第44話 気持ちの整理を
ハヤトくんと落ち着いて話をするために【異空間家屋】で出した家に来ていた。
「えっと、それでハヤトくん。そのゲームって言うのは遊びの事だよね?」
異世界でも同じ意味で使われてるから分からないから一応聞いておこう。
「あ、はいそうです。でも、リーンさん達が思っているのとはだいぶ違うかもしれませんが……」
「どゆこと??」
そこからハヤトくんの言う『ゲーム』とやらを教えてもらった。
ハヤトくんの世界では機械工学の技術が進んでいて、仮想空間とやらを作れるらしい。
機械の中で私のこの【異空間家屋】よりももっと広い…なんなら世界丸々1つ分を作れるそうだ。
そして、その出来た空間に現実の肉体ではなく、仮想の肉体で入り込むと。
しかし、感覚とか記憶とかはそのまま。
ん-よくわからん。
でも、話を聞くに……
「じゃあ、今のハヤトくんの身体って仮想のものなの?」
ということになるはずだ。
それにハヤトくんは、んーと考えてこう言った。
「確かに、ここが仮想現実なら俺の体は仮想体ってことになるね。でも俺は違うと思ってるんだ」
「と、言いますと?」
違うと思う根拠があるんだと思う。だから聞いてみる。
「えっとな…言いづらい事なんだけど…」
ここまで聞いて、私はなんとなく察していた。
私は自分の中の答えと答え合わせをするもりで、目で先を促す。
こくり、と頷いて彼は先を語った。
「もし、ここが仮想現実なら…リーンさん達はこの仮想空間で作られた存在になる…つまりは…」
彼はここでまた言い淀んでしまう。
出会ってまだすぐだけれど、私はこの子のことをだんだんと分かってきた。
多分、この子はすごく優しくていい子なんだと思う。
だからこの先を言い出せずにいるのだ。
「私たちは機械の中に作られた架空の存在であり、つまりは偽物の命ってことね」
ハヤトくんがぐっ、とした顔をする。
どうやら私の考えは合っていたみたい。
しかし…、
「でも……」
と、彼は続ける。
「俺は違うと思ってるんです。だって、もしここが仮想空間で、リーンさん達がその中の住人、つまりはNPCだとしたら、あまりにも高性能すぎるんです」
よく分かんない単語だらけのことを早口でまくし立てるハヤトくん。
「最新式の人工知能を組み込んだとしてももっと粗があってもいいはずなんです。それに、俺の容姿も現実世界と全く同じで、キャラメイク……容姿の変更設定なんかもなかったから…」
彼はここまで言い終えて一息つき、最後の一言を。
「だから俺はここを本物の異世界なんだと思ってます」
私はここまで聞いて、ハヤトくんには申し訳ないけど、ほっとしていた。
もし、ここが本当に仮想空間とやらで、私が命のないニセモノだとして、この思考、想いをもニセモノだとして、それを知ってしまったら?
多分私は耐えられない。
少し想像しただけで震えてくるほどなんだから。
あぁ、彼はこの事さえも予想してたんだろうなぁ。
私は彼の心遣いに感謝しつつとりあえず今はハヤトくんの話を聞ける状態を作ろうと気持ちを落ち着かせることにした。




