第61話 神殺しの依頼
「神を、殺す……?」
聞き間違いかな?ね?
「はい。そうです。リーンあなたには神……正確にはね、創造神を殺してほしいのですよ」
私の耳は正常らしい。
話の内容は全く以て異常だけど。
「創造神ってあの神話に出てくるこの世界を作った方ですよね?」
「はい。しかし、正確には違いますね。彼が創ったのはこの"世界"ではなく、"あなたの住む星"ですので。この世界自体を創った方はまた別におられます」
「その彼女はとても良い方ですよ」
彼、Fがそう呼んだことにより私が殺してと頼まれている創造神とやらは男性であることがわかった。
ま、わかったところでなんだという話なんだけど。
「でもさ、世界を創った奴なんでしょ?そして神。そんな奴に勝てるの?」
神に勝てるほど私強いつもりないんだけど。
「今は無理でしょうね。スキルを作った私が言うのもなんですが、あなたのスキルの可能性は未知数なのです。」
「あえてスキルの限界値を決めず、そして使用者の魂の形にそって成長するようにプログラムされていますからね。つまりは神を殺せ得たる存在になるかどうかはあなた次第なのです」
「あーそれで熟練度の上限がエラってたのか。私次第ってプレッシャー凄いな」
そこで私はある考えに思い至る。
「さっき異世界とも繋がってるって言ってたけどもしかして……」
「はい、そのもしやです。私が異世界人をこの世界に呼びました。神を殺す道具として。あなたが出会ったのもそのうちの一人です」
はぁ、やっぱりか。
「で、そのうちの一人って言うけど何人呼んだの?」
「確か45人ですね。世界各地のあらゆる場所、境遇、身分に転生、または転移させています。転生した者は5歳で向こうの世界の記憶を思い出すように、転移した者は言語理解のスキルを会得できるように設定されています。言葉が分からなくては仲間を募ったり師を見つけることも出来ませんからねぇ」
なるほど、そこまで考えているわけか。
でも転移者は最初言葉も理解できないからスキルの存在に気付かないのでは?
と、思ったけれどゲームの知識を持っていたらわかるもんなのかな?
向こうの世界の事は分からんなぁ。
「んで、神を殺すとか言う無茶な依頼を私にする意図は?何か理由があるんでしょう?」
"世界"を創った彼女とやらを『良い方』と表現したことから、その創造神とやらが悪いサイドなのは分かる。
けど、殺すほどのヤバい事をしでかすつもりなのか?
「はい……。彼は……創造神ゼロはこの"星"だけでなく、この"世界"を壊そうとしているのです」
ゼロ。
これが私が殺すべき神。
「でも、彼は創造神なんでしょ?なのに何故…」
そこだ。
仮にも彼は創造神。
創ったものを壊すか?普通。
確かに上手く出来なかった物を自らの手で壊すことはある。
でも、これは話が違う。
だって生命だぞ?
私だって他のみんなだって生きてるんだぞ?
なのに「上手く出来なかったから壊すわ」って言われて「はーい」って大人しく殺されるか?
答えはノーだね。
誰がそんな自分勝手に殺されてやるか。
やーっと地獄から抜け出せたのに、神の気分で殺されてやるってかの!バカが!
「はい、確かに彼は創造神なのに世界を壊そうとしています。しかし、理由についてはまだお答えできません。私も分からないのです。彼の意図が」
「それに、私はただの管理人。ここに来て日も浅いですからそこまで調べがついていないのですよ。すいませんね。こんな状態なのに依頼してしまって」
なるほど。実際、ゼロと接しているであろうFですら奴の事は分からないのか。
「ん、いいよ。気にしないで。私も私でやれることはやるつもりだよ。また行き詰まったらここにくるわ」
「はい。いつでも来てもらって構いません。私もその時までに情報を仕入れておきます」
じゃーなーとFに別れを告げ、自室に戻る。
チラッと時計を見ると、ちょうど管理人室に行った時と同じ時刻だった。
向こうに行っている間はこちらの時間は進まないらしい。
それだけ確認していつも通り≪目覚まし≫をセットして眠りについた。




