7話 ハメました 1
夜明けは、どうして来るのだろう。
寝れば、なぜ、明日が来てしまうのだろう。
寝なくても明日は来るが、どうして、こんなに体が痛いのだろう。
なぜ、ガスメーターは、ドンドン下がってくのだろう。
なんで、奥歯を食いしばって、ハンドルを握るのだろう。
アクセルを踏んでいるのに、なんで、こんなにも、進まないのだろう。
「アリサの、ばぁああかぁああ!」
「私のせいなの!?」
「道を作ったのも、走らせてるのも、アリサじゃないか!」
「しょうがないじゃない!」
「自動ドアという名の、手動ドア、開けちゃうぞぉ!」
「ごめんなさい! 本当に許して。落ちるから!」
「なんか、ソレでも、イイ気がしてきたぞぉ!?」
「そうですね。ここで降ろしても、落ちても、同じようなモノですからね」
「味方がいない。ガルフさん、なんか言ってやって!」
自分で雇った剣士に、すがり付く雇用主、それはアリサだった。
ガルフは、薄く目をあけると、また、黙って目を閉じる。
「え。ガルフさん、え!?」
ガルフに、すり寄り。
しまいには、服をつかんで声をかけるも、反応はなかった。
「なに!? この使えない剣士は!?」
「ガルフさんは、なにも悪くないでしょ!」
恐らく、この車内で、最も怒らせてはいけないのは、ガルフだろう。
絵に書いたような黄昏を身にまとう人物を、キレさせて、ただですむハズもない。
本日も、琴誇が運転する車内は騒がしく、イレギュラーが、整列しているようだ。
高反発シートで、一夜を明かした、琴誇一行は、ようやく移動を初め。
賃走ボタンを押して、走り始めた、この車。
「開幕、賃走開始です!」
なんて、ハイテンションのナビィと。
前日と対応が変わらないガルフは、置いておこう。
一番の問題は、ドライバーモチベーションの低さだ。
アリサは、節々が痛いと言い出したが。
二日も、車内泊をかました、琴誇ほどでは、ないだろう。
疲れた体が、全力で、ベッドを求めているなか。
押す賃走ボタンの、なんと重いことか。
ピッと、乾いた音を聞いた琴誇の胸は、はちきれそうなほど、負に染まっていた。
だが、それでも、この異世界は。
琴誇に、ドコまでも、ほほ笑みかけることはない。
ギャンブル走行の開始と、ともに、心に、ため込んだ負の感情は。
強制的に、声と一緒に吐き出され。
脳内麻薬が正常な思考を、ドンドン食い潰していく。
見方は、人それぞれと言うが。
この異世界に来て、一番の被害者は、間違いなく琴誇だろう。
幸運は、いつまでも続かないモノである。
だからこそ、琴誇から見える、フロントガラスからの景色は。
静止しているのだろう。
車内に轟く、全力回転のエンジン音。
キョロキョロと、車内から、周りを見渡す、アリサのとぼけた顔に対し。
ナビィの眉間には、しわが濃く刻まれ。
琴誇の信じたくない、一心を込めた、声が。
きしむ筋肉が、事の重大さを、より一層、浮き彫りにさせているようだ。
日もまだ、上がりきらず。
森に中に、薄く、たちこめる霧が、今を演出していた。
車内に、右拳を叩きつける音が鈍く響き。
ドライバーが、けして味わいたくない結果を、琴誇は飲み込み。
アクセルから足を外し、そのままハンドルに、もたれかかる。
「終わった…」
「なに、どうしたの琴誇?」
「アリサさん、黙っていてください。琴誇が、ぶん殴りますよ?」
「え。ついに私は、発言権まで、なくなったの!」
アリサさんと、いつものふざけた空気に、水をさすナビィの声が。
勘違いしているアリサに「はい」と、だけ答える。
「こんな時まで、僕を使って、アリサをいじるのか…」
琴誇は、車から降り、柔らかい地面を踏みしめる。
背後を見れば、二本のわだちが、車からのびていた。
車内で固くなった体をのばし、痛みすら感じる体に、眉間にシワを寄せる。
森の中ということもあり。
人里では味わえない緑と、土の臭いを胸一杯に吸い込み。
琴誇は、「あ~」という声と、息を吐き出した。
車のタイヤに視線を下ろせば、車体下が地面と、濃厚にキス。
段々と、地面に、タイヤが沈んだのだと。
目に見える全てが、静かに琴誇に語りかける。
琴誇が、新車を買うまで眺めていた、雑誌の数々。
早く買いたい欲求を、ぶつけ続けた本で身につけた知識が。
今を、最悪と判断して良いとおっしゃっている。
タイヤは車体から、突き出るように地面と接している。
タイヤの三分の一が沈み、動かなくなると。
手押しで、何とかなるかもしれない、イエローカード。
タイヤの半分が沈んだら、レッカー確定のレッドカードだ。
そして、一番怖いのは、タイヤが沈みきり。
車体が地面についてしまうことである。
車の心臓部はエンジンだが。
エンジンから力をもらって動いている、機械達は、座席下に集中し。
車を真下からのぞきこめば、ビッシリと、車体下に集中し、駆動している。
いくら心臓が元気だとしても、人間の体は、それだけでは動かない。
心臓は、血液をおくり続けるポンプであり、根幹的な器官だが。
その力を使う、内臓や筋肉がなければ、意味がない。
ブレーキ、アクセル、ギアチェンジ。
誰にでもわかる、車にとって、絶対に必要な駆動機関。
どれかひとつでも、かけてはならない機能部が、集まっているのだ。
車の最大の弱点は、スグに、へこんでしまうボディなどではない。
戦車と同じく、車体下が最も弱く、もろい部分であり、一番大事な部分だ。
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異世界完全遭難のネリナル 白の章 完結済み
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