用心棒とか、必要だと思うんだ 10
「アリサさんは、学生時代、勉強しか、してこなくて。
社会的応力が低い人なんですかね?」
「良い大学出てきて、学力の高いけど、プライドが高くて。
コミュ力低くて、正論を並べ続けて。
まわりに嫌われるヤツって、言いたいんだね?
しかも、そのくせ仕事はできない」
「琴誇も、分かってきたじゃないですかぁ~」
「興奮ぎみに言われても。
学力と、人の能力は別ものだって、僕がやってた、バイト先の店長の格言だから」
「よく、その言葉を、鵜呑みできたモノですねぇ~。
普通は、終わってしまった学力社会を自覚できないで、反論しそうなものなのに」
「アレを見ろと、先輩二人を指差して言われたら、反論できないでしょ」
「良い、社会勉強を、してきましたねぇ~」
「その場で出来上がった格言にしては、完成度が高すぎたなぁ~」
と、後部座席のドアが開かれ、アリサが座席に腰掛ける。
「もう、僕が扉を開けなくても良いね。アリサ」
「ん。よく分からないけど、この人、乗せるわよ」
流れのまま、剣士を乗せようとするアリサに、ナビィが叫ぶ。
「ちょぉおおっと、まったぁあ!」
「なによ。ちゃんと、つれてきたのよ。今度はなに?」
「ちゃんとつれてきましたね、はい。馬小屋から」
「そうよ、今度は、任務達成よ!」
「その人、汚いんじゃ、ボケなすが!」
「……」
「この乗り物を、なんだと、思ってやがりますか!?」
剣士の身なりを見れば、小綺麗であるハズもなく。
馬小屋に寝泊まりすると言うことは、屋根つきの路上で寝るのと、大差はない。
アリサのように、お金に余裕があれば、ちゃんとした部屋に泊まるのだろうが。
馬小屋が、宿として機能している以上。
普通は、寝泊まりする場所に、ソコまでお金を、かけないのだろう。
流れ者なら、おおよそ、お金がかかるのは、食費だ。
寝泊まりする場所に、お金をかけるぐらいなら。
良い食事をとりたいと考えるのは、自然だろう。
風呂、寝室といった、一般生活に必要だと思われる、全てが。
贅沢の部類に含まれる、と。
すぐ近くに立つ、剣士の身なりが、琴誇に教えてくれていた。
「じゃあ、会話だけさせてよ」
アリサの一言が、琴誇に、冷や汗を浮かばせる。
「アリサさん。なに、言ってやがるんです?」
「なにって。言葉が通じないから、ココで、ちゃんと話をしようと思って」
「言葉も通じない人を連れてきたんですか? 追われている自覚、あるんです?」
「……」
「もうさ、首だけでも良いから、中に入ってもらおうよ。話が進まないから」
琴誇が促すと、剣士は、車内をうかがうように、車内を見渡した。
「すいません。お名前、イイですか?」
前髪で隠れ、その奥からのぞく右目が、ピクリと動いたように、琴誇には見えた。
「…言葉が分かる?」
ボソりと、剣士が、こぼした言葉を。
琴誇は、あえて無視して会話を続けた。
話が進まないからである。
「すいませんが、その人に付いて行って。
着替えと、お風呂に入ってもらえますか。話は、それからにしましょう」
「…ああ。分かった」
「お名前は?」
「…ガルフだ」
「では、ガルフさん。そのように。アリサ」
「はいはい?」
「早めに戻ってきてね」
琴誇は、つとめて笑顔でそういった。
「ね、寝ないわよ?」
そう言って消えた姿が。
再度、姿を見せたのは、日が落ちた頃だった。
「やっぱり、あのアマ、鼻毛でも抜いてやりましょうか?」
「ナビィの手が汚れるよ?」
「そっかぁ…」
アリサと、ガルフを後部座席に向かい入れ。
「それで、何、してやがるんです?」
「私は、女なのよ!」
言い訳は、健在のようだった。
「僕に、矛先が向くような発言、やめてくれないかなぁ?」
「私は服まで、ぜんぶ洗えとは、言ってないんですが?」
「汚いんじゃ、乗れないんでしょ!」
「アナタが、女子なのは認めます。
男性の着替えも、なにもかも、待つしかない。当然ですね。
だけど、服が乾くまで待て、とは言ってないんですよ?
本当に、追われている自覚、あるんですか?
馬鹿なんじゃ、ないんですか?」
「だって、そうしなきゃいけないと、思ったんだもん」
やはりお嬢様だった。
「ナビィ? もう、アリサの心は、いっぱい、いっぱいだって」
「で、ガルフさん。こんばんは」
「こんばんは、に込められたものが、アリサをなじってるよ、ナビィ?」
急に話をフラれたガルフは、目線だけを、ナビィに向け。
「話は、聞きましたか?」
ガルフは、小さく首をふる。
「え、マジです!? アリサさん!?」
「言葉、通じないんだから、仕方ないんだもん!」
「ガルフさん、この隣のアリサが雇い主で。
護衛を頼みたいんですけど、どうですか?」
ガルフは、すぐにうなずく。
「よかったね、アリサ。最悪の状況にならなくて」
これで、ダメだと言われてしまえば。
今日一日を、本当に無駄で終わる所だった。
アリサにとって、こんなに、嬉しいこともないだろう。
安心しきったアリサは、いつもの調子を取り戻したらしく。
通常営業モードに移行した。
「護衛は、王都までなんですけど、給金は、いくら払えばイイですか?」
「…分からん」
ガルフの静かで落ち着いた声は、ハッキリと車内に響き、全員の顔を凍らせる。
まだ、負けだと決まっていない。
それだけを胸に、アリサは、果敢にも、虎穴に踏み込んだ。
「えっと、ガルフさんは、言葉が通じないけど、ドコの生まれなのかしら?」
「…分からん」
静かに首をふる姿だけでも、絵になるたたずまいは。
言葉に、強い説得力を与える。
「アリサ? ちなみに、この世界に言語って、いくつあるの?」
「四龍様が現れてから、そういった問題を解決するために。
ほぼほぼ、共通言語だわ」
四龍は、細かい言語文化すら、調教したらしい。
「つまるところは、一つと」
「部族ごとに、独自の言語があるけど。
基本的には、共通言語とセットで学ぶわ」
国際言語、日本で言えば、英語のようなモノかもしれない。
「部族内にいて、共通言語を覚えていない人もいるけど。
その場合でも、私には対応できるハズなのよ。コレがあるから」
アリサは、自分の胸に手をあて、自信満々に言ってのけるが。
彼女は、まだ気づけていない。
彼女は、この世界にある言語なら、すべて話せると言っているのだ。
だが、龍の知恵をもってしても、会話不可能な存在がいる。
今、話しかけている、琴誇を筆頭として。
車内の翻訳機が、気づかせないのだろう。
この翻訳機は、便利なようでいて、不便だ。
「ガルフさん、生まれはドコですか」
「…分からん」
「面白い!」「続きを読みたい!」など。
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異世界完全遭難のネリナル 白の章 完結済み
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