ハメました 6
女同士で結託するなら、男同士で結託してしまえば良い。
そんな、安易な考えが、女二人の視線をキツくさせ。
琴誇の双肩にかかる荷物の重みを、より一層、重くさせる。
冗談にもならない真顔で「そう」と。
一言だけ残された言葉と沈黙が。
琴誇の全身を、針で、串刺しにしていくようだ。
こうして琴誇は。
心に、深いトラウマを刻んでいくドライブを、強行することになるのである。
琴誇は、完全に引き際を失い。
背後に進めば死んでしまう、濁流の川を、自ら作り出してしまった。
こんな背水の陣を、誰が望んだのか。
いつしか、比喩表現に、とどまっていた、ギャンブル走行は。
一世一代、生きるか死ぬか。
サイコロ任せの、本物のギャンブル走行に、変わっていく。
誰か、この場を正しくおさめる人が、一人でもいれば、変わったのかもしれない。
だが、忘れているかもしれないが、これは、タクシーである。
密室とは、これ以上ないほど、怖くもあり、楽なものだと。
書いている、私が言ったのか。
車内にいる人間だけでおりなす、空気や事件に。
他者が介入できる余地は、ドコにもない。
小さく、三つに分かれた派閥の独裁政治を、何とかできる者はいないのだ。
救い出された車体が、いつまでも発進しないのを見かね、ナビィは口を開く。
「行けば、イイと思いますよ?」
「なんで、僕は…」
「だから、かわいそうだったから、ですって」
「今の僕だって、十分、かわいそうでしょ!」
「世の中っていうモノの中にある、人生っていうのは。
清算するように、できているらしいわよ。琴誇?」
「……」
「ああ。じゃあ、清算しなくちゃ、いけないんですねぇ?」
「コノやろぉおお!」
と、誰でもない、自分に八つ当たりすれば、思わぬところから、声がかかる。
「…障害は、取り除いた」
車内に戻ってきたガルフに、そんなことを言われてしまえば。
琴誇は「はい」と、アクセルを踏むしかない。
車が動かなくなると。
別の恐怖が待ち構えているプレッシャーが、車内居残り組の心に刻まれ。
しまいには、ガルフが口にした一言が、皆にとどめを刺す。
ボソりと、空気を読んでしまった、ガルフが。
知らぬが仏とは、このことかもしれない。
「…次は、うまくやる」
三人の心に「なにを?」という言葉が、踊っている。
この一言が、三人にくさびを打ち付け、さらなる鎖を巻き付けた。
この後の対応という議題を。
女性二人は。
身勝手に琴誇を、真顔だけで見つめ続けるという行動で押し付ける。
言葉以上に、目は語る。
(もう、ハマらなければ、良いんだよ)
こんなにふざけた話が、あるだろうか。
(来たときは、できたじゃない)
琴誇の双肩にかかるプレッシャーを、ご理解、頂けるだろうか。
そして、何よりも。
車内に戻るガルフが、三人を見渡し。
不穏な空気をくみ取り始めたのが、また、重圧感に拍車をかけるのだ。
ハメれば、何してくれやがると言う二人の目線を一身に受け。
黙って出ていくガルフさんという、罰ゲーム。
しかも、連帯責任払いだ。
実害を与えているのは、オマエだと。
全力で責任を押し付ける二人に。
いい加減、うんざりした琴誇は、言ってしまった。
「ガルフさん…。
車をハメた責任を、二人とも、僕一人に、押し付けてくるんですよぉ~」
驚き。
女性二人が、琴誇に示した感情は、それだった。
毎回、すんなり出ていくガルフさんは、車内を見渡し。
取り繕う女二人の顔を見渡して、ボソリとつぶやく。
「…あまり、せめるな。…楽しくないと、いけないそうだ」
ガルフから、こんな言葉が出てくることに、疑問を浮かべた琴誇は。
つい、聞き返してしまった。
「楽しくないといけない、ですか?」
「…ああ。それだけは覚えている」
「そ、そうですか…」
それはつまり。
楽しさから、とんでもなく、かけ離れた場所から、送られてきたということだ。
ガルフが、この世界の人間ではなく。
ほかの世界から連れてこられた人間なら。
この言葉を残した人物に、琴誇とナビィには、心当たりがある。
ナビィを見れば、とても複雑な表情を琴誇にかえし。
琴誇は、その顔を同意と受け取った。
ならば、あとは簡単な話だ。
記憶がないのも、変な力があるのも。
どこまでが、本来の状態だったのか、わからないが。
最初から、記憶喪失だったわけでは、ないだろう。
記憶喪失だけは、この世界に送られてきたときに、与えられたと考えるべきだ。
そうでなければ。
生きるために必要な言葉や習慣、戦い方。
力の使い方などの記憶だけが残された、アニメ・ドラマ、あるあるの。
ご都合主義、記憶喪失が成り立つわけがない。
この世界の神は、大雑把だ。
この世界で楽しく生きるためには。
記憶が邪魔だから、忘れさせてあげたと、平気で言いのけるだろう。
そんな気遣いが、できるのなら。
この世界の言葉ぐらい、理解できるようにする気遣いが、できないものだろうか。
大雑把なのだ。
とにかく、雑なのだ。
それを聞けば、「ああ、忘れてた。あとは、よろピク」と。
言うに決まっている。
連れてきた、までは良いが。
自分の世界の、ドコに送り込むかを考えておらず。
もう、めんどくさいから、琴誇がいる所に、投げ込んだに違いない。
翻訳機で何とかしてくれと、言わんばかりに。
ここまで、すぐに事情が、分かってしまうのも困りものだ。
この事実が、ナビィと琴誇の口に、放送コードを刻み込むのだから。
ますます、めんどくさくなっていく車内に戻るガルフが、ついに。
三人の、異様な姿を見渡すようになった。
事情を察することができないアリサは。
抵抗を、まだ、諦めていないようで。
「ガルフ、その力…」
「アリサ!」
「えっ。だって、琴誇!」
「楽しくないと、いけないんだよ!」
「でも、さぁ!」
「ガルフさんに、失礼を働いたら、本気で、アリサのこと、許さないからね!」
「ぐ、具体的には?」
「体にロープ巻き付けて、この車で引きずり倒すから」
「わ、私。女性なんだけどなぁ?」
「え、ああ。そうだったね」
「え? 私って、そのレベルなの。私、琴誇と付き合えないわ」
「何言ってるの? はなから、望んでないよ?」
「…。ぎゃ、ぎゃくたまよ?」
「なにそれ?」
「……」
そうこうしているうちに、また車がハマり。
静かに出ていくガルフを、三人は見送り、皆の目は、互いに同意する。
この件には、触れないでいこう。
できるだけ、気取られないようにしよう。
たとえ、わざとらしくても。
車内で初めて、できたルールは、各自に、独創的な行動をとらせていく。
怖いのだ。
怖いのに、それを隠さなければいけない。
ガルフを見たら、隠しきれないのだから、目を開けてもいけない。
こうして、三者三様の行動が、コレだ。
黙って目をつぶるアリサ。
神に祈りだすナビィ。
座席で丸くなる琴誇。
車が救い出され、上下に揺れるたび。
目を開けてはいけない使命感が、絶叫マシーンなみの、快感を与えていく。
この絶叫マシーン終了のお知らせは。
静かに開いた、後部座席の音という、何とも間抜けなモノだ。
だが、下手なホラーハウスより怖いのは、おりがみつきである。
三者三様。
深いため息を吐き出す空間を見渡した、ガルフの心境は、いかがなものだろう。
しばらくして、見えた森の出口は、三人には、希望に見えた。
ようやく、開けた野原。
沈まない街道を走り始めるタクシーは。
森で擦り付けた泥を、ボロボロと落としながら走る。
気づけば日は昇りきり、心地よい陽気が、車内に差し込む時間だった。
ただ乗っているだけのアリサが、すぐ寝てしまうほど疲れているのに。
まだ、運転しなければいけない、琴誇にかかっている負担は、どれだけのモノか。
恐らく、ドライバー席に座っているモノにしか、わからないのだろう。
あれだけうるさかった車内は静まり返り、張り詰めていた空気は、どこかに消え。
運転している琴誇以外、まどろみの中、みな、夢心地で。
ナビィすら、舟をこぎだした車内で。
琴誇が、ため息と一緒に吐き出した「疲れた」と、こぼしたのが合図だった。
車内が、無音になった。
ドライバー席にいても、誰の寝息か、よく分かるほど。
心地よく揺らしてくれていた、振動はなくなり。
座席で、ハンドルを握ったまま、琴誇は固まる。
「みんな、起きてください。お知らせがあります」
「…まだ眠いんですけど?」
「何ですかぁ? 琴誇?」
ガルフすら目を開けて注目する中、琴誇は、皆にお知らせした。
「ガスが、おなくなりになりました」
アクセルを踏んでも、ピクリとも反応しない車。
「…また、動かなくなったのか?」
事情を、のみ込めないガルフが。
もう慣れた手つきで、後部座席の扉を開け放つと。
絶妙なタイミングで、三人の声が重なった。
「いや、そうじゃないから、座ってください!」
初めて三人から受ける強い言葉に。
ガルフは、三者三様の顔を見渡してから、一つ頷き、後部座席に座りなおした。
「面白い!」「続きを読みたい!」など。
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異世界完全遭難のネリナル 白の章 完結済み
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