ああ、寒い。
ぎし、となる座り心地の悪い木製の椅子から立ち上がる。季節はまだ春だというのに、なぜこんなにも寒いのだろう。外でなる風や雨音が原因なのか、それとも別の原因があるのか。
ちらりと窓の外に目を見やる。外の木はまるで生きていて、痛みに悶えているのかというほどにその身をしならせているし、時折ピカリと閃光が視界を覆う。もし前者だったらもうしょうがないといえる。私に『自然』をどうこうできる力はない。『自然』というものは古くから人類にとっての恵みや希望となり、同時に滅びや破滅の象徴であるからだ。雷の電圧は約一億Vであり、その温度はなんと3万℃にまで及ぶ。太陽の表面温度はおよそ6000℃と聞いたことがある。あくまで表面であり、本質は定かではないが、”雷”というものは間違いなく”太陽”というものよりかも熱いのだ。星が勝てないのだからちっぽけなボウフラである私が『自然』という災害に対して何ができようか。これに三度打たれてもなお生きる人間がいるのだから驚きだ。
しかし、こう考えるとまだ希望が持てるのは後者か。別の原因か、と言っても私には何の見当もつかない。確かにここは山にある古小屋だが、そこまで寒くはならないはずだ。さらに今は暖かいはずの春。なおさら簡単には寒くならなくなるはずなのだが......まあいい。こんなことを考えている暇があったら執筆に戻るとしよう。その前に少し白湯でも注ぐとしよう。こんな寒くては凍えて死んでしまう。担当がこちらに来た時に見たのが私の死体で、原稿の代わりに手錠を渡されてはかなわない。ホラー作家が恐怖を駆り立てる殺人や、自殺でもないただ低体温症での死亡とは笑い事にならない。確か外の倉庫にやかんをしまっていたはずだ。足をゆっくりと踏み出す。さあ、取りに行くとしよう。