第34話 強いな、おい
本気のフォイルはとにかく強かった。
練習場を縦横無尽に動き回り、至る所から剣筋が飛んでくる。
てか、斬撃が《《飛んでくる》》。
これもスキルなのだろうか??
「あー全然当たんねぇじゃねぇか!!」
何故、私がここまで見えているのか。
それは単純。
全て躱しているからにすぎない。
そして全部躱せている理由もまた簡単。
例のスキルを使っているから。
「その装備。噂の戦乙女か!!」
「そうだよ~♪」
さっきは使えなかったのにね。
このスキル、ツンデレなのかな?
ま、戦いのときにしか使えないみたいな感じなのかな?
体が羽のように軽くて飛べそうなぐらいだわ。
「……え、てかちょっと浮いてない?」
足元を確認。
うん、浮いてるわ。
そりゃヌルヌル動くわけだぁ。
こーんな事をしてる間にもフォイルは私に攻撃を仕掛けてきている。
躱してるけど。
その時だった。
背中にさっき感じた高揚感からではなく、純粋な恐怖、危機感からの寒気。
そして機器察知から数コンマ秒のこと。
≪五感強化≫が≪六感強化≫に。
それによって第六感。
つまり直感が強化される。
私はその直感に従って上半身をぐっと引き、右後方へずらす。
眼前を鋭い突きが通り過ぎて行った。
「あっ……ぶなッ!」
そこから1分弱、息の詰まるような攻防が続いた。
「あれ、おかしいなぁ。さっきまで余裕だったのに」
ちら、とフォイルを見る。
そこには私と同じ《《金色の装備》》を身に纏ったフォイルの姿。
「まさか、あんたもとはね」
多分フォイルのも神域装備なんだろう。
「そりゃ、一応騎士団長だしな。」
「それに聖騎士の適正もあるからな」
へぇ、職業適性みたいなのもあるんだね。
「適正もなしにそんだけの力を扱えるお前がおかしんだよ、リーン」
「やっぱスキルが壊れてんだな」
「まぁ、それは私も思うね」
そう言いつつ、私は再度構える。
でもその構えはあっという間に崩されることになる。
(何が起こった、の……?)
背中には硬い感触と土と草の匂い。
顔のすぐ右横には剣が突き立てられている。
そして私の目の前にはフォイル。
数秒考えてやっと理解できた。
あぁ、《《一瞬の間に地面に倒し伏せられた》》のか──と。
せっかく進化した≪六感強化≫も働くことなく終わってしまった。
なんだよ、普段頼りなくてへらへらしてるくせして。
ちょっとはかっこいいじゃん。
「うし、勝負あり、だなリーン」
得意げな表情を浮かべるコイツ。
やっぱ、さっきのナシ。ムカついてきた。
「わかったからさっさと退いて?」
目一杯の嫌そうな顔をしてみる。
「へいへい」
そう言って私の上から退くコイツはまだへらっとした顔をしていた。




