グリーンランドは、あっち! 5
新しいジャパンタクシーは、初めて走行距離0から。
タクシー車両として使用されているが、この先は分からない。
タクシー車両は。
アスファルトの上を、キレイに走ることさえ。
一般ドライバーに、扱わせたら、難しい。
アスファルトの上以外、走ることを、そもそも、想定していない。
むしろ、走ってはいけない車なのだ。
悪天候のとき。
タクシー乗務員の出席率が、大幅に下がる理由は、ココにある。
事故リスクが、非情に上がり、車体が傷つくため。
事故と傷の責任を取らされるぐらいなら、有給で休むからだ。
タクシーが。
積雪、ユルい土の上を走るのは、タイヤどうこう、以前の問題。
そもそも、悪路を走ることに、そぐわない。
いざというときの、馬力がない。
スタッドレス・タイヤを履いていても、気休めにしかならない。
二種免許を使って行う業務の重みを知る瞬間だろう。
10人新人がいれば、半分は、借金をこさえて半年以内にやめ。
一年もすれば、4人になり。
三年続くのは、1人いるかどうかだ。
一般乗用車以下の性能で。
一般乗用車以上の成果を求められるのが、タクシーの運転手であり。
自分の身は自分で守り。
油断すれば、スグに事故り。
事故は、運の要素が強く絡んでくるのだから。
タクシーを、長く続けるなら。
事故らない運転を大前提としても。
最後にモノを言うのは、運だ。
売り上げも、事故も、出会いも。
タクシーを、長く続けられる人物は。
タクシーのドライバー席に、選ばれた人物でなければならない。
同じ走行をしていて、事故率の優劣がつく原因は見えるが。
あるレベルまで行くと、何も言えなくなる。
さて、そろそろ気づく時間だ。
この異世界で、力業の最終手段を決行するには。
もっとも、そぐわない車だと。
「ハハ! 楽しいわねぇ!」
なにも知らず、タクシー利用者のように、能天気に乗っていられれば。
さながら車内は、遊園地のジェットコースターだ。
「琴誇、もっと、アクセルを踏めないの!?」
「もう、ベタ踏み、いっぱいだって!」
溝にはまり、車体が強引に地面に乗り上がるたび。
ハンドルを、シッカリと両手で押さえ込んでも、車体は左右に蛇行する。
ハンドル操作で、まっすぐ戻そうとすると、また、溝にハマる。
溝にハマるたび。
命のスピードメーターは、上下を繰り返し。
30キロ以下になると、エンジン音だけが、やたら車内に響き。
止まるか、止まらないのか。
どちらに転んでも、おかしくない車窓からの風景に。
琴誇は、奥歯をかみ締める。
身体中から、嫌な汗がふき出し。
顔は正面に、くぎ付けに。
両手は、常に小刻みに。
車体を安定させようと、奮闘を続ける。
緩めたら終わる、アクセルを踏み込む右足は、恐怖に、震え上がり。
戻りたい、帰りたいと、全力で叫ぶ心が。
琴誇の運転操作を、揺さぶり続けた。
「琴誇! もう、引き返せないんです!
やりきる以外の選択肢は、もうあり得ないんです!」
「心が、心が折れる!」
溝を車体が脱出するたび、衝撃が車内を突き抜け。
急激な速度変化は、停止したと錯覚させる。
再度、高まるスピードメーターが、そうではないと、琴誇の目に訴え続け。
解放されたと思えば、すぐに、また胸を握りつぶされる。
もう終わりだという希望を持てば。
その喜びが、大きいだけ。
たまたま、速度が上がり続ければ。
ハズレを引きまくり。
くりかえし、くりえし。
なんども、心の棒に、重機で突撃されたような衝撃がはしる。
「荷馬車でも、はまっちゃう道を、こんなに速く行くなんて!
やっぱり、たくしぃ、ってスゴいわね!」
「は?」
アリサ本人に、悪気は全くない。
体が跳ねるのすら楽しんでいる、顔に浮かぶ表情を見れば、誰にでも分かるが。
運転席側の二人の息を止めるには、十分すぎる。
励まし続けたナビィは。
フロントガラスから見える風景だけを見据え。
琴誇の口からこぼれていた、心の叫びは、ピタリと止まる。
ナビィの首は、ゆっくりと、頭を背後の座席に向かい。
琴誇の左手は、バックミラーを手繰り寄せた。
ナビィの目、バックミラーに写るアリサの顔に。
二人は、全く同じ感情を、自分達の目線にこめる。
「絶対に許さない。絶対に、だ」
「絶対に許しません。絶対に、です」
「え! なんなの、急に!」
エンジンの高回転音を周囲に響かせ。
老骨の車体を、ギィギィ鳴らし。
そのたび、硬いドライバーシートは、琴誇の腰を突き上げる。
背筋だけが、衝撃を受け止めようと作業していたが。
もう痛みを感じるほど、疲弊していた。
何も答えない二人に。
アリサは、気まずさを感じ。
顔を、のぞきこもうと助手席に、体を寄せるが。
見えるのは、無表情で運転する、琴誇の横顔だけ。
アリサは、ゆっくりと後部座席に体を預けた。
「ごめんなさい…」
アリサは、バックミラーから視線を感じ。
ナビィの顔が、見えたことに胸をなで下ろすが。
二人の視線は、すぐ、フロントガラスに飲み込まれていく。
しばらくの沈黙に、アリサは、ひどい焦りを感じ。
口を開こうとしたアリサに、ナビィは、振り向きもせず答えた。
「アリサさん。一つだけ、お伝えします」
「う、うん」
「今さら遅いです」
「え! ちょっと、え! どう言うこと!?」
アリサは、キョロキョロと左右を見渡し。
自分の間違いを探すが、見つかるハズもなく。
視線は、バックミラーへ向かった。
琴誇は、ミラー越しの視線に目線を送り。
修羅場になった車内に、奥歯をかみ締め続けた口を開く。
「様とは、二度と呼びませんから、そのつもりで」
「べ、別に、好きに呼んでくれて良いのよ?
それぐらい、許してあげても良いわよ?」
アリサ、精一杯の強がりは、単調な敬語が押し潰す。
「許してあげても良い? ですか…」
「どうぞ、好きに呼んで下さい。私に、こんな…」
の先の言葉は、ミラーから送られる視線に、いなされ。
「いえ、お好きに呼んで頂けますか?」
「イイんですか?」
「お願いします」
琴誇は、一度、大きく息を吸い。
声と、ともに、全てを吐き出した。
「この、ダメ貴族がぁ!」
何度も頷くナビィの背後で、目を丸くしながら、笑い出すアリサの顔。
「名前ですらないわ!」
「ソコじゃ、ないでしょう?」
「好きなように、私のファーストネームを、ちゃんと呼んで欲しいわ」
「天然のアリサ」
「てんねん? って…」
翻訳機の機能を呪う瞬間だ。
日本語で存在する概念や、単語が、外来語に存在しない場合。
相手に通じる言葉で、勝手に単語を組み合わせ、表現している場合が多い。
英語の機会直訳と変わらない。
言葉を、どんどん作り出せるのは。
日本語の美点であり、汚点だろう。
こと、翻訳機なんて物を使っている場合は、とくに。
琴誇は、運転に集中し、少なく許された頭のキャパシティで。
苦しく決定案を語る。
「アリサ。もう、敬語を使わないからね」
「ええ、よろしく」
ナビィからのぞいた、琴誇の顔には、しわがより。
背後のアリサは、始めて見せる、素直な笑顔を浮かべている。
「何が、そんなに、嬉しいんですか?」
声を、かけられたアリサは、驚きを浮かべ、やがて静かに頷いた。
「嬉しい、か… うん」
「煮えきりませんね?」
ニヤニヤと、笑い出すアリサの顔に。
ナビィは、かける言葉を飲み込み。
フロントガラスから広がる、地獄と向き合った。
「面白い!」「続きを読みたい!」など。
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