第67話 あっれぇ……
さて、どうしようか。
考えてみてもいい案は浮かばない。
とりあえず、攻めてみるしかないか。
そう決意し、フォイルを見て、頷く。
フォイルも頷き、返してくれた。
「シッ!!」
強化された脚力で地面を蹴り、同時に翼を勢いよく羽ばたかせ、リアリスへと距離を詰める。
フォイルとの戦いで翼で飛ぶ感覚は大分掴んだ。
結構難しいんだよ?本来無い器官で飛ぶというのは。
まぁ、スキルによるアシストもあるんだけどね。
先ずは様子見の一撃。
翼で得た推進力と体の捻りを加え剣を押し出す。
手応えはない。なにか沼にでも剣を突き立てたような感覚。
それもそのはず。
私の放った突きは空中に現れた影に飲み込まれていた。
彼女が何かしたようには見えない。
つまりは、自動防御型の影魔法か。
「リーン!それは≪影魔法:黒穴≫だ!
そのスキルは受動設置型で、攻撃を防ぐ。
ここは数で押し切るぞ!」
そう言ってフォイルは今手にしている聖剣とは別の……以前私と戦った時に手にしていた聖剣を取り出し、細かく分裂させていく。
私と戦った時に見せたあれだ。
私はそれを見つつ魔法を発動させる。
(≪火炎庫≫、【炎魔法:炎弾】!)
私の有り余る魔力をもって作った数十の炎の弾をリアリスに打ち出す。
色々な角度をつけて打ち出したけど、全て防がれてしまった。
それはフォイルの聖剣も同じらしく、全て防がれていた。
と、思ったけど違ったようだ。
リアリスの足元や服に焦げ跡があるし、彼女の腕には僅かながら切り傷もある。
まぁ、すぐに治ってしまったが。
でも、一応防御が無敵でないことは分かった。
それなら手段はいくらでもある。
後方にいたハヤトに指示を飛ばす。
魔法での物量戦となれば彼ほど適任の者は居ないだろう。
「ハヤトっ!あんたのスキルでリアリスの足を止めてて欲しい!!頼んだ!」
今もフォイルとリアリスに斬りこんでいるため簡単な指示になったが分かってくれるだろう。
『わかった』と言うように彼は頷き、周囲に魔法陣を展開する。
「≪魔法の書≫、【水魔法:氷槍】プラス【風魔法:追い風】」
ふ、複合魔法かよ…。
あんたスキル使いこなすの早くない?
ハヤトの繰り出した氷槍が後ろからの風によるブーストを受けて物凄い速さで飛んでいく。
その数、ざっと100ほど。
それを全てコントロールしているのだから彼の魔法センスには驚かされる。
そのまま氷槍はリアリスに着弾。
私の炎弾数発が通ったならこれは防げまい。
───と思っていた。
どうして現実とはこうも上手くいかないものなのか。
そこには無傷で、口元に笑みを湛えたリアリスが立っていた。
「さっきは、油断してたからね?調子乗るんじゃないわよ!」
「ま、所詮人間はこの程度みたいね?ざーこ」
うわ、めっちゃイラッてきた。
とりあえず私はリアリスから距離をとる。
それにあわせ、フォイルも距離をとった。
「うん、今から私のターンだね」
彼女の声のトーンが一段下がる。
私は身構えるが……先程の場所に彼女は居なかった。
────ッ!!
咄嗟に≪六感強化≫の危機感知に従い聖剣を自身の右後方に滑らせる。
ガキッ!とルキアとリアリスの影の剣がぶつかる音が響く。
影の剣なのに実態があるのか…?!
そう疑問に感じていると、影の剣がルキアをすり抜け、私の脇腹目掛けて迫る。
(流石にこれは避けられない……!)
そう思った時、
『ご主人様には触れさせない…!ハッ!!』
ルキアが自身から聖光を発した。
すると、影の剣は霧散し、リアリスはまたどこかへ消えてしまった…。
その一部始終を目で捉え、私は一つの結論に達していた。
そうだ、どうしてこんな当たり前のことに気が付かなかったんだ…。
光と影。
この二つは相反する存在だ。
光で照らせば影が出来る。
逆に出来た影を光で照らせば影は無くなるのだ。
そうとなれば…。
「ルキア!思いっきり【聖光】ぶっぱなしちゃって!」
『了解ですっ!ご主人様!』
光の強さはやばいのに、何故か眩しくない。
そんな包み込むような優しい光がボスの間の影を塗りつぶしていく。
「ん、な……影が出せ……」
リアリスが影を展開出来ないことに慌てる。
そんな大きな隙を見逃す私たちではない。
私とフォイルは強く踏み込み、一瞬にして距離を詰める。
こんな小さな子を手にかけるのは気が引けるが、一応は悪魔。
放っておけば厄災となり得る存在だ。
ここで殺しておかなければ…。
私とフォイルは示し合わせたかのようにほぼ同時にリアリスの首へと剣を向けた。
が、2人の剣は当たることなく虚しく空を切った。
「「んなっ?!」」
空振りした剣を引き戻しつつ、リアリスが姿を消した方を見やる。
スローモーションに流れる景色の中で見えたのは……
惚れ惚れしてしまうほど綺麗な《《土下座》》であった。
「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ!!」
涙を流し、謝罪の言葉を並び連ねる彼女には先程までの傲慢さなど微塵もなく、まさしく『こいつ誰やねん』状態だった。
いや、あの、リアリスさん、さっきまでの威勢は何処へ……。
高貴なる悪魔の家系としての威厳はどこへ……。
私とフォイル、そして支援組のシリカちゃんとハヤトもただ、その姿を呆然と見ることしか出来なかった。




