用心棒とか、必要だと思うんだ 11
「分からないって…。
生まれた土地がドコか、分からないんですか?」
ガルフは、目をつぶり、言葉を選ぶように口を開いた。
「…目が覚めたら、この町いた。…覚えているのは、ガルフという名だけだ」
「アリサ。全部、分からないってさ」
アリサのひきつる笑顔は、断るセリフを考えているのが、すけて見える。
だが、ココで話を、なかったことにすれば。
傭兵を再度、探し回ることになる。
いないことは、ないかもしれないが。
時間的余裕は、もう、食べ尽くしただろう。
新しい人材を、見つけ出す、時間的余裕がないのは、容易に想像できる。
複雑な心の葛藤が。
なにも仮面を張り付けていないアリサの顔に、ありありと浮かぶ。
「次から、次へと…。
思い付きで何かすると、こうなるって。
南の管理者様は、教わらなかったんですか?」
「しょうがないんだもん。コレしか、なかったんだもん」
ガルフは、涼しそうに剣を抱えたまま、アリサの隣に座りこんでいる。
「ガルフさん? 思い出したら、もとの世界のこと、教えてくださいね」
「こ、琴誇。なに、ガルフさんに、失礼なこと、言ってるの!」
アリサの言葉の語尾に。
「断れなく、なっちゃうじゃない」と、ついているのは、間違いない。
焦るアリサとは違い、ガルフは、初めての疑問を口にした。
「…どう言うことだ?」
「アリサと話ができない時点で、この世界の人間じゃないんですよ?」
ガルフは無言で、琴誇の言葉を待つ。
茶色い前髪の向こう側から、催促する目線に促され、琴誇は、話を続けた。
「僕と同じで。
この、四大陸と中央島の、四龍が造り上げた世界以外の。
ドコか、から来たんだと思います」
「…なんのために?」
「ナビィ。僕は、なんのために、ココに来たの?」
「え? たまたま、面白そうなヤツだと思って見てたら。
かわいそうなことに、なっちゃったんで。
コチラに、連れて来たって、自分の耳で聞きましたのよね?」
「ガルフさん、連れてきたヤツの気分です!」
「…気分、か」
ガルフは、無造作に前髪をかきあげ。
その、風格に見合わない。
女性のようにシュっとした、奇麗な輪郭をあらわにする。
整った顔立ち、小さな鼻。
だが、整ったパーツの中に、そぐわない物が一つ。
まるで白い紙の中央を、ハサミでえぐったような。
整頓された中にある、どうしても、ぬぐえない不調和。
目だ。
おおよそ、目というパーツ全てが、別物のようにすら見える。
細められた目元。
そこから半分見える黒い瞳を見ると、心が吸い込まれそうな気すらしてくる。
髪に隠れ、見えなかった顔の左半分には。
眉からアゴにかけて、一本の長い切り傷があり。
自由に瞳が動く右目と違い、左目が閉じられたままなのを見れば。
左まぶた裏の目は、まったく機能していないのだろう。
前髪で顔半分を隠しているのは。
このキズを隠す意味合いが、強いように思われた。
「…ならば、ちょうど良い」
「何がです?」
「…このまま、王都へ向かうのは」
「だって、アリサ。よかったね」
「これ、私がいなくても、良かったわよね?」
「何を言ってるの。アリサがいなかったら、誰が、ガルフさんを雇うんだよ」
「私って、お財布なの?」
「……」
正解だと言わないのは、優しさだ。
仮に、真実だったとしても。
「アリサさん? 自分で勧誘できないからって。
琴誇に、当たるのは良くないですよ?
そもそも、ガルフさんを雇うのは、アリサさんのためです」
「私じゃなくても、ガルフさん、ついていきそうな勢いじゃない」
「ガルフさん? 雇い主は、隣のアリサさんですからね」
ガルフは、アリサを、いちべつすると。
一言「ああ」と答えた。
それが、ますます気にくわない、アリサの頭に、琴誇の手が乗せられる。
「ね。アリサは、すごいから」
「とりあえず、すぎるんですけど?」
「それでは皆様。
話はついたと思うので、そろそろ、次の話しても、イイですか?」
「どうしたの、ナビィ?」
「全部、解決したとか思って、安心してるんじゃねぇぞ、オマエら?
このまま、走り出せると思うなよ?」
琴誇は、何を言われているのか分からず、ナビィを見るが。
無言を、かえされるだけだ。
外を見れば真っ暗、それならライトを、つけて走れば良い。
そう、思い込んでいた自分の間違いに、琴誇は気づく。
後ろを振り返り、アリサに、暗い顔を向けた。
「一応、聞くけどさぁ? この町を出る道も、来た時と一緒?」
「森に囲まれてるんだから、当たり前じゃない」
シレッと、言い放つアリサに、琴誇は、イラ立ちを覚え。
どこを通っていくのかを、少し考えれば、すぐに分かることだ。
このまま走り出せば、夜間ギャンブル走行が待っている。
昼町は違う。
街灯もない、視界ゼロの状態の闇の中、森抜けをする。
夜間ともなれば、大抵の動物が動き出す。
虫も、いそいそと活動する時間帯。
そのなか、ハイビームで走る車は、山中に強く光る、虫寄せネットだ。
大量の虫を、車体で押しつぶしながら、進むことになるだろう。
えげつない視界不良が、確定である。
フロントガラスにへばりついた、虫の死骸は。
ワイパーですら、なかなか落とすことがデキない。
さらに言えば、この世界は異世界だ。
フロントガラスが割れるようなサイズの虫が、体当たりしてきたら。
ゲームオーバーだ。
フロントガラスを割る、サイズの虫。
500ミリの缶ジュース一個分の大きさと、重さがあれば十分。
人にとっての夜と。
動物・虫にとっての夜は、全く違う。
そもそも、野生動物は、熟睡などせず。
浅い眠りを繰り返しながら、生活しているのだから。
夜は寝る時間。
正しいようで、間違った認識かもしれない。
今から、そんな森を、何も見えない状態で突き抜けていくのは。
自殺行為以外の、何物でもない。
琴誇は、背後から静かに突き刺す視線を背負い、ハッキリと宣言する。
「よ、夜明けと、ともに出発! 皆、解散!」
一日という時間をかけて、話は、一周しようとしていた。
声を聞いたアリサは。
素直に、ドアレバーに手をかけるが。
ナビィが、ピシャリと引き留める。
「アリサさん、何してやがるんです?」
「え、部屋に戻ろうと…」
「おまえら全員、車内待機だよ?」
「ぼ、僕も?」
「それじゃあ、疲れがとれないじゃないの!」
「疲れ?」
ナビィの断固とした態度に、アリサと琴誇の目線は、左右に逃げていく。
「車内待機ですよ? みなさん? 夜明けとともに、出発です」
車内に、反論できるものは、誰もおらず。
ガルフは、なにも言わず、後ろの座席で、目を閉じるだけだった。
「面白い!」「続きを読みたい!」など。
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異世界完全遭難のネリナル 白の章 完結済み
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