ハメました 5
だが、アリサは、雇い主の手前、体裁を保ちたかった。
「さすが、ガルフ。やるわね」
「…ああ」
アリサは、ガルフが目を閉じるのを確認すると。
震えた声で、琴誇の耳につぶやく。
「ちょっと、漏れちゃった…」
「ちょっと待って。なんで、僕に言うの? そんな報告、いらないんだけど?」
すぐに頬を赤らめる乙女は。
スースーと、口笛を吹いて、誤魔化しているつもりなのだろうが。
なんとも痛々しい、佇まいとしか言いようがない。
ここまで、取り繕い切れていない体裁を。
保つ意味があるのか、疑問なのだが。
意味がないと、アリサ自身も理解している上で。
見せつけられる側の心境も、考えてほしい所である。
アリサの顔を見れば、いじめられ続けた子供のようで。
琴誇は、「大丈夫?」と、言葉を返すことしかできず。
頭をなでて、あやすことしかできない。
顔も見ず、片手運転になっている事すら忘れて。
ナビィは、目の前の存在を理解できず。
神によって作られたと自称する本人も、こう、切り出すしかないようだ。
押し付けられた恐怖で。
体が震えるのを必死に抑えている姿が、はたから見れば。
何とも、かわいらしい。
「ガルフさん、その力は、なんなんですか?」
「…分からない」
「分からないって…」
必死に繰り出した、ナビィお得意の、ズカズカ食い込んでいく言葉すら。
のれんに腕押しで終わる。
ナビィは、真っすぐ、ガルフの目を見て、何かを悟ったように。
「うん。そのうち、分かりますよね」
あらま、素直なセリフ。
なんて、文字にしなければならないほど。
ナビィの口から出てくるには、素直すぎる言葉だった。
この会話の流れで。
ココまでキレイに引き下がる、ナビィさんでは、ないのに。
琴誇が、ナビィを見れば、頭を下げる姿が見え。
バックミラーを見れば、不動のガルフさんが写っていた。
あまり動かないガルフの表情。
感情を読み取りにくいだけに、小さな変化が目立つ。
困ったように、少し動く眉が、ナビィを、凍らせたのだろう。
すぐに終わった会話のあと、ナビィは「私は、ダメでした」と、つぶやいた。
本気モードのガルフさんを、目に入れてからでは、どうしようもないだろう。
ナビィが、アリサを手招きし。
「今回に限っては、シートが汚れても許す」との、寛大なお心に。
琴誇は、運転中、思わず振り返ろうとする、自分を抑え込んだ。
そして、「もう、これ以上、地面にハメるのは勘弁してくれ」という。
二人の願いが、琴誇の背中と、左頰に突き刺さる。
恐怖の余韻で、固くなった琴誇の手は。
押し付けられた責任によって、より、運転を固いモノへ変え。
力みすぎた腕のせいで、ハンドル操作の柔軟さがなくなり。
強弱もない、ベタ踏みのアクセルとなっていき。
どうしても回避したいハズの現実は、当然の結果になっていく。
車が地面にハマるたび。
深く、琴誇の心に、罪悪感が突き刺ささり。
二人の恨めしそうな視線が、さらなるプレッシャーを与えた。
悪循環、コレに極まれり。
負の連鎖だ。
負の連鎖は断ち切りたくても、断ち切ることが難しい。
頑張れば、頑張るほど。
考えれば、考えるほど。
ハマる回数を増やし、恐怖を量産していく。
こうなれば、柔軟な思考と、運転が遠ざかり。
ハマり、動かなくなるたび。
ハンドルに、弱い頭突きをしては、静かに振り返る琴誇に。
黙って、にらみを、きかせる二人。
目は、言葉以上に、モノを語るとは、よく言ったものだ。
二人が何を言いたいのか、手に取るように分かるのだから。
テメェ、やりやがったな、と。
「ここ、アリサが作ったんでしょ!」
「運転してるのは、琴誇よ」
「ですって、琴誇」
「ちょっと待ってよ。僕のせいじゃ、ないからね!」
「そんなこと、言ってないじゃないですか。ねぇ、アリサさん?」
「そうよ。そんなこと、何も言ってないわ。むしろ、大変だなぁ、と」
「でも、言いたいことは、あると?」
嫌みたらしい、二人の白々しい態度に、言葉を返せば。
仮面を張り付けたアリサは、こう切り出すのだ。
「ないわよぉ~、そんなの。強いて言えば、よ。
あくまでも、言葉にすれば、よ?」
「前置きが、もう、ムカつくなぁ…」
「だから、そんなんじゃ、ないってばぁ~。
もっと、ちゃんと道を見て、運転しろとか。
車が動かなくなったら、皆で苦しむんだから、それぐらい理解して運転してとか。
なんで、入って行くときは、避けれたのに。
出るときは、こんなにダメダメなの? とか。
何一つ、思ってないし、琴誇のせいだとか、思ってないから」
「アリサ。ちょっと、一つ良い?」
「なによぉ~?」
「とりあえず、殴って良い?」
「私が勝つけど?」
「……」
改めて、よく考えてみれば。
琴誇が勝てる相手は、この車内に存在しない。
苦し紛れに、琴誇の口から出た言葉が、車内に極寒を生んでいく。
「ガルフさんに、言いつけるからね?」
「面白い!」「続きを読みたい!」など。
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異世界完全遭難のネリナル 白の章 完結済み
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