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届け、この歌声。

作者: いやぎ あり


ミーンミーン。

ミーンミンミン。


あっちこっちで響き渡るセミの鳴き声。

夕方になっても誰も居ない家で、一人きりの時間はゆっくりと進む。


スマホどころかインターネットすら繋がっていない子供の頃、私の友達はラジオだった。


ラジオカセットレコーダーに空のテープをセットして録音する準備をする。


昔のことでラジオの番組の名前までは覚えていないが、私の好きだったラジオは、リスナーの手紙を読んで、勇気が出るような音楽を流してくれる内容の番組だった。

たまにリスナーの状況に合わない音楽をセレクトして流してしまうこともあるけど、音楽の最後にパーソナリティがなぜこの音楽を選んだのかを説明してくれる。

それに共感することやこんな考え方もあるんだなと感心して聞いていた。番組内容を抜きにしても知らない音楽をたくさん聞くことができたことが何より好きだった...


実を言うと録音は音楽だけだった。

この日も音楽だけを録音して一時停止のボタンを押しておく。暫くしてまた音楽が流れると一時停止ボタンを再度押して録音を再開する。タイミングを逃してパーソナリティの声が入ることも音楽が終わる前に切ってしまうこともしばしばで、きれいに音楽だけ録音することは至難の業だった記憶がある。


録音テクニックはともかく、録音が全部終わると家族の誰かが帰って来るまで、録音した音楽を何度も何度も繰り返し聞く。

この日も同じように録音した音楽を繰り返し聞いていた。

すると録音を一時停止した前後に不思議な音感になることに気が付いた。

ふっとこの不思議な部分だけを録音してきいてみたいと思うようになっていた。


カセットテープが主流だった時代。

ある歌手の音楽をデープを逆再生すると、「殺して」に聞こえる、ある歌手の歌はテープを早く再生すると、呪いのメッセージが聞こえるなどの都市伝説的な話もたくさん流行っていた時期だったので、これは面白いネタ話になると考えていたと思う。


家にはもう空のテープが無かったので、すでに録音済みの別のテープを持ってきた。

不思議な音感になる部分だけを録音して聞いてみると、、


「だーすきゃてをはすなゆうき」


妙な音に違う歌手の声。

ちゃんとした文章にもなっていないげど、、

何度も再生して聞いているうちに、、


「助けて手を離すなユウキ」という声が聞こえるような気がした。


ユウキはうちのお兄ちゃんの名前と同じだったし、何か面白いと思った私はお兄ちゃんが家に帰って来たら、聞かせようと思った。


最近事故で病院に入院していたお兄ちゃんが今日退院する。暫く待っていると、お兄ちゃんと一緒に両親が帰ってきた。

目立つ外傷は無く、いつも通りお兄ちゃんに私はあれこれ話をした。優しいお兄ちゃんはつまらない私の話を全部聞いてくれた。

そして持っていたテープをお兄ちゃんに聞かせた。


それが優しいお兄ちゃんの最後の姿だった。


テープの音楽を聞いた日。

お兄ちゃんは突然発狂して病院に運ばれた。

その時から今もずっとボーッとして遠いところを焦点のない眼で何かを追っているだけのお兄ちゃん。


親に聞いた話だとお兄ちゃんは友達と水遊びに行って溺れてしまった。その中の一人は運悪く亡くなったそうだ。

詳しい内容までは知らないが、ただの事故では無かったのだろうか。

それともただの事故だったが、その歌がお兄ちゃんの心を傷付けてしまったのだろうか。


たまたま繋ぎ合わせのラジオの音楽でお兄ちゃんの名前に聞こえる歌。

この繋ぎ合わせの歌声を届けてしまったことを今も後悔している。


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― 新着の感想 ―
[一言] 偶然なのか友達の呪いなのか… カセットテープに音楽を録音って懐かしい! 私もやってました。
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