第43話 裏で蠢く悪意
薄暗い部屋。
ただPCの駆動音、ファンの音、そしてとある人物がキーボードを叩く音のみ響く部屋。
その人物はモニターの光を受けるのみなので顔は見えず、男とも女とも区別がつかないでいた。
「マスター、第1フェーズ完了致しました。45人の拉致に成功。続いて第2フェーズに移行しますか?」
PC画面に映った少女から機械音声の無感情な声が発せられる。
「あぁ、頼むよ。キリア」
それに応じるのは淡々とキーボードを叩く人物。
ここはそう……Fとしておこう。
Fは声すらも中性的な声をしていた。
「うん、上手くいったようだね。ったく骨が折れたよ異世界とゲームを繋ぐなんて。45人拉致できただけでも褒めてほしいものだね」
無表情の顔でちらりと壁を見やるF。
「あ、なんだバレてたか」
「もちろんよくやってくれたと感謝しているよ」
出てきては飄々と述べる青年。
「それにしても良いのかい?あれはキミが《《創った》》世界だろ?」
「っはは!それはもう話したろ?もう良いんだ、あの世界には飽きたから」
腹を抱え笑う青年。
「それを分かったうえで※※※……君は掻き乱すモノとして彼らを送ってくれたわけだろ?」
「まぁね……そうだとしてもまさか創造神に世界が壊されようとしているなんて誰も思わないだろうね」
あーあ、可哀そうと言いつつもキーボードを叩く手を止めないF。
「創造神が世界を破壊するってなかなか皮肉が効いてるだろ??」
「それで……一つ聞きたいんだけど、君の名前を呼ぼうとしても※※※になって呼べないのはなんでかな?」
若干の凄みをもって尋ねる青年。
「あ、それはソースコード書き換えて、私の名前を呼べないようにしたのさ。情報漏洩こわいこわい」
無表情かつ平坦で抑揚のない声で言うものだからおちゃらけたセリフも一種の恐怖が湧き上がってくるものである。
「ったく勝手なことを。呼び辛ぇんだが?」
ふむ、と手を止め考える素振りを見せるF。
「じゃあ、Fとでもお呼びください」
カタカタカタ。また少しキーボードを叩くF。
「ステータスウィンドウにもFと表示されるようにしておきました」
「ったく、仕事は早いから文句言えないじゃないか……ま、引き続き頼みますね」
元の丁寧な口調に戻り、そして空間の亀裂を通して神界に帰っていった。
「ふぅ……無駄に神経使いますねあの人は……」
両手をコキコキっと鳴らしたFはさらなる作業へと取り組み始めた。
約1時間後。
大方の作業を終え、画面に映し出された異世界を見ながらFは1人笑みを浮かべる。
「さぁ、君たちには掻き乱すモノではなく、神を降すモノになってもらいましょう。私の愛する者たちのためにね。そのためなら私は神だって食らってやるさ」
タァン、とエンターキーを叩く音がやけに大きく部屋に響いた。




