第62話 最悪の目覚め
夢を見た……。
以前、スキルが進化した時とは違って、起きてからも内容をはっきり覚えているほど衝撃的な夢。
「はぁ…はぁ……なに…?今の」
起きた時──もちろん≪目覚まし≫は鳴ってない状態で──全身汗びっしょりで、鼓動は高鳴り、息は上がっていた。
そんな夢の内容はこうだ───
場所はおそらく戦場だろう。
私の周囲は重装備に身を包む騎士たち。
その全員が《《私たち》》に剣を向けていた。
ここで、さっき言ったことを訂正しないといけない。
夢の内容をはっきり覚えている、と言ったけれど、私と共に剣を向けられていた人物。
それだけが靄がかかっているように思い出せないのだ。
んー、と思い出そうとしてもダメ。
まぁ、続きを話すとしよう。
それで、私は身を【戦乙女で包み、手にはルキア。
しかし、それでいて私の身はボロボロだった。
それは、隣に立つ何者かも同様で…。
というより、むしろその人の方が酷いまであった。
そのまま膠着状態が続いていた…が、すぐに崩れることとなった。
「くっ……」
隣の人が遂にダメージで膝を着いたのだ。
それを待っていたと言わんばかりに突撃してくる兵士たち。
私はスキルの力を最大限に引き出しつつ、彼のカバーに回る。
彼……?
そうだ。
隣にいたのは男性…だったはず。
そして、その彼も懸命に体を動かし、防御を重ねる。
しかし、その時は来てしまった。
私の目に映るは彼の腹に深々と突き刺さる剣。
傷口と口の端から血を流し、地面に倒れる彼の姿。
そこから急に場面は切り替わり、戦場にポツリと1人立ち竦む私の姿。
その姿は血に濡れた鬼。
返り血で全身を濡らし、髪の先からは滴っていた。
そんな私の足下には冷たくなった彼の亡骸。
そこで、目が覚めた。
───これが今朝見た夢の内容。
「どうよ、これ。マジで最悪の目覚めなんだけど」
場所は私とシリカちゃんの家。
いつもの様にフォイルを招き、朝食をとっていた。
ハヤトとシリカちゃんは2人でダンジョンへ出かけた。
今はフォイルと2人で食べてるのである。
それで、私の今日見た夢の内容を話してたわけ。
語り手口調でね。
「へぇ、疲れてんじゃねーのか?」
「それに…お前の周りの男って言ったら、俺かハヤトぐらいだぜ?そんな簡単に死ぬと思うか?」
そう言われたらそうなんだけどね……?
「まぁ、そこまでガチで捉えてる訳じゃないけどね?妙にリアルだったもんだからさぁ……」
そこなんだよねー。
そのせいで記憶に尚のこと残るっていうか。
「んで、そこにシリカやハヤトはいたのか?」
「それがね、思い返してみても居なかったと思うんだよね」
「なら、そこまで気に病む必要は無いんじゃねーのか?パーティーだし、お前とシリカが離れて行動するとは考えにくいし」
確かにそうだ。
私たちはパーティーだから基本的に一緒に行動するだろう。
戦争となれば尚更だ。
まぁ、別れざるを得なかったというのも考えられるけど。
ま、所詮は夢。
そこら辺は考えたところで仕方がないかぁ。
「まぁ、そだね。これ以上考えるのもあれだし。忘れるかぁ」
「ん、そうした方がいいと思うぞ」
気を取り直して、フォイルに今日の予定について聞いてみる。
「んで、今日はこの後どーすんの?」
フォイルはトーストを飲み込み、口を開く。
「今日は、俺も非番だからハヤト達を拾って、ダンジョン攻略だな」
騎士団長が非番ねぇ……。
そりゃ休みもあるだろうけど、こいつポンポン休んでる気がするけど大丈夫なのか、騎士団よ。
「ほーん。どっか行くとこは?目星付いてんの?」
そう私が聞くと、『よくぞ聞いてくれました!』と言わんばかりの勢いで言い始めた。
「今日行くダンジョンはなんと!《《未踏破のA級ダンジョン》》だ!!!」
うへぇ、聞くんじゃなかったぜ…。




