第56話 騎士団長VSメイド─3 本気
さて、と空中で息を整える。
フォイルがさらに量を増やして剣を欠片にして飛ばして来るけれど、私は≪高速飛翔≫と≪飛行補助≫を駆使して避ける。
うっへ、早いなぁ。
なんて飛びながら思う。
ほんと、空を飛べるってチートだよねぇ。
◇◇◇◇◇
くっそ、全然当たんねぇじゃねぇか。
さらに聖剣に魔力を込めて欠片の量、そして速度を増さすが、あいつには当たらない。
【聖騎士】の称号も持たないのに、神域装備を纏い、聖剣を扱う。
スキルもさることながら、本人も十分チート性能なんだよな。
本人はその自覚もないみたいだけどな……ってあぶねぇ!?
リーンが火球を飛ばしてきた。
「魔法まで使ってきやがった……!!」
さっきの属性測定でわかった事だが、あいつの魔法適正と魔力内蔵量、そして魔力放出量は十分宮廷魔術師並のレベル。
自分の屋敷で働いていたメイドにこんな潜在能力があるとは思わねぇだろ?!
火球が着弾した地点を見てみる。
当たり前のように溶けている。
さっき火の魔石を使ったことにより感覚を掴んだのか前見た時よりも威力が上がっている。
俺は親父に叩き込まれてこの歳で騎士団長の座に就いたというのに。
ったく才能というのは恐ろしいぜ。
さて、俺も本気を出すとするか。
◇◇◇◇◇
ん?
≪六感強化≫によって強化された第六感の危機察知が私の真下に反応する。
疑問に思いながらも一応回避行動をとる。
私がいたところを聖剣が通り抜けた。
!?
危な……!!
透明化って……。
「はぁ!?今のを躱すかよ」
「ま、まぁね。」
フォイルが文句を言ってきたから返しておく。
余裕を装って返しているけれど正直危機察知がなければ当たっていた。
姿、音、気配そして魔力さえも完璧に隠蔽されていた。
「まぁ、俺にはこれしか手がないからやるしかねぇ……」
ヴン。と聖剣の姿がブレて聖剣が複製される。
そしてその一本一本が欠片を生成する。
見ることができたのはここまで。
次の瞬間、《《全てが透明化した》》。
「あの量はマズい!!」
私は≪高速飛翔≫、≪飛行補助≫、≪風魔法:風切≫を発動。
称号【天使】の効果も乗り、飛行速度はぐっと上がる。
これで引き離す……!!
すると……。
前方から危機感知が。
「はぁ!?」
そう驚きつつも空を蹴り、直角ターン。
数瞬後、元居たところを欠片が通り抜ける。
危機感知に従って躱している間にいつの間にか誘導されていたらしい。
そして、その時は来てしまった。
前方に危機感知。
先ほどと同じように避けようとする。
しかしその方向にも危機感知。
というか……。
「囲まれてる……!」
「ったく、すばしっこいんだよ、マジで。捕まえるのがどれほど大変だったか」
したり顔でフォイルが歩み寄ってくる。
「ムカつくわ、その顔」
「へー、そーかい。じゃ、これで勝負ありだな」
「聖剣の乱舞!!」
私を囲んでいた聖剣が透明化を解き、姿を現す。
そして私を傷つけようと収縮する。
はぁ、これはまた何か言われるだろうし使いたくなかったんだけどなぁ。
それは称号【天使】を手に入れたことにより追加されたスキル───
「≪天使の抱擁≫」
背中から翼が生え、私の体を球状に優しく包み込む。
心地いい……。
外の音は聞こえない。
でも今私の周りでは聖剣が待っていることだろう。
さて、どうしようかと考える。
そしてひらめいたことを実行することにした。




