分の体で楽しんじゃう、歪んだ性癖の持ち主が。
何を言っても、説得力、ないからね」
「俺にも、そういう時代がありました。
下がついてないから、奇妙な感覚を味わうことになりました。うんうん」
「うんうん、じゃないよ。後藤さんは、いちいち、生々しいんだよ…」
「いやぁ、俺は嬉しいんだよ?」
「何がですか?」
「女の体を持つ俺が。
好奇心と、情欲と、賢者モードをくぐり抜けた、結果報告ができるんだから」
「なんで、このかまってちゃんは。
そういう方向に、僕を巻き込もうとするのかなぁ…」
「悪いねぇ~。ほら、胸触って良いから!
Fカップで形のよい美乳、そして、手触りにもこだわった、コノお胸を!」
琴誇に浮かぶ感情を、深く説明するのは難しい。
バンとつき出された胸は、間違いなく女性の胸で。
そして、本人が言う通りのモノではある。
「面白い!」「続きを読みたい!」など。
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異世界完全遭難のネリナル 白の章 完結済み
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