表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/247

グリーンランドは、あっち! 5


 新しいジャパンタクシーは、初めて走行距離0から。

 タクシー車両として使用されているが、この先は分からない。


 タクシー車両は。

 アスファルトの上を、キレイに走ることさえ。

 一般ドライバーに、扱わせたら、難しい。


 アスファルトの上以外、走ることを、そもそも、想定していない。

 むしろ、走ってはいけない車なのだ。


 悪天候のとき。

 タクシー乗務員の出席率が、大幅に下がる理由は、ココにある。

 事故リスクが、非情に上がり、車体が傷つくため。

 事故と傷の責任を取らされるぐらいなら、有給で休むからだ。


 タクシーが。

 積雪、ユルい土の上を走るのは、タイヤどうこう、以前の問題。


 そもそも、悪路を走ることに、そぐわない。

 いざというときの、馬力がない。

 スタッドレス・タイヤを履いていても、気休めにしかならない。


 二種免許を使って行う業務の重みを知る瞬間だろう。


 10人新人がいれば、半分は、借金をこさえて半年以内にやめ。

 一年もすれば、4人になり。

 三年続くのは、1人いるかどうかだ。


 一般乗用車以下の性能で。

 一般乗用車以上の成果を求められるのが、タクシーの運転手であり。


 自分の身は自分で守り。

 油断すれば、スグに事故り。


 事故は、運の要素が強く絡んでくるのだから。


 タクシーを、長く続けるなら。

 事故らない運転を大前提としても。

 最後にモノを言うのは、運だ。


 売り上げも、事故も、出会いも。

 タクシーを、長く続けられる人物は。

 タクシーのドライバー席に、選ばれた人物でなければならない。


 同じ走行をしていて、事故率の優劣がつく原因は見えるが。

 あるレベルまで行くと、何も言えなくなる。


 さて、そろそろ気づく時間だ。


 この異世界で、力業の最終手段を決行するには。

 もっとも、そぐわない車だと。


「ハハ! 楽しいわねぇ!」


 なにも知らず、タクシー利用者のように、能天気に乗っていられれば。

 さながら車内は、遊園地のジェットコースターだ。


「琴誇、もっと、アクセルを踏めないの!?」


「もう、ベタ踏み、いっぱいだって!」


 溝にはまり、車体が強引に地面に乗り上がるたび。

 ハンドルを、シッカリと両手で押さえ込んでも、車体は左右に蛇行する。


 ハンドル操作で、まっすぐ戻そうとすると、また、溝にハマる。


 溝にハマるたび。

 命のスピードメーターは、上下を繰り返し。

 30キロ以下になると、エンジン音だけが、やたら車内に響き。

 止まるか、止まらないのか。

 どちらに転んでも、おかしくない車窓からの風景に。

 琴誇は、奥歯をかみ締める。


 身体中から、嫌な汗がふき出し。

 顔は正面に、くぎ付けに。


 両手は、常に小刻みに。

 車体を安定させようと、奮闘を続ける。


 緩めたら終わる、アクセルを踏み込む右足は、恐怖に、震え上がり。


 戻りたい、帰りたいと、全力で叫ぶ心が。

 琴誇の運転操作を、揺さぶり続けた。


「琴誇! もう、引き返せないんです! 

 やりきる以外の選択肢は、もうあり得ないんです!」


「心が、心が折れる!」


 溝を車体が脱出するたび、衝撃が車内を突き抜け。

 急激な速度変化は、停止したと錯覚させる。


 再度、高まるスピードメーターが、そうではないと、琴誇の目に訴え続け。

 解放されたと思えば、すぐに、また胸を握りつぶされる。


 もう終わりだという希望を持てば。

 その喜びが、大きいだけ。


 たまたま、速度が上がり続ければ。

 ハズレを引きまくり。


 くりかえし、くりえし。

 なんども、心の棒に、重機で突撃されたような衝撃がはしる。


「荷馬車でも、はまっちゃう道を、こんなに速く行くなんて!

 やっぱり、たくしぃ、ってスゴいわね!」


「は?」


 アリサ本人に、悪気は全くない。

 体が跳ねるのすら楽しんでいる、顔に浮かぶ表情を見れば、誰にでも分かるが。


 運転席側の二人の息を止めるには、十分すぎる。


 励まし続けたナビィは。

 フロントガラスから見える風景だけを見据え。


 琴誇の口からこぼれていた、心の叫びは、ピタリと止まる。


 ナビィの首は、ゆっくりと、頭を背後の座席に向かい。

 琴誇の左手は、バックミラーを手繰り寄せた。


 ナビィの目、バックミラーに写るアリサの顔に。

 二人は、全く同じ感情を、自分達の目線にこめる。


「絶対に許さない。絶対に、だ」 

「絶対に許しません。絶対に、です」


「え! なんなの、急に!」


 エンジンの高回転音を周囲に響かせ。

 老骨の車体を、ギィギィ鳴らし。

 そのたび、硬いドライバーシートは、琴誇の腰を突き上げる。


 背筋だけが、衝撃を受け止めようと作業していたが。

 もう痛みを感じるほど、疲弊していた。


 何も答えない二人に。

 アリサは、気まずさを感じ。

 顔を、のぞきこもうと助手席に、体を寄せるが。


 見えるのは、無表情で運転する、琴誇の横顔だけ。

 アリサは、ゆっくりと後部座席に体を預けた。


「ごめんなさい…」


 アリサは、バックミラーから視線を感じ。

 ナビィの顔が、見えたことに胸をなで下ろすが。

 二人の視線は、すぐ、フロントガラスに飲み込まれていく。


 しばらくの沈黙に、アリサは、ひどい焦りを感じ。

 口を開こうとしたアリサに、ナビィは、振り向きもせず答えた。


「アリサさん。一つだけ、お伝えします」

「う、うん」


「今さら遅いです」


「え! ちょっと、え! どう言うこと!?」


 アリサは、キョロキョロと左右を見渡し。

 自分の間違いを探すが、見つかるハズもなく。

 視線は、バックミラーへ向かった。


 琴誇は、ミラー越しの視線に目線を送り。

 修羅場になった車内に、奥歯をかみ締め続けた口を開く。


「様とは、二度と呼びませんから、そのつもりで」


「べ、別に、好きに呼んでくれて良いのよ?

 それぐらい、許してあげても良いわよ?」


 アリサ、精一杯の強がりは、単調な敬語が押し潰す。


「許してあげても良い? ですか…」


「どうぞ、好きに呼んで下さい。私に、こんな…」

 の先の言葉は、ミラーから送られる視線に、いなされ。


「いえ、お好きに呼んで頂けますか?」


「イイんですか?」


「お願いします」


 琴誇は、一度、大きく息を吸い。

 声と、ともに、全てを吐き出した。


「この、ダメ貴族がぁ!」


 何度も頷くナビィの背後で、目を丸くしながら、笑い出すアリサの顔。


「名前ですらないわ!」

「ソコじゃ、ないでしょう?」


「好きなように、私のファーストネームを、ちゃんと呼んで欲しいわ」


「天然のアリサ」

「てんねん? って…」


 翻訳機の機能を呪う瞬間だ。


 日本語で存在する概念や、単語が、外来語に存在しない場合。

 相手に通じる言葉で、勝手に単語を組み合わせ、表現している場合が多い。

 英語の機会直訳と変わらない。


 言葉を、どんどん作り出せるのは。

 日本語の美点であり、汚点だろう。


 こと、翻訳機なんて物を使っている場合は、とくに。

 琴誇は、運転に集中し、少なく許された頭のキャパシティで。

 苦しく決定案を語る。


「アリサ。もう、敬語を使わないからね」

「ええ、よろしく」


 ナビィからのぞいた、琴誇の顔には、しわがより。

 背後のアリサは、始めて見せる、素直な笑顔を浮かべている。


「何が、そんなに、嬉しいんですか?」

 声を、かけられたアリサは、驚きを浮かべ、やがて静かに頷いた。


「嬉しい、か… うん」

「煮えきりませんね?」


 ニヤニヤと、笑い出すアリサの顔に。

 ナビィは、かける言葉を飲み込み。

 フロントガラスから広がる、地獄と向き合った。

「面白い!」「続きを読みたい!」など。

少しでも、思った方は。

ぜひ、ブックマーク、いいね よろしくお願いします。


それだけで、皆様が思われている以上に

モチベーションが上がります。


お読みの上で、何かお気づきの点や、ご意見ございましたら遠慮なく


ツイッター @chicken_siguma

URL  twitter/chicken_siguma にて、DM または


chickenσ 公式ライン @729qbrtb

QRコード http://lin.ee/iH8IzAx にて 承っておりますので。


今後とも、長いお付き合いよろしくお願い致します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ