第63話 未踏破ダンジョン……めんど
それから私たちは朝食を済ませて、ハヤトとシリカちゃんを迎えに行った。
どうやらハヤトのスキルの試し打ちをしていたらしい。
付き添いのシリカちゃんからは『ヤバい』の一言が出たので、多分ほんとにヤバい。
そしてその足で向かったのが今目の前にぽっかりと口を開けているダンジョンという訳だ。
「ここが、未踏破のA級ダンジョン、『悪魔の館』だ。」
「名前で分かるように、悪魔や、死霊系の魔物が多く出没するダンジョンだな。」
なるほど……。
そこで私はこのダンジョンが未踏破のままである理由に思い至った。
「神聖魔法や、光魔法が弱点の魔物が多く出没するダンジョンって事は、パーティーにその属性が扱える者が必要なわけだ」
「でも、その使い手は少ない。しかもA級となれば敵も強いからそれなりのレベルが必要……だから攻略するパーティーが少なくなる、と」
そうフォイルに聞き返す。
「そういう事だよ。んで、騎士団長たる俺と、≪神域装備≫を扱えるお前がいるこのパーティーに《《国から》》依頼が来たわけだ」
ん……?今なんつった?
「国からの依頼なんすか?!これ!」
ハヤトが私が言うより早く驚きを露わにする。
「ほんとに?私で大丈夫かなぁ?」
と不安げなシリカちゃん。
「ま、大丈夫よ。騎士団長様がいるもんねぇ?」
目で煽る。
「はぁ、俺を散々ボコしたお前が言うか?それ」
「まぁね。何があってもシリカちゃんだけは守るよ。騎士団長のあんたも、チートスキル持ちのハヤトも大丈夫でしょ」
というか私がシリカちゃんを守りたいだけなんだけど。
「ま、国の依頼だとしてもいつも通り行けばいいんじゃない?今までは3人でどうにかしてきたんだし」
結局そういう結論に落ち着き、気を取り直してダンジョンに潜る事にした。
◇◇◇◇◇
「わぁ、結構広いんだねリーンちゃん!」
と、うちの天使がはしゃいでおります。
「そだね〜ダンジョンの名前的にも、もっと狭くて暗いのかと思ってたよ」
ダンジョン内部には等間隔に夜光石が設置されていて比較的攻略が進めやすくなっていた。
「まぁ、未踏破つっても流石に浅い階層は攻略されてるからな。まだここら辺はスケルトンとかの比較的弱い魔物しか出なかったらしい」
まぁ、そだよね。
浅い階層から攻略不可能なら一冒険者である私たちに頼まずに、国を挙げて攻略に当たるか、封鎖するかの措置が取られると思うし。
こんな感じで駄弁りながら足を進めて第5階層までやって来た。
「ここからは一応到達はしているが、まだ完全に整備の行き届いていない層になるから気をつけて進もう」
「ん、りょーかい」
ま、気楽に行きましょうか。
「俺は一応探査魔法使っとくね」
そう言ってハヤトが魔法を使う。
「≪魔法の書≫、【探査】」
魔力の波動がハヤトを中心に広がっていくのが感じ取れた。
なるほど、こんな感じなのか。
私にもできるかもね。
今度やってみよ〜。
「あ、約3メートル先。十字路に魔物が2体かな。どっちも小さいけど……」
私とシリカちゃんを先頭に、(いやお前ら前行けよと思いつつ)進む。
そして……
「「きゃぁぁぁぁ!!!」」
私とシリカちゃんの2人の悲鳴が響く。
そして、そのままダッシュで逃げた。
むりむりむりむりむりぃ!!
あれだけはむり!
雑魚モンスターの仲間だけどほんとに無理!
なんで!
ノーマルのはあんなに可愛いのに!
「どうした?!」
そう言ってフォイルが覗き込む。
そして、ジト目で私たちを見ると、
「なんだよ、たかがアンデッドスライムじゃねぇかよ」
とか言ってきた。
「はぁ?!頭腐ってんの?!問題大アリじゃねぇか!」
「リーンちゃんの言う通りだよ!そのスライムは……アンデッドスライムだけはダメなの!」
女子2人のクレームがフォイルに飛ぶ。
何が起きたのかよく分かっていないハヤトは
「フォイルさん。そのスライムは何なんですか?」
と、聞いている。
「あーこのアンデッドスライムって言うのは粘液を飛ばして《《服を溶かす》》スライムなんだよ」
「あーそれは2人の反応も分かるなぁ…。よし、ここは俺がサクッとやっときますね」
「≪魔法の書≫、【光魔法:ライトニング】!」
ハヤトが前に突き出した手から光の槍が2本飛び出し、スライムに当たる。
ジュッ!という音と共にスライムは小さな魔石2つを残して消滅した。
おぉ、彼の者が勇者か…。
「ハヤトっ!!ありがと!マジで感謝!どっかの騎士団長とは違うわ!!」
「ハヤトくん!ほんとにありがと!か…かっこよかったよ!」
2人してお礼を言われたからか少し恥ずかしそうにするハヤト。
いや、違ぇな。
これはシリカちゃんにあんな満面の笑みでかっこよかったって言われたからだな。
解せぬ。
一方、完全に取り残されたフォイル。
光魔法で先の通路のスライムを殺して回っていたそうな。




